第29話 その頃帝国では?
ズクシア帝国。
アースユニ王国の東方に存在する、それなりに大きな国家である。
国力もまあまあアースユニ王国より高く、年々積み立ててきた戦費もいい感じの額になったので、今代の皇帝は軍国主義でやっていく方針であった。
「ガルーダ十神将よ」
「はっ、ここに!」
赤を基調として形作られた、謁見の間。
全ての家臣が並ぶことができるよう、皇城の一階の八割をくり抜いて設計された場所だ。
謁見以外には舞踏会や、高級国民を招いての音楽会などにも利用されているので、実質多目的ホールであった。
皇帝はこういうのを無駄にしないのが得意なのだった。
そこに、十人の影が並んでいた。
ガルーダ十神将。
古代に世界を席巻したという存在、魔神の力を復活させ、それをおのが力として振るう、人を超越した存在である。
彼らは暗殺者として名を知られており、ズクシア帝国は積み立てた軍事費の実に三割という金額を用いて彼らと契約を結んだのだった。
皇帝、ベレイク二世が、玉座から見下ろす。
「時は来た。そなたら十神将が働いたことで、今頃アースユニでは大混乱であろう」
「いかにも。幽玄のアーシマが動きました故」
言葉を発するのは、十神将の中央に立つ黒いマントの男だ。
顔の半分に骨の仮面をつけ、皇帝の前だと言うのに跪くことをしない。
「彼奴の能力はレイスフォーム。幽体をレイスとして飛ばし、相手の攻撃が通じぬ無敵の姿にて、一方的に標的を抹殺する暗殺者にございます。種が知れても、防ぐことは叶いませぬ故にこうしてお話しました」
謁見の間の周囲で、
「おお」
「なんという恐ろしい技だ」
「だが、それならば王国も……」
ベレイク二世も笑った。
「うむ。そなたらと契約した甲斐があったというもの。アースユニめが動揺し、戦うどころでは無くなったところで……我が軍勢が一気呵成に攻める! そして彼の国はついに、我が手の内よ! ははははは! 先王の崩御の後、融和路線であったバザムスを下し、マルサイが王となったと聞いた時はどうなることかと思ったが……。どうやら楽に勝てそうだな」
「はっ、我ら十神将の手にかかれば……。のう、アーシマ」
「……そんな、バカな……。バカな、バカな、バカな……」
「どうしたアーシマ!?」
十神将の末席にいた、顔を白塗りにした男がブルブルと震える。
「我が幽体を切り裂いた!? いや、追ってくる! 斬撃が追いかけてくる! あああ! 我が魂が! 我が生命が遡ってくる刃で……ウグワーッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
幽玄のアーシマが縦に真っ二つになった。
そのまま崩れ落ち、謁見の間の床を赤に染めていく。
周囲からどよめきが上がり、すぐに悲鳴に変わった。
アースユニ王国どころではなく、ズクシア帝国が大混乱である。
「な、な、なに……!? 何が起こった!」
ベレイク二世が問う声に、十神将は答えられない。
彼らだって大混乱なのだ。
何が起こったのか!
「アーシマが死んだだと……!? 後で命のストックで蘇るだろうが、それにしたって一大事ではないか。これは一体……どうしたものか……」
そこで、一つの影が立ち上がった。
紫のマントを纏った細身の影である。
長い紫の髪をポニーテールに纏めている。
「この縛鎖のラビハにお任せを。アースユニ王国に何かが起こったのは確実。であればこそ、我ら十神将が確かめて参りましょう」
それは、まだ年若い女だった。
十神将最年少にして、その身に魔人アルケニーの力を宿す暗殺者。
それが縛鎖のラビハであった。
骨の仮面の男が、スススっとラビハに近寄った。
「頼むぞラビハ。金をもらってるのにサクッとアーシマが死んだからな。我らの面目が丸つぶれだ。必ず情報を持って戻ってくるのだぞ。なお、お前が戻ってこない場合、我らは逃げる」
「頭領、大船に乗ったつもりでいて下さい。ラビハにお任せ」
「頼むよホントに」
こうして、予想外の事態により、帝国による王国への侵略は順延となった。
だが、王国の危機が終わったわけではない。
十神将が放つ次なる刺客、縛鎖のラビハが迫っているのだ!
「あ、ラビハ、王国まで送ってくよ。遠いだろ?」
「助かりますダイード殿! ラビハ感激」
小豆色で巨大な体躯を持つ男が、ラビハとともに謁見の間を去っていく。
それを見送りながら、皇帝はポツリと呟いた。
「本当に大丈夫か……?」
そして、場所は変わって皇城の最も高い場所、尖塔。
そこに糸が掛かり、するすると登ってくるラビハ。
ダイードはふわりと飛び上がってきた。
「背中に乗れ、ラビハ」
「はい!」
ダイードがマントを翻すと、その巨体が変化した。
小豆色をした、エイのような姿の怪物である。
そして、飛翔を開始する。
一昼夜ほど飛ぶと、既にそこはアースユニ王国の王都だ。
「行け、ラビハ! 役目を果たせ!」
「はい! ラビハにお任せ! ダイード殿、ここまでありがとうございます。ラビハ感謝!」
「その口癖だけはなんとかならんかなあ」
ラビハが飛び降りた。
どこからか無数の糸を編み出し、これを体にまとってグライダーとする。
ふわりと、ラビハは王城の塔へと舞い降りたのだった。
「さーて、なんかキモチワルい人だったけど、一応は仲間だったアーシマ殿。ラビハやスレイ姉様のお風呂を霊体で堂々と覗いたりしてきたけど、まあ一応仇は取ってあげてもいいのかも。犯人、どこだー? ラビハ探索~!」
■
「ん? アグラマントが振動したが、微振動だな。大した脅威ではないのか、それとも普通に分かりあえるタイプか。何事も、争うだけではいかんからな」
「兄上はまだ独り言を言うクセが抜けてないのですか」
「だってずっと一人だった時期が長かったからな。ジムニが本を選び終わったみたいだし、もうすぐ帰るからな」
「別にいてくださってもいいのですけど! ですがマルサイ兄上がとても不安定になられるので、できればサッと帰っていただけると! あ、そのうち遊びに行きますね!」
「なにーっ」
俺とべーティアのやり取りを聞いて、モネが唖然としているのだった。
「ハイザット様は妹さんもへんてこなのね……」
「類は友を呼ぶっていいますもんね! 多分、まだまだ変な人が増えるんじゃないですか? あっ、ジムニおじいちゃーん! 本が決まったならまとめちゃいますよー! ファルフォー・ユイリーファ!」
ひとまとめになった本がふわりと宙に浮く。
まるで重さなど無いかのように、それはゼータが手を動かすとふわふわと移動するのだ。
「おお、悪いなあゼータ。頼むよ。いやあ……まさか私も、また本を読めるようになるとは思わなかった! 実に幸せだ……」
うんうん、今回はジムニのための旅だからな。
さあ、島に戻って開拓を再開しようじゃないか。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




