第27話 城門をフリーパスでくぐり抜ける
王都に到着!
ここに来るまでの間に、たくさんの畑を見かけた。
これらが王都の胃袋を満たす食料生産地なのだ。
その実りの象徴とでも呼ぶべきパンを、モネがニコニコしながら食べていた。
穀物の美味さを知ってしまったなあ。
しかしまあ、この辺りは以前とそこまで変わっていないな。
「いえ、殿下。私が流刑にあう前と比べると、皆疲弊しておりますな」
「そうなの? じゃあ、ジムニがいた時より税の取り立てが厳しいんだな」
時代は変わるのだ。
そしてどうやら、少しずつろくでもない方向に変わっているらしい。
あのまま第一王子バザムスが王となっていれば、先王の平和路線は受け継がれただろう。
それはズクシア帝国との不平等な平和関係を維持することに繋がる。
明らかにあれは、この国を痩せ細らせる路線だったと言えよう。
だが、マルサイ一世の治世においては、ズクシア帝国との開戦まで一直線だ。
畑から収穫される作物はより苛烈に取り立てられることになる。
それに、男手は兵士として招集されるだろう。
いやあ、どっちに転んでもアースユニ王国の未来はそんなに明るくない。
「まあ、ジムニ。俺たちの目的は本の入手だ。王国に請われたわけでもないのだから、余計な詮索はやめておこうじゃないか。迷惑がられるからな」
「そうですな……」
ジムニが実に辛そうだ。
うーん、本を選ぶために連れてきたんだが、こりゃ悪いことしたかな。
「そもそもおじさま、この国を追放されたというのにカジュアルな里帰りでござるみたいな顔で戻ってきて何も感じてない辺り、豪胆すぎるのだと思います!」
「なんだって! まるで俺が人間離れした胆力を持っていて人の心が分からないみたいに言うのはやめるんだゼータ」
「あたしからすると、これでもとんでもなく人が多くて、信じられなくらい発展してるところだなーって思うんですけど……。食べ物も全部美味しいし」
モネのいた島と比べれば、王都は大都会も大都会だろう。
さあ、到着したぞ、王都につながる正門。
そこでは武装した兵士が門番として四名立っていた。
「止まれ! 止まれー! 通行証が無ければ通ることまかりならん!!」
「これは困りましたな」
「なに、俺に任せてくれ」
ジムニに言って、俺は馬車を降りた。
「俺の顔が通行証代わりだ。通してくれー」
「俺の顔がだと? そんな、顔だけで通すなどそんなことが許されるわけないだろう!」
生真面目な兵士が俺の言葉に難色を示す。
その背後で、他の兵士たちの顔色がスーッと白くなった。
「お、おい。その人は……そのお方はいいんだ。お通ししろ」
「なんだって? だけど、通行証が無いのに通したとあっては、俺たちが罰せられますよ!!」
どうやらまだ年若い兵士のようだ。
俺の顔を知らない人も、兵士になる時代なのだな。
ベテランは戦場に、というわけか。
戦の足音が近づいているのが分かるなあ。
「いいか。お前は若いから知らないのも無理はない。先だってのマルサイ陛下による反逆者討伐において、陛下の軍は大勝利した。だが、ただ一箇所だけ、どうにもできなかった所があるのだ。数の力でも、魔法の力でもどうしようもなかった。そこにはこの方がおわしたからだ。緑の鬼神。その名は知っているだろう」
「そんな……。それはおとぎ話でしょう? そんな人間がいるはずが……はずが……」
若い兵士が俺を見た。
うんうん、俺は緑色の髪をしている。
珍しいよな。
そして彼の目は、俺の腰に下がった魔剣アドラマントに注がれた。
傍目でも、並ならぬ業物だと分かるだろう。
「いえ、た、例え、伝説的な人物とあっても……通すわけには……」
「俺達がこの方を止めたら、この方は俺達ごと城門を消し飛ばす。そして悠々と城まで向かわれることだろう。無駄なんだよ、俺達がここで虚勢を張っても……! むしろ被害を増やすだけだ!」
そこで、色々知ってそうな兵士が俺に向き直った。
「どうか……どうか、王都に被害を出さないでいただけませんか……! 都には我らの家族もおります! どうか、お願いいたします」
「おう。本を取りに来ただけだから、それを回収したらすぐ島に戻るよ。ちょっとお邪魔するだけだ。安心してくれ」
兵士がホッとした顔をした。
そして、扉を開けるよう指示を出す。
俺たちの眼の前で城門が開いていった。
後ろではモネがポカーンとしている。
「ハイザット様、凄いお人だとは思ってましたけど……なんかとんでもなくないですか?」
「まあな。兄が反乱を起こして、城を制圧しようとしたんだ。それで俺を邪魔だと排除しようとしたので、その軍勢を消し飛ばしたら色々大変なことが起こってな……。俺もその時までは、自分がそんなに強いだなんて思ってもいなかった」
懐かしいなあ。
ほんの数ヶ月前のことなのに、まるで何年も昔であったかのようだ。
「よし、ではまた出発! 行くぞ行くぞ」
馬車に乗り込むと、馬を走らせた。
俺たちは悠然と、城門を通過していく。
フリーパスみたいなものだ。
持つべき者は、圧倒的な武力とそれを知っていてくれる兵士だな。
お陰で血を流さずに済んだ。
戦わずに終われるなら、それが最良なのだ。
「むむむ……」
ジムニは何か言いたげだが、それを口に出せないでいるようだ。
まあ、言わんとしている事は分かる。
この国の行く先に関してだろう。
「おじさまはその圧倒的武力で、ちょっとだけ国を助けてあげたりしないのですか?」
「うおっ! ゼータがいきなり全部言った!!」
俺は驚愕する。
幼女というのは余計な気配りとかしないからな。
思うがままに言葉を紡ぐことができるのだ。
「えー。だがなあ。助けてくれと言われない限りは、手伝うと迷惑なもんだぞ? 余計なことするなと言われるだろうし、俺が力を振るうと、権力関係もややこしいことになるんだ。俺はこう見えて、第三位の王位継承権者だからな」
第一王子は処刑され、第二王子が王となった。
となれば、第三王子はマルサイ兄上の息子クーエルの次が俺というわけだ。
「ま、妹のべーティアにまた頼まれない限りは手を貸さないさ」
「言いましたねおじさま! そういうのは昔の言葉でフラグと言うのです!」
「ゼータの言葉から不穏な気配を感じるな……」
こうして町中を疾走し、王城へ向かっていく馬車なのだった。
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