第16話 赤い大地は不思議な所
「いいか? 俺達がいない間、絶対にこの転送装置に入るなよ? 死ぬんだからな? 俺達が戻ってきたのは、たまたま俺が強かっただけなんだからな?」
「そうなのですよー! おじさまは異常に強いのです。あれは絶対におかしいのです」
ゼータは俺の言葉に同意してるのか、異議を口にしてるのか全く分からんな。
だが、わんぱくな少年たちを力でねじ伏せたゼータだ。
なんか男子は神妙な顔でそれを聞いている。
対して、女子達はゼータに対して複雑な気持ちのようだ。
この辺の人間模様は、後々面白くなりそうだな……。
そんな事を思いつつ、俺はゼータを背中にくっつけて、赤い光を放つ転送装置に乗ったのだった。
足元の魔法陣が輝きを増す。
目が眩むほどの光……と思ったら、俺達は知らない場所にいたのだった。
背後には、活性化したらしい転送装置。
これを使えばいつでも戻れるというわけだな。
で、俺達の眼の前には、赤い大地が広がっている。
真っ赤だ。
地面も、木々に繁る葉も赤い。
「あれっ!? おじさま、あれ葉っぱじゃありません! 果実です!」
「なんだって!?」
よく目を凝らしてみると、木々には鈴なりに赤い果実が実っているのだった。
言うなれば、枝の一つ一つがぶどうの房のようになり、果実が連なっている。
それが落下して潰れた跡が、この赤い大地なのだった。
「これは……いきなり目的の甘味がある場所に来てしまったようだな」
「どうでしょうねえ。おじさま、この果汁舐めてみます?」
「やだなあ」
「私もやですよ」
そういうことになった。
つまり、俺達は二人とも、身を呈して毒見をするつもりなど無いのだ。
こういう時こそ、毒に強いというモネを連れてくるべきだったか。
まずは、この土地がどんな場所なのかを確認する意味も込めて歩き回る。
「地面は……果汁でベタベタするが、ドロドロではないな。石があちこちに突き出してて、水はけは悪そうだ」
「なんだか酸っぱい香りがしますね。この果実、甘くなくて酸っぱそうです!」
「なんだって。それじゃあ目的に合致した作物とは言えないな。第一、見上げるほど高い樹木じゃ回収していくこともできないし、育てるにしたってどれだけの期間がかかるんだ」
もっとお手軽に手に入れられ、育てられるものがいいな……。
赤い果実を実らせる木々はひたすら続く。
その途中で、果実をついばむ鳥の姿が見えた。
やはり、赤い羽根をした鳥だな。
保護色だろうか?
連中は俺達を見下ろして、不思議そうに首を傾げている。
ゼータが手を振ったら、飛び立ってしまった。
「警戒心が強いな」
「怖がらせちゃいましたね。残念」
「いやいやゼータ。警戒心が強いということは、あの鳥を狙う外敵がいるということだ。保護色も、外敵から身を守るためだろう」
ゼータが「ほえー」と声を漏らした。
「ターミナルだったところもですけど、ここもなんだか勝手に生態系が作られてしまってますねえ……。それにしたって、ターミナルに比べると様子がおかしすぎですけど」
「だな。俺が思うに、ここはこの赤い果実が重要な意味を持つ場所だったんじゃないだろうか?」
「相変わらず冴えてますね、おじさま! おじさまは非日常の場で特別に輝きますよね」
「ああ。俺は日常的なところでは凡人以下だぞ」
木々の合間をさらに歩いていく。
時折、アドラマントが振動して警戒を促してくる。
その度に、何かの視線を感じる気がするな。
「さっきから何かの鳴き声がしますねえ。声はすれども姿は見えず……」
「あの鳥じゃなくて? この甲高くて断続的な吠え声みたいなの? うーん、捕食者の気配だぞー」
近くの木が揺れた。
風などないのに。
何かが木々の中を移動しているらしい。
だが、俺の目にはそれがどこにいるのかさっぱり分からない。
これはあれだな。
だまし絵みたいな状態になっていて、一度そいつを認識しない限りはそれを視認できないのだ。
さーて、魔剣の振動がどんどん激しくなっていくぞ……。
ここは、軽く斬撃を飛ばして木を切断して様子を見るか……?
いやいや、とりあえずで破壊活動はよろしくない。
「おじさまがせわしなく剣を抜いたり戻したりしてます」
「破壊活動を行うか、文化的に様子を見るかで迷ってるんだ」
「おじさまの破壊活動、本当に破壊活動ですからねえ。あ、ちなみにまだこの辺りは、石碑の気配を感じません。まだまだどんどん歩く必要があると思います」
「なるほどなるほど」
「そしておじさまの魔剣がエグいくらいに振動してますねこれ。凄いことになってます。なんですかこれ、どういう仕組みなんですか?」
「これ、危険が危ないってことだな。すぐ近くに何かいるんじゃないか? よし、当てずっぽうで剣を振り回してみよう」
「技は使わない方向で?」
「うむ、純粋に剣を振るだけだぞ。そいっ」
『ウグワーッ!!』
次の瞬間、血しぶきがほとばしった。
巨大な何かが俺の前で倒れる。
なんとなーくそっちから視線と空気の動きを感じたので斬ってみたんだよな。
「こ、これはなんですかおじさま!」
「段々実体が現れてきたな。猿だ。巨大な猿だな。真っ白な透き通った毛が生えてる。こいつが周囲の風景を反射して保護色になってたんだろう。そして果汁を纏うことで自分のニオイも消していたということだな」
周囲から、ギャアギャア、ウオウオウオ、とかそんな吠え声が聞こえてくる。
猿に囲まれているのではあるまいか。
「お前らやる気か? 俺はまだ、剣を軽く振っただけだぞ。ちょっと気合を入れると……」
ここで俺、何もない空に向かって隼を放つ。
轟音が響き渡り『ウグワーッ』あれえ?
頭上から胴体に穴の空いた猿が落ちてきた。
死んでいる。
大きな音でびっくりさせるだけのつもりだったのだが。
『ムキャーッ!?』『ウキャホ!』『ホウホウホウ!』『オウッオウオウオウッ!』
不意打ちしようとした仲間がやられ、しかも轟音で吠え声をかき消され、猿たちが大変動揺する。
そして、隼の轟音が消えた時……。
猿の気配は完全に無くなっているのだった。
「いやあー、うるさい技にもこんな使い道があったんですねえ……」
「何気に、鳴き声でコミュニケーションする怪物たちに対しては効果が大きいな。今後はこれを使って撹乱していこう」
こうして良く分からない、保護色猿を撃退した俺達。
まだまだ、赤い大地を突き進むのだ。
甘い果実を求めて!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




