第35話 パンを作ってみる
「青い草原開拓の途中だが……手に入ったバラカコーンを使ってパンを作ってみようと思う」
「殿下、まず、バラカコーンを乾燥させてから粉にし、これを水で練るのですぞ。そうすることで、寝かせて発酵させて焼くパン向きなのか、そのまま焼く堅焼きパンに向いているのかが分かります」
「な、なるほどー!!」
ジムニの的確な説明に驚く俺。
そしてこの場には、たまには母ちゃん達にいいところを見せるんだと、村の男たちも集まっている。
「皆! この一昼夜乾燥させたバラカコーンを砕くぞ! ひたすら砕いて粉にするんだ!」
「おおおおおーっ!!」
男たちが良い返事をした。
なお、俺の横でゼータと子どもたちも作業をしている。
この作業の間に、ラビハは草原の偵察だ。
石碑を見つけてもらい、蛇との戦闘はなるべく避けるよう伝えてある。
「さて……これに水を混ぜるんだな……? 塩水を? ふむふむ。粉に水が乗って、ぐるぐる混ぜるとダマになって来たな。……どうなんだこれは?」
「どうなんですかね?」
「さっぱりわかんねえけど、なんかもちもちした塊ができたぜ」
「ふむ」
パンを知らない領民たち、そしてパンが焼き上る前の姿をほとんど見たことがない俺。
頼りになるのはジムニだけだ!
「これは固めですな。半分は発酵させ、半分はこのまま焼いてみましょう。その前に生地を寝かせている間に、窯を作らねばなりませんな」
ジムニの指示に、領民たちが感心している。
「ジムニさん、なんでも知ってるんだなあ」
「やっぱすげえお人だよ」
「今までは、この知識を活かせる環境じゃなかったんだな」
「ってことは、ジムニさんが凄いのは、領主様のお陰ってことになるよな」
「領主様はすげえや!」
おっ、なんだか俺が持ち上げられる流れになったぞ。
ちょっと嬉しい。
「いつもはうちらが料理するのに、旦那がやってくれるなんてねー」
「領主様が体を張って頑張ってるのを見て、ついに立ち上がったそうだよ?」
「いいじゃないの! やる気になったんでしょ?」
「男衆の腕前を見せてもらわなくちゃ!」
女子達は後ろでわあわあと感想を口にしている。
エウゴ菜の漬物と、乾燥エウゴ菜で淹れたエウゴ茶を楽しみながらだ。
エウゴ菜、大活躍過ぎる。
さて、窯の作成だが、これは石を積み上げることですぐに作れた。
ターミナルの石畳を掘り起こして、これを組み立てればいいのだ。
「隙間を土で覆って……よし! こんな感じかあ?」
俺と男衆が作業を終えた頃、別働隊は堅焼きパンを焼き上げていた。
「おーい、こっちは焼けたぞ! 多分こんなもんじゃないか?」
なんとも良い香りが漂ってきている。
「では殿下、まずは一口目をどうぞ」
「ああ。じゃあ俺がみんなを代表して、堅焼きパンを喰う……むむっ!」
歯ごたえはサクサク。
噛むと口の中でざくりと崩れる。
バラカコーンの香りが口いっぱいに広がり、練る時に使った塩がいい感じだ。
「これ、割と美味いんじゃないか? いや、この島に今まで無かったタイプの食感と味だ。美味いと言っていい!」
おおーっとどよめく男衆。
そして彼らも、堅焼きパンを食べた。
「うめえ!」
「噛むほどに味が出るな……」
「あー、こりゃ凄い。食べたことない美味しさだ」
そこに、女衆がわいわい押しかけてきた。
「男たちだけで楽しむんじゃないよ!」
「あたしらにもおくれ!」
「どーれ? あら美味しい!」
「これはまた、食事が楽しくなっちゃうわね!」
モネも女性陣に加わって、パンをもりもり食べている。
そして、
「美味しいんだけど、固いなあ……」
「王国で贅沢を覚えてしまったもんな」
「えへへ、あの膨らんだパンが忘れられなくて……」
「じゃあ、それはこの後だな……。鬼が出るか、蛇が出るか……」
「そんな大事なんですかあ!?」
子どもたちも堅焼きパンを作り、美味しそうに食べている。
うんうん、心温まる光景だ。
間違いなく、ルナス領の食生活は新たなステージに入ったと言っていい。
堅焼きパンだけでも全然いいのだが、せっかくなので発酵させたふっくらパンも作れるといいな。
「では諸君! パン生地を寝かせて一晩だ! キウイや子どもたちが食べないように気をつけないとな!」
領民たちみんながいいお返事をした。
えっ!?
もしかして領民全員がターミナルに集まってるのか!?
ほんとだ!!
最年長のばあさんまでいて、堅焼きパンをスープでふやかして食ってる!
このスープでパンをふやかすという発明をばあさんがやったことで、領民たちはわいわいと相談を開始した。
「もしかしてこれ……スープにつけて新しい料理にできるんじゃないか?」
「パンも一緒に煮ちゃうってこと!?」
「凄く濃いスープができそうだ!」
「スープの水気を飛ばしてパンに乗せたらどうだ?」
「そ、そんなアイデアが……!!」
領民たちの間から湧き出してくる無限のアイデア!!
あるものを工夫して食べていた彼らなので、それをパンに応用するだけなのだ。
パンが美味いことが判明したので、ここからは何を試しても全部美味い。
彼らのモチベーションがもりもりと上がっていく!
「これは……バラカコーンの栽培は決定だな。青い草原を早急に開拓して、バラカコーン農場とせねばならない。だが問題は……」
「ええ。領民が足りませんな」
ジムニの言う通りだった。
食材の量が増えれば増えるほど、生産に携わる人間が必要になる。
うちの領民の数だけだと、手が回らなくなり始めているのである!
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