第36話 ふわふわっぽいパンも作ってみる
パン生地を寝かせているうちに、ラビハが帰ってきた。
ぐるぐる巻きにして殺した蛇を一匹引きずっているな。
「やっちゃったか」
「狙われてしまったら反撃せねば。ラビハは暗殺者の矜持があるので!」
グッとガッツポーズするラビハなのだった。
あの蛇を一方的に倒せるくらいの実力があるのは確かなわけだ。
この島で、俺の次に強いと言っていいだろう。
「で、どうだった? 石碑はあった?」
「あった。草原をずーっと進んだ所。糸で道筋をつけておいた。ラビハ、有能」
「おー、本当に有能だ」
「ラビハちゃん凄い! 助かるよー」
「ほい、ラビハちゃん。これ堅焼きのパン」
「おーっ、あの作物から作ったパン? どれどれ……」
ガリッとパンをかじるラビハ。
「固い……! 古くなってカチカチになったパンみたい!」
こっちの堅焼きはとにかく保存が効くだろうな。
保存食も兼ねて、メインで食うのはこの堅焼き、もしふわふわパンが成功したら、それは晴れの日に食うものになるだろう。
女子三名がきゃいきゃい言っているのを見つつ、青い草原の攻略はふわふわパンの実験を行った後だ。
こうして本日、堅焼きパンを使ったお祭りのようなものが開かれた。
ついにルナス島の民は穀物を手に入れたのだ!!
ということで、みんなめいめい、スープに付けたり、上に卵を乗せたりして食べるなどしている。
絶賛である。
穀物の美味さを知らなかったところに、この堅焼きパンだ。
そりゃあ美味いだろう。
「下手に甘みや酸味やらが無かったのが良かったな。塩味だけで、クセも少ない。これは主食になるな」
「ええ、殿下。穀物の有無はその地域で人が生きていけるかどうかを決める重大事です。これまでのルナスの地は、人が辛うじて存在できるだけで長く生きることはできぬ地だったのです。ですが」
ジムニが実に嬉しそうだ。
「これで、殿下の領地は人の生き、文化を生み出せる土地になりましたぞ!」
「あっ! そういうことなのか!? そりゃあ凄いぞ! 物凄い一歩じゃないか!」
これはテンションが上がってきたなあ!
「ちなみに殿下、この島には酒がございません。酒を作れるものがありませんでしたからな。ですが今は、クアットロの実とバラカコーンの二種がございます。つまり……二通りの酒を作ることができるのです」
「なるほど……。酒はあった方がいいだろうなあ。この島の人間は馴染みがないものだが、今後増やす予定の他の民は酒を知っているだろう。酒があると無いとじゃ大違いだ」
直近でやらねばならない事業が大量にできてしまったぞ。
こりゃあ嬉しい。
こうして大いに盛り上がった祭りというか宴。
子どもたちは早々に寝てしまい、大人たちばかりが穀物でハイになって夜半までお喋りを楽しんでいたのだった。
あれだな。
穀物に耐性が無いと、それだけでアッパーな気分になれるものなんだな。
そして翌朝。
日に当たらぬところでじっくりと熟成させていたパン生地。
おお、膨らんでる膨らんでる。
発酵というやつなんだろうが、なんで生地は膨らむんだろうな……?
「この島は温暖で、物が悪くなりやすいのですよ。そういうところは柔らかなものを放って置くとこのように膨らむことがありますな。ただし、絶対に生で食べてはなりませんぞ」
「そうなの!? 発酵したものは加熱しないと食えないのか……?」
わいわいと集まってきた領民たちの前で、昨日作った石窯の中にパンが詰め込まれた。
そこに、俺が火を起こす。
「ソードティンダー!」
炎が薪に着火し、じりじりと生地を熱する。
火加減とかは良く分からない。
「私が書籍で読んだ限りでは……」
「知っているのかジムニ!!」
万能だな、書籍!
本当に何でも知っているんじゃないのか、この男。
俺のルナス領開拓は、ジムニなしでは成し得ないな。
いい感じの火加減を聞いたので、俺は風を送り込んだりなどしながら要領を掴むことに徹した。
そして少しして……。
見事、パンが焼き上がったのだった。
「ちょっと焦げたが……いいんじゃないか?」
「うわーっ! いい香りだー!」
「領主様、ついに新しいパンが!?」
「ああ。これが……パンの新しい形。いや、王国では本来の形なんだが……バラカコーンがこの形になることは初めてだろう。ふわふわパンだ。後で正式な名称は考えよう」
実際、パンの表面はカリッとしていたものの、中身は発酵によって生まれた気泡がいい感じの柔らかさを担保してくれて、ふわふわと言っていいできだった。
まずは俺がちぎって食べてみる。
「おっ!? 悪くないんじゃないか? 薄皮のハードパンって感じだ! ちゃんと中身は柔らかくて、しかもバラカコーンの味わいが堅焼きよりも強くなってる」
俺の感想を聞いて、領民がワーッと集まってきた。
押すな押すな。
一人一口くらいだが、全員分はあるから。
皆がちぎったパンを口に入れると、そのふわふわ加減に全員が絶句した。
未知の食感だったんだな。
「こりゃあ……絶対にまた食べなくちゃ」
「ああ、こんな美味いものが世界にはあったんだなあ!」
「領主様! こいつを作れるバラカコーンが、これから手に入るんですか!」
領民たちの目が希望に輝いているではないか。
美味いものがあり、それを今後も継続して食べられるというのは大変な喜びにつながるのだ。
「ああ、その通りだ! バラカコーンの畑は俺が確保する。そこからは、みんなの仕事だぞ! 期待してるからな!」
うわーっと上がる大歓声なのだった。
モネはふわふわパンを食べて、うんうん頷いていた。
「これこれ! 王都で食べたパンの食感ってこうだったよねえ! あっちはもっと複雑な味だった気がしたけど……」
「帝国のパンはこんな感じだよ? これに肉を挟んで食べるの。あとお漬物」
「美味しそうですねえー」
ラビハが説明する帝国流のサンドイッチに、ゼータが目を輝かせている。
うんうん、こちらでもサンドイッチを作るのはいいな!
ぜひともやろう。
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