第18話 酸っぱい果実の使い道
「それで戻ってきたんですか……。うわーっ、なんですかこの真っ赤なもの。毒じゃないんですか?」
モネを呼んで、ターミナルで毒見をしてもらうことにする。
転送装置に飛び込もうとした子どもたちは、キウイの世話をするように言ってある。
勝手に転送されたら死だぞ。
いや、待てよ……?
一旦まとめて連れて行って、死にそうな目に遭わせて学習させる手があるな……。
「おじさまがまた思索の世界に行ってしまったので私が説明します。おじさまはこの赤い果実を、食材や調味料として使えないかと考えているんです」
「なるほどねえ……。それで、毒が無いかをあたしに試してもらいたいと……」
「ゼータが全部説明してくれた。では食べてくれ」
「まあ、毒見はあたしの得意分野ですけどー。何かの血が混じってるのか、それともそういう力を持って生まれたのか知らないけど、毒が食べられるお陰でしょっちゅうお腹いっぱいでいられるしなあ」
ぶつぶつ言いながら、赤い果実をかじるモネだった。
「うわっ、なんがシュワっと来た! これ、あれだよ! エウゴ菜が古くなって汁を出してくるとこんな感じの……あ、でももっと強烈ー!!」
「やっぱり酸っぱいか……。これ、この酸っぱい状態が新鮮みたいなんだよな。毒はありそう?」
「んー……古いエウゴ菜よりも刺激が強いのに、チクチク来る感じが全然ないですね。これ、こんなに刺激がシュワっと来るのに確かに新鮮です。毒もないから、食べられますね、これ」
「おおーっ。巧みな解説だ」
「フフフ、あたし、ジムニ先生の生徒第一号なんですから」
なるほど、それ故の説明能力なのか。
「では俺達も食べてみよう。かなり酸っぱそうだから指につける程度で……ふーむ!」
「すっぱーい!! これはかなり酸っぱいですよおじさま!! どうやって活かすんですかこれ?」
「そうだなあ。エウゴ菜をこの汁で煮てみるとか。熱することでちょっと違う感じになるのではないか?」
「なるほどー! 思いついたらやってみましょう、おじさま! これで美味しくなったら、皆さんの食生活がぐんと向上しますよ!」
では、やってみようという事になった。
ジムニと船乗りたちもやって来る。
三日くらいしかいないはずの船乗り、随分長居してるな……。
「いやあ、殿下がこの村をどんどん変えていくのが面白くてよ! ついつい陸に残っちまってるんだ。今度は何をする気なんだ?」
リック船長が赤い髭を撫でながら、興味津々で俺の仕事を覗き込む。
「うむ、俺は今から、見様見真似で赤い果汁を鍋にかけるところだ。ここにエウゴ菜をぶち込んでだな」
「おっ、赤い果実!! トマトとは違うのかい?」
「トマトよりも酸っぱいな……。ああそうか、トマトと一緒なら、書物によれば煮込むと味わい深いスープになるのか!」
周辺の森で集めてきた朽ち木は、村のあちこちで乾かしてある。
それをちょっと持ってきて積み重ね……。
「ソードティンダー」
「あっ、何もない所から火が出現しました!」
「これは最近開発した技でな。砂を空気中に巻き上げ、これを剣で素早くこすることで摩擦によって火花が散るんだ。それを薪に移すと燃え上がり……」
適切に剣風を送ると、あっという間に燃え上がる。
「魔法かよ……」
「何を言うんだ船長。大道芸のようなものだぞ」
なお、このソードティンダーはその出力を上げていくことで、炎の嵐を作ったりもできるようになる……。
だが、そんな大道芸を見せる必要はあるまい。
娯楽よりも、今日の糧なのだ。
ほら、畑仕事をしてた奥さんたちが集まってきた。
「領主様! 今度は何をするんだい?」
「楽しみー!」
「新しいことをどんどんやってくれるものねー」
奥さんたちも、卵をよく食べるようになって元気になった。
「またみんなの食生活が豊かになるかも知れないぞ」
俺の言葉に、まだ小さい子どもが首を傾げた。
「甘いの?」
「甘くはないなあ」
甘い果実の手がかりは得たが、そのためにはちょっとした大冒険をする必要があろう。
その間、俺の領民は何かを得たりすることはできないわけだから、今のうちの少しずつでも見つけたものを還元しておきたい。
さあ酸っぱい果実よ、美味しくなってくれよ!
そう願いつつ、調味料は塩と乾燥エウゴ菜しかない状態でぐつぐつ煮込むこと数十分。
いい感じで水気が飛んだ果実はネットリとしてきた。
「あれ? おじさま、酸っぱい感じがしなくなってきましたよ? なんだかいい匂いがします」
「だなあ。これはもしかして……化けたか?」
木の匙を使って、一口。
おっ、これは……!!
真っ赤な見た目からは想像もつかない、とんでもなく深いコク。
酸味がコクに化けた!
「これは美味いぞ! この果実、こっちで栽培してもいいかもな。いや、あそこを安全にして、行き来できるようにすればいいんだ。石碑を起動した際、あの果樹がダメにならないようにして……」
そんな俺の横で、奥さんたちがワーッとやって来て、かわりばんこで煮詰めた果汁を口にしている。
「あら美味しい!」
「これ……魚に合うんじゃないかしら」
「ほんと! これがあれば、煮込んで美味しいスープも作れるわ!」
「食事が楽しくなっちゃうわね!」
後からモネと子どもたちもやって来て、みんなで果汁からできたスープを飲んだ。
大好評だ。
「これは凄い……! これを見つけるのは、殿下でなければできぬことでしたな! いやはや、凄いお方だ……。これは恐らく、伝承に謳われるクアットロの実でしょう」
「知っているのかジムニ!」
「ええ。未熟な実は酸味が強く、熟すほどに甘くなっていくのですが、多くの鳥や獣たちの好物なので、熟す前に食べられてしまうのですよ。紅玉の如き美しい赤い果実。遥かな昔、船乗りがクアットロの実を見つけて上陸したが、その島自体が怪物で、船乗りは命からがら逃げたのだそうです。ただ、そこには多くの甘いクアットロの実が成っていたそうですな」
ゼータがパッと俺を見た。
俺も見返す。
「おじさま、これって!」
「ああ。この伝承に、何かヒントがありそうだ! ジムニ、ちょっと語ってもらえるか?」
過去の物語に、赤い大地を攻略するヒントがあるかも知れない。
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