第17話 果樹を背負った大物が
赤い大地を進んでいく。
転送装置を背中にしつつ、ひたすら前に前に。
1/3ティタンくらい進んだかなという頃合い。
「あったあった」
あっさりと石碑を発見したのだった。
あとはこれを起動させればいいのだが……。
「おじさま、私、ちょっと不安に思うことがあるのです」
「ゼータもか。実は俺もだ。このまま石碑を動かしてしまったら、この間のターミナルのように地形が大きく変わってしまうんだろう? そうすると……あの赤い果実が一本残らず無くなってしまうかも知れない。いや、あの果実が酸っぱいだけなら別にいい……いやいや、酸味もまた味付けの一つになりうるんだが……」
「ええ! もったいないですよねえ! 石碑の場所は分かりましたから、一旦果実を回収して、モネさんに食べさせましょう!」
「そう、それだな! それから果実を増やす手段を調べてから石碑を動かすようにするのがいいと思うな! 何せ、ルナス領には何もない。何を植えてもプラスになるんだからな。だが……だからこそ、作物は厳選したい」
「いいですねいいですねー。そういうの楽しいですよね! じゃあそうしましょう」
俺達の間で、話がまとまったところでだ。
地面が揺れた。
なんだ?
地震か?
アースユニ王国では、大地が揺れる地震はめったに起こるものではなかった。
それだけに、一度そういうものが起きると、さらに大きな凶事の顕れだとされていたものだ。
この島ではそうではないのかもしれないが。
ちなみに、この地震を起こすのは災害竜と呼ばれる巨大な竜だと言われているぞ。
俺は眉唾だと思うんだが。
地の底にナマズという名の巨大な竜がいて、大地を揺らしてるなんて本当か……?
おっと、そんな思索にふけっていたら、振動が立て続けにやって来た。
二度、三度、四度。
「これは地震じゃないな……」
「ええ、おじさま! これ……何か大きな生き物が歩いてるんです」
足音はすれども、姿は見えず。
さてはさっきの猿のように、保護色になっていたのではないか……?
しかし、魔剣は振動をしない。
危険ではないということか。
「おじさま」
「なんだい」
「上……上です!」
「上……?」
ゼータに促されて見上げると。
赤い果実を実らせた木々の上に、何か巨大なものが見える。
あれはなんだ……?
真っ赤な色をした小山があり、それが……動いている。
いや、あれは生物だ。
信じられないほど巨大な生物と言っていい。
ここで俺は、さっき内心で否定しようとしていた考えを思い出した。
地の底には、大地を揺らす災害竜がいるというものだ。
そんな大きな力を持つ竜なら、さぞかしい大きいのだろう。
例えば眼の前にいる、あの動く小山のように。
「なるほど……なるほど……!! 俺はつまらん常識に縛られていたようだ!」
「なんだか嬉しそうじゃないですかおじさま?」
「そりゃあ嬉しいさ。自分のつまらない常識が破壊されて、今まで先人の妄想だと思っていたものが真実だったと分かったんだ。ということはだ! 俺が今まで読んできた、夢物語としか思えないような書物の記述が、その一つ一つが、どれもこれも真実の色を帯びてくるんだぞ。こんな楽しいことがあるか? この世界は、俺が思っていたよりもずっとデタラメなんだ!」
「おじさまがそれを言うんですか? って気持ちなんですけど。それはそうと、なんだか周りに甘い匂いがしませんか?」
「言われてみれば……。風が匂いを運んでくる。小山から風は吹いているが……まさか」
目を凝らす。
小山を赤く染めるそれが、俺達の周囲にある樹木と同じようなものではないかと思ったのだ。
「表面が……揺れている気がする。多分あれは、果樹だ。この周囲の酸っぱい果実とは違う、甘い果実を実らせた果樹なんだ。あれは言うなれば、歩く果樹の山。これは確保しなくてはな……!」
「おじさま、ストップ。ストーップ! 今は一旦戻りましょう! 冷静になりましょうおじさまー」
俺の頭をペチペチ叩くゼータなのだった。
はっ、言われてみれば確かに。
このまま勢いで、正体も分からない小山を追いかけてどうする。
まずは地に足をつけて調査していくのが大事だ。
こまめにターミナルに戻り、作物を分析し、増やしていく。
俺は領主なので、己の冒険心よりも村人の胃袋を満たすことを優先せねばならないからな。
危ないところだった……。
「ゼータ、ありがとう。俺は正気に戻った」
「本当ですか? おじさま、正気ではないようなことをよくやってますから」
「正気だぞ」
その証拠に、ここから転送装置まで戻ることに決めたのだ。
あの小山は、また出会うことがあるだろう。
あれだけの大きさなのだ。
絶対に遭遇できる。
「よーし、では果実をちょっと回収して……飛燕!」
枝ごとバサッと切り落とした。
落ちてくるこれを確保し……。
「とことん便利ですよねえ、おじさまの技」
「飛燕はかなり大道芸寄りだからな。殺傷力が低い代わりに色々できるんだ」
「殺傷力が……低い……?」
なんで首を傾げているんだ?
そして転送装置へ到着!
「帰還だ!」
光に包まれ、俺達はターミナルへ……。
そうしたら、俺にボーンとぶつかってきた子どもがいたのだった。
「むむっ!! どさくさに紛れて転送装置に飛び込もうとしたな!?」
「ひいー! ごめんなさーい!」
ゼータに投げ飛ばされていた男子の一人だな。
危ない危ない。
赤い大地はとても危険なところだ。
子どもが行ったら、絶対に死ぬ。
これは注意しておかねばならないな……。
というか、この剥き出しの転送装置、なんとかならないのか?
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