第22話 赤い大地解放
果樹をエウゴ菜の近くに植えたのだった。
普通の地面だと、赤い大地の水はけが悪そうな状態でも、クアットロにとっては過栄養らしい。
そうなると樹木がサボってしまって実を熟させないまま、落果する。
だがしかし。
このアホみたいに増えるエウゴ菜が常時土の栄養を使う場所なら問題ないだろう。
後は適時、実を植えて増やしていけばいい。
その辺りの研究はジムニや余裕のできた領民に任せよう。
そういうことにしたのだった。
なお、この恐ろしく甘い完熟クアットロだが、子どもたちを集めて食べさせたら、みんな目の色を変えて無言でむさぼり食った。
「種は後で植えるから吐き出せよ。いやあ、それにしても子どもは本当に甘いものが好きだな」
「おじさま、今まで甘いものが無かった環境に、こんな物凄く甘くてみずみずしいものが現れたら劇薬ですよ。みんな強烈な甘味の魅力を覚えてしまいました」
「ああ。だからこそ彼らはきっと、必死になって完熟クアットロの実を作ろうとすることだろう。任せたぞ……!」
「たくさん作って、お腹いっぱい食べたい!」
「また食べたい!」
「頑張る! 増やす!」
おお、子どもたちの間に芽生える向上心!
「私は一口で遠慮しておきましょう。年寄りがあまり食べると体に良くない次元の甘さです」
ジムニは賢いし、節制ができてるな!
横で子どもに混じってガツガツ食べて、種まで食ってしまったモネとは大違いだ。
「種を食べちゃったのはごめんなさい! 後で出てきますから! お尻から!」
「若い娘が尻から種を出すとか言っちゃいかんだろ」
「おじさま、そう言うところは真面目ですよねえ」
「常々、文化的でありたいと願っているからな。俺が文化を失ったらただの殺戮者だぞ?」
ということでだ。
彼らが果実を食べるのを見届けた後、俺はゼータとともに赤い大地へ戻った。
後は石碑を起動させるのみ。
頭上で猿たちの鳴き声が聞こえるが、もう襲っては来ない。
人間は敵ではないというか、襲ってはならないと学習したんだな。
既に、この地域に敵はいない。
そうなれば、猿たちも隣人として呼びかけて置かねばなるまい。
「おーい! お前達! ここは今から凄まじい変動が起きる! 一旦ここから離れたところに避難しているんだ!」
『ムキャ?』『ホウー?』『キャホホウ?』
伝わったかな?
伝わったと思いたい。
向こうには、ゼータと仲がいい子猿、ランチャーもいるからな。
さて、到着したの石碑の前。
ゼータは俺に肩車するくらいの位置までよじ登り……。
「では、行きます! ミーユ・カム・ユーダビン! 石碑よ、目覚めよ!」
いつもの呪文を唱える。
すると、彼女の手から光が放たれ、石碑に繋がった。
沈黙していた石碑が目覚める。
赤い輝きを放ちつつ、やや傾いていた体勢を整え……。
周囲の地形が変化を始めた。
いや、思った以上に変化は少ないな。
ゴツゴツしていた地面が引っ込み、全体的に土が均された歩きやすい地面になった。
伸びすぎていた果樹は次々に土中に引きずり込まれ、ちょうどいい高さに。
地面に撒き散らされていた果汁は、水を流すルートが出現したことで、そこに流れ込んでいった。
気がつくとそこは、ちょうどいい感覚でほどよい高さの果樹が並ぶ土地になっている。
「これは……果樹園だ……! クアットロの実を管理するための果樹園がここだったのか!」
だが、明らかに栄養がありそうな土なので、酸っぱくて熟さない実しか採れまい。
この果樹園は料理用の食材としてのクアットロ畑と考えておくのが良さそうだ。
いきなり果樹が低くなり、猿たちは大いに混乱したようだ。
地面の上をバタバタ歩き回って『ウホウ?』『キキー!?』とか鳴いている。
「言っただろ、大きく変化するって。クアットロが低くなっちゃうと、お前たちの保護色も生きなくなるんだなあ」
透き通った毛の大きな猿たちの姿が、あらわになっている。
頭上を飛び回っていた赤い鳥たちもまた、困ったように旋回するばかり。
猿は彼らの天敵らしく、降りてくることもない。
「あっ、おじさま。これ、私がおじさまに乗れば簡単に取れちゃいますよ。ほら!」
酸っぱいクアットロの実をもいで見せるゼータ。
「ほんとだ。こんなでかくてずっしりしてて、すぐにもげてしまうのに完熟することはないんだなあ……」
「甘いクアットロが食べられるのは、ベヘモスの背中か、私たちのターミナルだけになるのかも知れませんね」
「全くだ」
そんな話をする俺とゼータ。
その間に、この地にいた生き物たちは皆移動していってしまった。
なんというか、ルナス島の各地を解放していくというのは、現地にいた生き物たちの住処を奪っていくことでもあるんじゃないか。
人間は、野生化してしまったルナス島の環境下では生きていけない。
それと同じように、今のルナス島に適応した生き物たちは人間の生きる環境では暮らせないのだ。
「なんともはや……。そこは両立できないよなあ」
「何がです? おじさま?」
「なんでもない。俺は領主だからね。人間の側につくしかないよなーって思ってた所。さあゼータ、戻るぞ」
「はい、おじさま! ここは安全になったから、村のみんなも赤い転送装置を使って収穫にやって来れますね! それにしても……ここって島のどの辺りに当たるんでしょうねえ?」
「さあねえ。ターミナルみたいに村があるところと連続してるわけじゃないから、明日にでもこの土地の隅から隅まで歩いてみるか」
「賛成! じゃあですね、子どものみんなも連れていきましょう!」
「ああ、いいな。そうしようか!」
解放した地域はこれで二つ。
広大なルナス島は、まだまだ人間を拒む大自然に包まれているのだ。
我が領土を拡大する作業は、始まったばかりだな。
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