第30話 さらば王都よ! と思ったらなんかついて来る
「兄上、本当に帰られるんですね! マルサイ兄上の首を取って行かれないのですか?」
「相変わらず怖いこと言う妹だなー」
「凄い、ハイザット様が引いてる!」
モネ、うちの妹に俺が説得された訳が分かったかな?
凄い極論を言うのよ。
すると俺が冷静になって、大人にならなきゃな……となる。
世界で唯一、俺に言う事を聞かせられる女だろう。
「おやー?」
「どうしたゼータ?」
「さっき天井に女の人が張り付いてたと思ったんですけど」
「ハハハ、アースユニ王城は幾多の歴史で血にまみれてきた城だからな。女の怨念とかが染み付いててもおかしくない」
「この時代のお城は恐ろしいですねえ。あ、では妹姫! 色々お世話になりました!」
ゼータがペコッと会釈すると、笑顔でべーティアも会釈した。
「どういたしまして。あなたがいるお陰で、兄上がちょっと素直になっているんだと思います! これからも兄上をよろしくね!」
「はい、任されました!」
俺の何が任されているんだ……?
まあいいか。
ジムニがほくほくしているし、帰還するということで決定した。
俺たちは堂々と正門から退場し。
なんか後ろから大量の完全武装の騎士と兵士がお見送りだ。
「マルサイ一世陛下が、即刻の退去を求めておられる。どうか、穏便にそのまま帰って下さい」
騎士団長が俺に告げた。
「言われなくてもそうするよ。じゃあな諸君。必要になったらまた来る」
俺のこの一言に、完全武装の一団が声にならない悲鳴をあげたのだった。
何を怖がっているんだか。
馬車で数日を掛けて、再び港町へと戻る。
なぜか、ずっと王国の兵士たちが俺をつけてくるのだった。
別に今は戻ったりしないって言ってるのに。
戦争が近いんだろう?
俺の監視にそこまで人を割く余裕があるのかね?
港で馬車を手放すと、そこではラディッシュ号が待っていた。
「よう殿下、収穫はあったみたいだな。アガマス号は曳航しつつ守っておいたぜ。なにせ、珍しい船だからな……」
そこでリック船長、俺の後ろにぞろぞろ続く兵士に気付く。
「あ、ああ~。せっかく解放され、仕事もやっていたというのに。ま、また緑の鬼神が戻ってきてしまったあ~。い、命ばかりはお助けえ~」
「すっごい棒読み!」
モネが呆れて突っ込むのだが、ここは俺も付き合ってやるのが筋というものだ。
「わはーはーはー。再びお前たちには案内をしてもらうぞー。さあ、我が船を導け船長~。そうすれば、命だけは助けてやるー」
「あーれー、なんたることー」
ゼータがキャッキャとはしゃぎながら、この茶番を眺めているのだった。
なお、兵士たちは眼の前で繰り広げられたこの演劇に、一応の納得を得たようだ。
「そうか、船長は脅されていたんだな。だったら仕方ないよな、うん。だがこうしてハイザット様が去っていく様を確認もできて、マルサイ陛下もご納得されることだろう」
見よ!
三方を丸く収めるこの茶番劇!!
大人にはこういうのも大切なのだ。
「いやあ、大人って難しいものですねえ」
「あたしには全然わかんないや。ゼータ分かるの?」
年若い女子達には分かるまい。
「ブラウ・ブライ・ノブライト!」
ゼータの呪文とともにアガマス号が動き出し……。
船はゆっくりと、アースユニ王国を離れていくのだった。
船の上で、船長と談笑する。
「いやあ、見事に戻ってこられて何よりだぜ! しかもあんなに引き連れてくるとはなあ……。連中、帝国よりもあんたを怖がってるぜ」
「そうみたいだな。そんなに恐れなくてもいいのに」
その時、魔剣アドラマントがぶるるっと震えた。
微振動くらいだが、確かに危険を告げる。
なんだ?
港で、何かが水の中に入る飛沫が見える。
そのまま、小さいものがプカプカ浮かびながらついてきているような……。
「なんだろうな、あれは……」
「おじさま、何かいたんですか? うーん、なんでしょうあれは」
俺の背中をよじ登ってきたゼータが、小さな物を眺めているのだった。
一見すると、真っ白な玉状の何かなのだが……。
まあいいか。
船はひたすら航海を続ける。
二日目、三日目。
日を重ねて、完全に岸が見えなくなった。
すっかり腕の上がったモネに操舵を任せ、ジムニは船内で読書。
ゼータはお昼寝だ。
俺はのんびりと潮風に当たり、釣りなどする。
ふと、真っ白な玉がすぐ近くにいるのに気がついた。
「うわっ、近づいてきてる。なんだこれ」
「あのー」
玉から弱々しい声が聞こえた。
「喋った!」
「まさかずっと海の上だと思わなくて……。何か、何か水と食べるものはないですか……このままじゃ……ラビハ死んじゃう」
「なんか危機的な響きが聞こえるな。俺は助けを求める者を放ってはおかないのだ」
俺と向かい合って釣りをしていた、ラディッシュ号のロベールが、びっくりしていた。
「旦那! そんな怪しい玉を助けるんですかい!?」
「ああ。水は無限に取れるからな! よーし、ソードクッション!」
剣を使い、正確に玉を跳ね上げる。
そして空中に浮いたそれをキャッチした。
人が一人入ってるくらいの大きさと重さだ。
どれどれ?
これを船の中に引っ張り込んで……。
「ハイザット様、何か釣れました? これまた大きな魚……じゃない! なんですそれー! 真っ白な玉? 糸の塊?」
「糸の塊……そういうことか! そいっ!」
剣を振るって、糸を切り裂く。
中から、紫の髪の女がバタッと倒れ込んできた。
いや、まだ年若いな。
少女と言っていい。
俺は浄水器まで連れて行くと、直接水を飲ませた。
「い、生き返る~」
「エウゴ菜の漬物も食え食え」
「酸味が体に染み渡る~。ラビハ、復活しそう」
「ほう、ラビハと言うのか。俺はハイザットだ」
「ハイザットさんありがとう。ラビハ感謝。不倶戴天の敵だと思って監視してたけど、命を助けられた。十神将は受けた恩を忘れない。あと、もう帰れなそうだし」
十神将……?
どこかで聞いたことがあるような気がするな……。
「まあいいか」
モネが何か物言いたげなのだが、今は操舵に集中して欲しい。
船の食料が心配なのだろうか?
一人増えたなら、魚を釣ればいいだけだ。
何の問題もないからな!
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