第20話 再び赤い大地へ
知識は得たし、モチベーションも得た。
となれば、ベヘモス攻略に乗り出すべきだろう。
いざ、甘い果実を手に入れに!
赤い大地に降り立った俺とゼータ。
すると、周囲から、
『ギャッ!?』
『ギギギーッ!!』
警戒するような叫びが聞こえてきて、目に見えないものがバタバタと逃げ去る音がした。
あの保護色猿ではあるまいか。
「おじさまが前回、彼らの仲間を撫で斬りにしましたからね。この剣士は危ない、と学習したのでしょう」
「賢いなあ。無駄な戦闘が起こらないのが何よりだ」
「ウキ?」
「お、一匹残ってる」
どうやら子猿が残っていたようだ。
しかも保護色になる能力も未熟らしく、なんか姿がうっすら見える。
「おじさま、この子を見逃してあげましょう!」
「俺は怪物と見れば切り捨てるような戦闘狂ではないぞ? 子猿よ、特に何もしないので、仲間のもとに帰りなさい」
「ムキー」
やはり言葉が通じないか。
まあいいや、と無視して歩き出す俺。
「おじさま、おサルがついてきますよ」
「なんだって」
親だとでも思われたか?
これからベヘモスを探し、挑むというのに。
いや、よく考えたら子猿が一匹いたくらいで邪魔にはならないな。
「いいか子猿よ。ベヘモスが出てきたら危ないからな。怖いなーってなったら逃げるんだぞ」
「ウキキ!」
分かってるんだか、分かってないんだか。
「子猿とは言っても、私よりも一回りくらい大きいですねえ」
「保護色猿は大きかったもんな」
興味津々な子猿を連れて、俺達は石碑のある辺りへ。
ここらでベヘモスを発見したんだよな。
「おじさま、高いところに行きましょう!」
「あ、そうか。この地区は高さのある果樹があるんだったな!」
ソードクッションを利用し、果樹の幹に足を引っ掛けて跳躍。
ぽんぽんとリズミカルに登っていく。
木々の高さは、ちょうどアースユニ王国の王城、その塔くらいだろうか。
恐ろしく高い。
国で一番高い場所に匹敵する、極めて高層の樹木が林立しているのだ。
「やはり、ルナス島は魔境だな。恐ろしいところだ」
「そんな事をおっしゃりながら、途中途中で襲ってくる怪物を切り捨てて当たり前みたいな顔で空を駆けるおじさまはもっととんでもないと思いますが」
恐ろしいと言わなかったのは、ゼータなりに気を使ってくれてるのではないか。
まあ、書物で読んだこういう夢幻みたいな世界で戦えることを想定して技を開発したからね。
まさか役立つとは思わなかった。
たまたま俺に剣の才能があって本当に良かった。
文化人としての才能はあまりなかったのが悲しい。
そんな俺達の後を、子猿がウキウキ言いながら登ってくる。
どこまでもついてくるなあ。
親だと思われたのだろうか……?
「おー、かわいいですねかわいいですね」
「ウキャウキャ、ムキャホウ」
「これこれゼータ、俺に体を預けて子猿をいじるのはやめなさい」
なんという豪胆さであろうか。
この幼女は只者ではない。
さて、気を取り直してここからベヘモスを探そう。
いた。
そりゃあもう、かなり高さから周囲を眺めて、見つからないわけがないのだ。
他の木々も同じくらいの高さなのだが、木と木の間にはそこそこの間隔があいている。
地上にいる時は、恐ろしく高い木々が立ち並んで見えたが、上に立ってしまえば周囲を睥睨できる程度の密度なんだな。
まるで誰かに管理され、それぞれの果樹が重なり合わないように植えられたかのようだ。
……まさかここは、果樹園なのか……?
その果樹の奥に、動く小山があった。
俺は、ベヘモスが赤い大地にいるのだとばかり思っていたが、どうやら違うようなのだった。
ベヘモス周辺から、その土地の色が違う。
茶色い岩場になっている。
そしてベヘモスが動く度に、その巨体から赤い物がこぼれ落ち、地に降り注ぐ。
赤い大地が少しずつ広がっているということか?
いや、振り返ると、転送装置付近の赤は色褪せてきていた。
ベヘモスは歩き回り、赤い大地を広げる。
だがこれは果樹にとって正しい管理方法では無いようで、古いものから立ち枯れていく。
結果、赤い大地は移動するばかりで広がることはないのだ。
「つまりこれは……人間の手で果樹は管理されるべきってことではないのか? 何より、こんなに高いところに果実が成っているんじゃ収穫だってまとものできやしない」
「おじさま、つまりそれってベヘモスから果樹を手に入れて、それからこの土地を解放すれば……」
「ああ。人間の手で管理できる果樹園が生まれるということだ……と思う、多分。解放してみないと分からないなあ」
そのためには、ベヘモスがいる間に、あいつから甘い果実の実ったクアットロの枝なりを回収せねばならない。
どうやらやつの体に成っている果樹は成熟できるらしく、こうやって木になっている。
だが、地に植えられたクアットロは実が熟することなく、酸っぱいままで落果し、大地を赤く染めているのだ。
「システムは把握した。よーし、行くか」
「行きましょー!」
「ウッキウキ!」
なぜか子猿も元気に返事をした。
ついてくるつもりかな……?
「おじさま、この子、飼いましょう!」
「帰る群れがある野生動物を飼育するのはよくないと思うなあ……」
どうにかしてこいつは、群れに帰したいなと思いつつ、ソードクッションで飛び上がる俺なのだった。
いざ、ベヘモス。
完熟した果実を手に入れるために。
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