第26話 王国の様子が明らかにおかしいぞ
アガマス号はあまりにも目立ち、注目の的となった。
そこから降りてきたのが俺だったので、さらに注目されてしまった。
「だ、だ、第三王子!!」
「ハイザット殿下!?」
「どうして緑の鬼神が!?」
「あの方は島流しに遭われたはず……」
「いや、今の乱れに乱れた王国の境遇を見るに見かねてやって来てくださったのだ」
なんだなんだ!?
俺は何も知らないぞ。
なお、人混みの中から突然、
「ハイザット覚悟ーっ!! 兄の仇ーっ!!」
とか突っ込んでくる青年がいたのだった。
俺はゼータが降りるのを手伝ってやりながら、片足をひょいと持ち上げて手加減した飛燕を放った。
「ウグワーッ!?」
青年が錐揉み状態になって吹っ飛ぶ。
そしてドグシャァッ!と落ちた。
ピクピク痙攣している。
「おじさま……もしかして、あのとんでもない技、全身のどこからでも、素手だろうが後ろ向きだろうが撃てるんですか?」
「ああ。飛燕は汎用性に優れた大道芸だからな。暇つぶしに指が一本動けばできるようにしてあるぞ」
「無体過ぎません?」
とは言っても、さすがに後ろ向きで足を使った飛燕では相手を切り裂くことはできない。
せいぜい、あの青年は全身打撲。
運が悪ければ肋骨がまとめて折れてる程度だろう。
ゼータを地面に下ろし、ジムニに手を貸した。
モネは流石、若い成人女性。
自らの力で降りてくる。
そしてふらふらした。
「ああ~! 地面が揺れてる~!!」
「だろー? 俺がモネと最初に会った時もこんなんだったんだ。いやあ、あの感覚を共有できて嬉しいなあ」
「ハイザット様、何気にそこのところは悪趣味~!」
「はっはっは、さあ、王都に向かう馬車を確保しよう」
「おじさまが当たり前みたいな顔で敵討ちに来た人を無視して行動し始めました!」
「だって、俺が関わったって仕方がないだろう? やったことは戻ってこない。俺だって向かってきた相手は敬意を払って対処したんだし、その上で流刑という罰を受けてる。そして彼が俺に一矢報いることは不可能なんだ。あのー、馬車を貸してもらうことはできるかな?」
近くにいた人に交渉を持ちかけてみる。
こちらから出せるものは何もないな。
誠意しか無い。
「ど、どうぞどうぞ! 緑の鬼神が本当だったことを目の当たりにできただけで、俺はもう満足ですから! どうか、どうか命だけは取らないで……」
な、なんて誤解を招く反応をするんだ!
俺は脅したわけではないのに。
とりあえず馬車と馬をゲットできて、ジムニを乗り込ませた。
「わー! 私、馬を見るの初めてです! 大きい!」
「あたしも初めて! これが馬なんだー」
女の子たちは、馬車を牽引してくれる馬にすぐ夢中になった。
人混みの中には、俺をじっと睨んでいる者が何人もいる。
皆、俺に恨みを持つ者たちだろう。
だが、彼らは誰も踏み出さない。
視線から見えるのは、憎しみ以上に恐れだ。
我が身を滅ぼしても果たしたいと思う憎しみや怒りが無いのなら、無茶はしない方が良い。
俺はそう思いながら、馬車を走らせた。
「私がいた時よりも、随分寂れてきていますな……」
馬車は、大きな荷車に幌を付けたような構造だ。
ジムニは御者台の横に座り、港町の光景を眺めていた。
「ああ。文化的なものは多かったらしいが、全てマルサイが引っ込めさせているんだろう。あるいは戦費のために徴収しているんだ。兄は戦争をするつもりだったからな」
「戦を……。ズクシア帝国にですかな」
「その通りだ。アースユニ王国と隣接し、長い間争い合ってきた大国、ズクシア帝国。父は協調路線だったため、彼の代では争いが起こらなかった。だが、領土を侵食されたり不平等な貿易をさせられたりと、色々民間では鬱憤が溜まっていたようだな」
「存じ上げております。私はその状況に異を唱えた。故に、先代の王の手で流刑に遭ったのです。争いを避けるにもやり方というものがございます。先王はそれがいささか……いえ、殿下の前で不敬でしたな」
「いやいや、構わない。俺こそ、その頃は己の世界に閉じこもり、次々に新技を開発していたからな……。あんなに技を作らなくても良かった」
「おじさまが口を開いた瞬間にコミカルな話になりましたね」
「ハイザット様はこういうとこ、面白い人だよね」
真面目な話をしてるんだぞこっちはー。
だが、気持ちが軽くなったのはジムニもだったらしい。
ほっほっほと笑って、この話はそこで終わりになった。
俺たちはあくまで、王都に本を取りに行くだけなのだ。
王国がこれからどんな状況になるかは気になるが、それに関わっている余裕などない。
ルナス島を開拓し、領民たちをハッピーにせねばならないのだから。
馬車の中に金があったので、貸してくれた男に心のなかで謝りながら使わせてもらった。
いつかお返しするからな!
糧食や飼い葉などを購入、どっさりと積み込み……。
港町から、いざ王都へ。
ここからも長いんだ。
途中、第一王子軍崩れの山賊に遭遇。
「止まれ止まれ! ここはアースユニ解放軍の縄張りだぞ!」
「王国解放のために、少しばかり徴発させてもらう!」
「金と食料を出せ! あとは女もだ!」
「なんだと、蹴散らすぞお前ら」
俺が顔を見せたらだ。
「あーっ! あ、あ、あなた様はー!!」
アースユニ解放軍とやら、俺を見て総崩れ。
「だがもうおそーい。放鷹!」
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
というようなことがあったりした。
反乱軍となってしまった、第一王子傘下であった軍勢。
志を失い、ただの賊になってしまっていたのだな。
いやあ、王国、なんかどうしようもない感じになっているのではないか。
王都に本が残っているかなあ……。
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