第31話 ルナス島! 本当に帰ってきたぞ
見えた、ルナス島!
あっという間のようだったが、一ヶ月ぶりなのだ。
島にいたのが二週間ほどで、離れて戻ってくるのが一ヶ月。
まだ全然島に馴染んだとは言えないのに、かなり長いこと離れてしまったな。
「おじさまがジーンとしてる」
「そりゃあそうだぞ。あそこは今や、俺にとって帰る場所なのだ。これからはしばらく腰を落ち着け、じっくりとルナス領に馴染んで行かねばな……」
「もしかしてハイザットさんは偉い人なの? ラビハ驚愕」
「おお、言っていなかったな。こう見えて、アースユニ王国の第三王子であり、アースユニ動乱において誰よりも多く自軍の兵士を手にかけて鬼神と恐れられ、島流しにされたのでその島を領土にして遠島伯という立場になったのが俺、ハイザットなのだ」
「情報量が多い!! ラビハ混乱~!!」
「ラビハ、あんまり深く考えても無駄だよ。ハイザット様って色々ハチャメチャだから」
「ラビハ納得~」
納得するんじゃない。
モネは身も蓋もないなあ。
「まあいい。接舷だ接舷!」
俺は頭上の降り口を開くと、上半身を外に出して声を張り上げた。
「ルナス領! 俺は帰ってきた! 遠島伯の帰還だ! みんなー! 生きているかー!!」
そうしたら、近くにいた領民がわらわらと集まってきたのだった。
みんな一ヶ月間、卵とクアットロの実を加えた食生活を送ったせいか、つやつやしてて肉付きも良くなってきているな。
「領主様のご帰還だー!」
「お帰りー!」
「本当に帰ってきたー!!」
「ジムニさんは!?」
「ジムニさんはまだ生きてるのかー!?」
「ここだよここ」
ジムニが俺の前から、ひょっこり顔を出した。
たくさんの本を持ち帰ることが出来、それをずっと読みふけっていたジムニ。
彼も二十年来の知識欲が満たされ、ツヤツヤになっているのだ。
人は栄養のみで生きるにあらず!
やっぱり文化だよな、文化!
ゼータがまた例の呪文を唱え、たくさんの本をアガマス号から取り出すと……。
領民たちからどよめきが上がった。
「あれはなんだ……?」
「四角くて、平たくて……」
「もしかして、あれが本なのか……!?」
本を初めて見たのか!
いやいや、考えてみれば当たり前と言えるだろう。
ジムニが来るまで、読み書きすらまともにできなかった人々なのだ。
世界から隔絶するということは、かくも文化を失い、人間らしさを喪失することなのだ。
俺は彼らに食生活や安全な土地を提供することで、人としての生活を保証し。
ジムニは彼らに知識や勉学を授けることで、人としての文化を醸成する。
これだ。
これがルナス領である。
「おじさま! 立ち止まってないでラビハちゃんをみんなに紹介してください!」
「あっ、言われてみれば」
帰ってきたら、女の子が一人増えていた。
これはこの島にとって、重大な事件と言えよう。
本来、よそから人が来るなんて島流しくらいしかない場所なんだから。
「彼女は海で俺が拾った女の子で、ラビハという。みんな仲良くな」
「よろしくねー。ラビハは礼儀正しい」
ペコっと頭を下げるラビハ。
この仕草が礼を示すものである事はみんな知っていたようで、「オー」とどよめいた。
そして領民たちもペコっと頭を下げる。
凄い光景だ。
「私が彼らに礼を教えたんですぞ」
「ジムニが!? 本当にルナス領の文化を一手に担う男だなあ……。俺はジムニを大事にすることを誓うぞ」
「おじさまが女の子ではなく、おじいさんに愛を囁いています」
「ゼータ、この島で貴重な文化の担い手なのだ。ジムニが持つ限りの文化仕草を次代に伝えていかねばならない。俺はルナス領を文化的な場所に変えたいのだよ」
「おじさまの人間性の拠り所ですもんねえ」
「うむ。今回の帰郷で自分が怪物であることを思い知ったので、その事について異論はない……」
ここで領民から質問が来た。
「領主様! 領主様はこのラビハちゃんと結婚するんですか!」
「領主様はモネと子どもをこさえるんですよねえ?」
「どっちなんですか! 両方ですか!!」
「な、なにぃーっ」
思いもよらぬ攻撃を受け、俺はうろたえた。
な、なんと理外の質問をしてくるのだ!
「それはノーコメントだ。今の俺はそれに答える言葉を持っていない! 旅の疲れがあるから寝るぞ!」
「領主様が逃げた!」
「知ってる、センリャクテキテッタイってやつだろ!」
「無敵の領主様にも弱点があったんだな」
俺はそういう方面の人生経験に極めて疎いので、そっち側からアクションを掛けられると一瞬で詰むのだ。
勇気ある撤退で、我が家に入り込んだ。
そうしたら、俺の背中に糸がくっついている。
糸を辿ってラビハもやってきた。
「ラビハ、任務を請け負ってる。ハイザットさんを監視する」
「ほう、やはり君には役目があったか。十神将と名乗っていたし、君は帝国側の人間なんだな?」
「ラビハは黙秘する」
「無理には聞き出さない。あと、監視するって大っぴらに言って見張るのはどうかと思うなあ……。いや、余計な誤解を招かない、気持ちいい宣言ではあるんだけど」
「だったらラビハちゃん! おじさまがやってる開拓事業に参加しませんか! ラビハちゃんは糸を使って色々なことをできるんでしょう? 船の中で見せてもらいましたから」
「むふー、ラビハ糸使い。蜘蛛のように糸を生み出して、これを使って相手を拘束したり組み合わせて空を飛んだりできる」
「手の内をぺらぺら話してくる……」
「ラビハはこれからは黙秘する!!」
「全部喋った後じゃないか。だが、確かに彼女が十神将で実力者なら、開拓のための強力な仲間になるだろう。よし、監視はしてていいから、明日からの仕事も手伝ってくれ。詳しいことはおいおい説明するからな」
「認められた? 任務がスムーズなのはとってもいいこと! ラビハ了解!」
大変素直なラビハなのだった。
こうして一ヶ月間の里帰りを終えて、俺はまた開拓暮らしをスタートさせることになる。
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