第21話 巨竜ベヘモス
ベヘモスはあまりにも大きすぎる。
巨大過ぎ、俺達に全く気付いていないのだ。
だから、空中をふわりと飛んですぐさまその背中に着地……。
いや、ここは果樹の上だぞ!
うおおーっ、甘い果実が靴の裏でブチュっと潰れる~!
そして滑る!
「ぬおおおー!!」
程よい感じの深さに剣を突き立て、落下を防ぐ俺なのだった。
ソードクッションでジャンプしたつもりが、いつもと調子が違うな……。
「おサルもちゃんとついてきてますよ、おじさま!」
「おサルも!?」
「ウキャー!」
おかしいと思ったら、俺の腰に子猿がしがみついていたのだ!
道理でバランスが取れないはずだ。
それなりの重さがあるのだろうが、俺としてはゼータをおんぶしている以上、余計なウェイトを背負っている意識でいる。
その状況では、子猿一匹くらいでは大した違いはないのだ。
ただ、ジャンプするとなると流石に違いがあった。
「全くもう……。お前のいた群れの猿はどういう教育をしているんだ。見知らぬ人間の腰にしがみついてベヘモスに飛び移っちゃいけませんとか言われてないのか? 言われてないんだろうな」
「ウキャキャ!」
子猿はすぐさま離れて、落下している果実を拾ってむしゃむしゃ食べている。
「ンキャー!」
凄くテンションが上がってる。
「甘いんですか? 甘いんですね!? 私にも下さい!」
「ウキャー」
「ありがとうございます! どれどれ……? んん~!! あまーい!」
「俺の背中で、勝手に子猿と仲良くならないでもらいたい。まあいいけど。さてっと……ベヘモスの背中は岩場みたいになってて、本当に果樹が実ってるんだな。土は痩せてるように見えるし、明らかに下にある大地の方が栄養のありそうな地面なんだが……」
「んーっ、美味しい果物です! 痩せた大地で必死に栄養分を集めて果物に凝縮させた、植物の命の味がしますねえ」
「ゼータ、そこはかとなく邪悪な物言いをするな……。待てよ? 痩せた大地で必死に栄養分を……? もしや……クアットロの実は栄養豊富な地面に植えるとサボってしまって完熟しないのか? 種を作らず、増えなくなる……? ありうる」
「おじさま、何か思いつきましたか? おじさまも果物食べます? この子が取ってきてくれたんです」
「ウッキー」
「えっ、そうなの? 悪いね。いただくよ。……あまーい!! これ、砂糖も蜂蜜も使わない素の甘さなのか? 甘すぎないか?」
「でしょうー! おじさま、この果実、絶対に領地に持ち帰りましょうね!」
「ああ、そうだな。ひとまず、仮説を立てた。これに従って酸っぱい方は果実だけ、甘い方はあまり背が高くないから、木をまるごと持ち帰りたいところだ」
「分かりました! 私に任せて下さい。浮遊の魔法! ファルフォー・ユイリーファ!」
ゼータが呪文を唱えると、樹木の一本が光りに包まれ……スポンっとベヘモスの背中から抜けた。
『ムゴゴゴゴ』
「木を引っこ抜いたのか! だが、流石にベヘモスも反応したみたいだな。多分、毛を一本抜かれた感じなのか? こんなにデカいヤツが俺達に気付いて、牙を剥いたら大層面倒だな」
俺は再び剣を構えた。
「脱出だ、ゼータ! あと子猿はしっかりしがみつけよ!」
「ムキャ? ウキャ!」
ぎゅっと抱きつく子猿。
果物の汁が服につく~!!
だがまあいい。
今は無事に脱出する事が何より重要だ。
「ソードクッション!」
ふわっと飛び上がり、さらに連発しながら空を弾んで移動していく。
背後では、ベヘモスがブルブルと体を震わせているところだった。
大量の果実が落ちていく。
「うわーっ、物凄く震えていますよ! あそこにいたら、振り落とされていたかも知れませんね!」
「ああ。巨大な生き物の背中にいるというのは、生殺与奪の権利をそいつに委ねているということだ。生き物は己の足で大地に立たなきゃいけないよな」
「おじさまの美学ですか? まるで地面の上ならベヘモスに勝てると言っているような……」
いや、普通に勝算はあるが無駄な殺生はいけないだろう。
ベヘモス、結構共存できる可能性がある生き物だと思うぞ。
ふと振り返ると、背後からベヘモスがこっちを見ていた。
俺みたいな小さい生き物に気付くか。
そこまで鈍重では無いんだな。
ちょっと毛を一本……というか果樹を一本頂いていくぞ。
転送装置近くに着地する。
そうすると、周囲の枝がガサガサと大きく揺れた。
『ムホムホムホムホムホ!』
『ギイギイギイギイギイ!!』
「威嚇する声が聞こえる。これは、子猿を返せという決死の直訴だな……」
俺の恐ろしさは知っているだろうが、それでも命を賭して子猿を取り戻しにやって来たのだ。
俺は子猿をひょいっと掴み上げると、
「お迎えだ。じゃあな!」
「ムキャー!」
ぽーんと頭上に放り上げた。
それをソードクッションで、さらに打ち上げてやる。
そうしたら、途中で虚空から猿の腕が生えてきて、子猿をキャッチした。
そして木々の間を走り去っていく。
「バイバーイ! せっかく名前を考えてたけど、いらなくなっちゃいましたねえ」
「まだ子どもの猿だからな。群れと一緒に暮らすのがいいだろう……名前?」
「はい! ランチャーです!」
「そうかー。またランチャーと会えるといいな」
「はい!」
同じ島に住んでいるのだ。
いつか再会する時だってあるだろう。
問題は、あの保護色猿、普通に人間を喰うっぽいんだよな。
でかさも3ティタはある。
俺の背丈が1ティタと88タンだから、その大きさが分かるというものだろう。
「力を見せつけて、共存しないと損だと思わせないとな」
島の生き物との共存。
新しい課題が生まれてしまったな。
さあ、果樹をターミナル辺りに移植した後、石碑を起動させてここを解放するとしよう。
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