第33話 どんな穀物だろうか
青い草原。
どんな生き物が潜んでいるか分からないし、穀物がどんな形をしたものかは分からない。
ジムニが読み解いたかの書物では、魔人であったらしい筆者が、穀物らしきものの存在を語ったのみ。
絵などは描かれていないから想像するしか無いのだ。
「おじさま、そもそも穀物はどんな形があるのですか?」
「そうだな。俺が知る限りは……麦は細い茎の先にたくさんの実がついているよな。ちょっと地面に絵を描くが……」
サッと地面を切り払って地肌を剥き出しにする。
そこに切っ先でサラサラと麦の絵を描いた。
「おー、ハイザットさん上手! ラビハ感心」
「うんうん、線と棒だけでもなんとなくその麦というのがどういう形なのか分かりますね! 特徴を捉えるのが上手いんだと思います!」
「ハハハ、よせやい、そんなに褒めるのは」
ちょっと気分が良くなった。
「えーと、次に芋だ。これは地下の根っこが太ったものだな。この太った根を喰う。食べ方は麦同様に、色々だ。アースユニ王国で採れる穀物は、基本的にこの二種類だな。なお、麦に擬態しているうちに本当に麦の仲間扱いされてパンの材料になった、デミ麦というやつもある……。麦ではない」
「穀物ではあったんですね?」
「元々は穀物じゃなかったかも知れないんだが、麦に紛れて存在しているうちに麦にそっくりなやつだけが生き残り、それがたまたま穀物みたいな姿をしてたので穀物の一種とされるようになった的な」
「うーわー、訳が分かんなくなりました!」
「大丈夫、ラビハも混乱してる。そんな複雑なこと習ったこと無い」
女子達が混乱したところで、穀物探しに戻ろう。
「いいかラビハ。ここでは俺の剣はあまり振るうことができない。なぜか。この辺りの草原をあらかた薙ぎ払ってしまうからだ。つまり俺は飛燕以外の技をほぼ封じられた状態にある。君が頼りだ」
「おじさまが一息に全部言いました! ラビハちゃん了解です?」
「ラビハ了解! 頑張る!」
欲しい返事をありがとう。
彼女の能力である糸の生成、糸の操作をする力は大いに活躍することだろう。
それは草花を傷つけない柔らかい力だからだ。
「俺がちょっと練り歩いてみて、危険があるかどうか探してみるから。安全なところを、糸を伸ばして探知とかできる?」
「ラビハできるー」
「頼もしい! ぜひお願い」
こうして役割分担も決まった。
ゼータは定位置こと、俺の背中におんぶされながら周囲を見回している。
「私は周囲の分析ですね! 石碑も見つけなきゃ」
「そうだな。石碑があれば、この地域でのゴール地点が確定する。いいぞいいぞ。一人増えて、役割分担が完璧じゃないか。常に俺が能力を縛りながら行動していること以外は完璧だ」
「おじさまは触れる物全てを破壊しますからね」
「そこまで無差別攻撃するわけじゃないぞ」
草原を歩き回る。
ここは見渡す限りにおいて、目立った大型生物はいないな。
保護色猿のような生き物がいてもいいと思うのだが。
地面はふわふわとしており、作物が生育するのに大変良さそうな環境だ。
これはミミズなどが生息しており、土を常にほぐし続けているためかも知れない。
巨大生物がいないことについてだが、身を隠せるほどの高さがある草が存在しないためだろうか。
せいぜい、俺の胸元くらいまで高さの草だ。
いや、高いっちゃあ高い。
それでも巨大生物が入り込んでおかしくないわけだから、いないということは……。
『ジャッ!!』
その時、鋭い音が聞こえた。
瞬時に震える魔剣アドラマント。
俺は剣を抜いている。
目にも止まらぬ速さで飛びかかってきた物を、そこに剣を置くことで切り裂いた。
『ウグワーッ!!』
己の勢いのまま突き進み、真っ二つに裂けたのは大蛇だ。
まあ死んだが。
青い色をした大蛇が、草原に潜んでいたのだ。
妙に平たいな。
「ひゃー、びっくりしました! おじさま、本当に荒事に関しては無敵ですねえ」
「ああ。この島の生物は強力なくせに身を隠すから厄介だが、アドラマントがあるお陰ですぐ感知できるからな。雨燕を使わなくて済む」
あの最速の剣は究極の後の先を可能にするが、周囲の草を丸ごと薙ぎ払ってしまうからな。
「ラビハ捕縛!」
おっと、後ろでは、やはり同じ蛇を糸でぐるぐる巻きにしているラビハなのだった。
優秀!
では蛇の様子を見てみよう。
「おじさまでは一撃で必殺してしまいますもんね。生け捕りにする技はないんですか?」
「剣を抜いた以上生かす理由がなくない?」
「そういうとこですよ?」
どれどれ。
蛇はバタバタとのたうち回っている。
だが、ラビハのぐるぐる巻き糸を外すことができないようだ。
全長は8ティタほど。
デカいのだが、扁平で草原の間を縫って進めるようだ。
そして獲物を捉える時に膨れ上がって……。
これほどの大きさなら、人間を丸呑みにしてしまえるだろう。
その気になったら、保護色猿ですら呑めるかも知れない。
なるほど、こいつらの居場所だから、青い大地は放置されてきたのか。
そしてこの蛇が守っている大地で繁栄しているのが、この青い草……。
「おやあ? この草、転送装置からここまで歩いてきたが、ずっと単一の草ではないか?」
「えっ? 言われてみればそうです! 全部同じです!」
これはつまり、この草原はたった一種類の草によって構成されているということになるのではないか。
即ち、この土地に存在する穀物とは、この草なのだ!
「ハイザットさんハイザットさん」
「どうしたラビハ。何か分かったか?」
「うん。この草……根本のところがぷくっと太くなってて、そこが割れて何か顔を出してる」
顔を出してる!?
俺はしゃがみ込んだ。
良く育った草の根本は、どれも大きく膨らんでいた。
長い楕円形と言っていい形で……。
「割れたところから、白いつぶつぶとした実が見える……! これ、茎そのものが穀物になるタイプなのか~!?」
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