第32話 穀物が食べたくなる
王国に行って気付いたのだが、俺の領地には穀物がないな……!!
これはよろしくない。
何が良くないって、穀物は腹に溜まる。
穀物がないと、エウゴ菜とか魚とか卵で腹をふくらませる必要があるのだ。
いや、多分栄養的には問題なさそうなんだが……。
「穀物が欲しい」
「殿下もそう思われましたか」
「なにっ、ジムニも?」
「はい。私もこの土地に流されてきたときには、穀物のない生活を辛く感じました。ですが、人間が踏み込める範囲に穀物となりうる植物の姿はなく……」
「そうだったのか」
ジムニは本当に苦労したのだろうな、と彼の過去に思いを馳せていたら、この老人がにんまり笑うのだ。
「そう思っていたら、先日持ち帰ってきた書籍の一つに、この島に関する記述がありましてな。なんと、島に自生する穀物らしき植物があるようなのです」
「なにぃーっ!? それってもしかして、魔人が書いたというあの本?」
「はい。私は暇がある時間を使い、解析を進めていたのです。そうしたら、先日読み解いたところから穀物の存在が……」
「なんと!! 回収してきてよかった、王国の書籍!」
俺たちが盛り上がっていると、
「ウグワーッ! まだ勝てねえー!」
ゼータに上手投げで放られた少年が近くを転がっていった。
まーた領民の男子たちをかわいがっているのか。
未だ、同じくらいの年頃の男子で、ゼータに土に手をつかせた者はいない。
絶対王者ゼータ!
「あらおじさま、何か盛り上がってるみたいですね。そろそろ新しい開拓ですか?」
「ああ、そうなる。穀物が食べたいとは思わんか」
「穀物と言うと……」
「あれ! 王国で食べた、パンっていうやつ! 美味しかったー!!」
モネが走ってきて、今にもよだれを垂らさんばかりの表情になる。
生まれて初めて食べる穀物に、彼女は大いに衝撃を受けたのだ。
「やっぱり、穀物は欲しいよな。他の食べ物と組み合わせると、美味さが何倍にも跳ね上がるしな。よし! ジムニが読み解いた書物の記述をもとに、穀物探しに出かけるとしよう!」
「行きましょうー!!」
「あたし、毒見なら幾らでもやるんで!!」
モネの協力も取り付けた。
あとは……。
「待て待てー。ラビハ追跡!」
ブルーキウイを追いかけている、紫の髪の娘だな。
最強の暗殺者集団、十神将に名を連ねる女、呪縛のラビハ。
何故か海で飢え死にしそうになっていたので助けたのだった。
俺に恩を感じてくれているのもあるだろうし、ここから王都方面に戻る手段を持っていないというのもある。
お陰で、ラビハはルナス領の領民として普通に暮らし始めていた。
なお、家は無いから俺の家に寝泊まりしているぞ。
年頃の女がそれでいいのか?
いや、ゼータもいるしいいか……。
「おーいラビハ」
「ハイザットさんだ。なーに?」
「君は十神将なんだろう?」
「ラビハ黙秘!」
「最初に名乗った時に十神将って言ってたぞ」
「そ、そんな……! ラビハ衝撃! 漏らしてはならぬ秘密を漏らしてしまった!?」
「それはともかくとして、ラビハはこの村の食生活が物足りないとは思わないか。具体的にはパンとか麦が足りない」
ハッとするラビハなのだった。
「思う! ラビハ同意! エウゴ菜は色々お料理できて美味しいし、クアットロの実のスープも好きだけど、パンを付けて食べたい!」
「ああ。そこでだ。この島のどこかにあるという穀物を探しに行く。十神将としての君の力を借りたいのだ。俺の力では何もかも破壊し尽くしてしまうからな……」
「おじさまは威力全振りの技か、器用だけど限定範囲しか攻撃できない技の両極端なのです。ラビハちゃんはもっと器用だと思いますし、自衛もできそうなので力を貸して下さい!」
「おー! ゼータちゃんに請われた。友達のお願いは聞いてあげたい。ラビハ承諾」
「ありがたい!」
なお、ゼータとラビハとモネで奇妙な友情が生まれており、ゼータちゃん、ラビハちゃん、モネちゃんと呼び合っているようだ。
俺やジムニみたいなおっさんとおじいさんばかりが活躍するのもよろしく無い。
彼女たちのようなヤングパワーに期待したいところだ。
「おじさまは自分をおじさんだと思っているようですが、別にそこまでおじさんではないですからね?」
「えっ!? 問答無用で俺をおじさま扱いしているゼータが何か言ってる」
「ゼータちゃんとハイザットさんは親子みたい」
「そうですよねー! 最初はパパって呼ぼうと思ってたんですよー」
「パパと言う年齢ではない……。いや、同じくらいの年頃の男でゼータくらいの年齢の子どもがいるやつは多い……。ぐううう」
「ハイザットさん懊悩」
ラビハはそういう構文も使えるんだな。
こうして、転送装置の前にやって来た。
解放されているのは、果樹園につながる赤い転送装置。
洞窟の入江に繋がっている黄色い転送装置。
そして、岩で封がされている青い転送装置がある。
「青の草原。そう書かれておりますな」
書物を片手に説明してくれるジムニ。
「青……ということは」
赤の転送装置は赤い大地に。
黄色の転送装置は、黄色いアガマス号がある入江に繋がっていた。
青い草原というなら、青い転送装置だろう!
「よし、開くか。ほい!」
岩石をさくっと切断しておいた。
「ハイザットさん、今何やったの!?」
「ラビハちゃんの驚きが新鮮でいいですねえー。私、完全に慣れちゃいました」
ゼータは新鮮な喜びを食らう趣味でも身につけたのか?
こうして俺たち三人で、青い転送装置へと足を踏み入れた。
一瞬で視界が変化する。
そこは青。
一面の青だ。
真っ青な草原が眼の前に広がっていた。
ここに穀物があるというのか……!
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