第10話 村人たちよ、ここが新たな領域だ
ターミナルを解放した俺達。
「高いところに来てしまいましたが、どうやって降りるのですか?」
「うむ、落下の勢いを剣風で消せばいい」
「はい?」
「とうっ!」
「きゃーっ!!」
「ソードクッション!」
大気を叩くように振るうことで、風が巻き起こる。
これが地を叩いて反転、強烈な上昇気流となり、俺達の落下速度を大きく減じるわけだ。
スタッと降り立つ俺。
「魔法では?」
「純粋な技術だぞ?」
「ええ……」
ゼータはいつまでも俺の技を信じてくれない。
周囲を見回すと、既に怪しい森など影も形もない。
このターミナルから半ティタンも移動すれば、また森が広がっているんだろうが……。
「もうゼータを下ろしても大丈夫だな。安全だ」
「はい! 石碑が働いたので、私だけではなく村の皆さんも歩き回れるようになったことでしょう。皆さんを呼びに行きましょう!」
俺の背中をトントンっと降りて、ゼータはパタパタ走っていった。
さて、俺も後を追うとしようか。
そう思ってふと振り返ると、俺達が立っていた塔から光が漏れているのが見えた。
なんだろう?
塔の一階は何本もの柱が建っている構造になっており、柱と柱の間には壁がある。
その壁の一つが展開していた。
赤く輝く円筒形のものがある。
これは……。
ゼータの棺のところにあった、転送装置じゃないのか?
ターミナルを解放した事に連動して、転送装置の一つが起動したということか。
これは危険だな。
村人には、これには触れないように言っておこう。
すっかり日は暮れ、時間は夜。
灯りの素になる油がもったいないので、みんな寝てしまっているのでは無いだろうか。
あの油、ほんのり生臭かったから魚から取ってるんだろうな。
と思ったら、村の入り口付近で村人たちが集まっていたのだった。
ゼータがぴょんぴょん飛び跳ねて何か伝えているが、皆首を傾げている。
ハハハ、やはり幼女の言葉では納得できまい。
俺は彼らの前に歩み出た。
「やあみんな。喜んでくれ。ここから半ティタン足らずだが、そこまでの領域を人間のものにしたぞ」
俺は分かりやすく結果だけを伝えたのだが、彼らは皆ポカーンとしている。
何が不思議なのだ。
彼らを代表して、モネが出てきた。
「あ、あのー、ハイザット様。何が起きたのかもっと詳しく教えてくれませんかね? このちびっこはハイザット様が化け物を切り裂いたとか、空から降りて剣風で軟着陸したとかとんでもないことばかり言ってて」
うむ、それはすべて真実だが、全く重要ではない話題だったな!
ゼータ、まだまだ子どもだったか!
「さっき、すごい音がしただろう?」
「ええ、しましたね」
モネの他、村人たちも顔を見合わせてうなずき合う。
皆不安げだ。
「あれの原因は俺とそこにいるゼータだ」
「そうだったんですか!?」
「そうだ。そして俺とゼータが何をしたかというと、人間を寄せ付けなかったあの森を倒したんだ」
「森を!? 倒した!?」
「そうだ。夜になってる所悪いが、ターミナルは自ら光を発していて割と明るい。ちょっと俺についてきてくれ」
俺は村人たちを手招くと、率先して歩くことにした。
パタパタとゼータが走ってきて、俺の横に並んで早歩きになる。
「おじさま説明が上手いですねー! みんなすぐに信じてくれました」
「まあ、遠島伯だからな。村長みたいなもんだよ」
「貴族と村長は同じようなものなんですか」
「同じようなもんだ」
「そうなんですねー」
「いやあ……違うと思いますねえ」
モネが至極常識的な事を言っている。
他の村人たちは、俺がついてこいと言ったので、遠島伯の言葉ならと従うことにしたようだ。
子どもたちは眠そうだな。
すぐ終わるからな。
果たして、木々の合間を抜けてターミナルに到達すると……。
「おおっ……!!」
村人たちから驚きの声が漏れた。
頂点の石碑がぼんやりと輝く塔がそこにあり、周辺は満月の下にいるような明るさだ。
足元は、塔に向かう道をびっしりと隙間なく敷き詰められた石畳。
その左右の広大な空間は柔らかな土で覆われ、畑への転用が容易そうだ。
「すべすべだ……」
「すごーい! つるつる!」
子どもたちは一気に目が覚めたようで、石畳の上を走り始める。
大人たちが慌てて止めても、一度やる気になった子どもは止まらないものだ。
俺を追い越して、バタバタと走っていった。
「あ、光ってる!」
「なんだあれ!」
転送装置に気づいたな。
「それは危険だぞ。触れたらどこかに飛ばされて戻ってこれなくなるからな」
俺の言葉に、子どもたちが「えー」と半笑いで応じた。
おっ、これは触ってしまいそうだな。
いたずらしたい盛りだものな。
「ここは、言う事を聞かせてやろう。それ、ソードクッション!」
俺は剣風を巻き起こした。
子どもたちが剣圧に吹っ飛ばされて、空中に巻き上げられる。
「うわーっ!?」
「ひえーっ!」
これを、順に俺がキャッチして地面に下ろしていくのだ。
「近づいたらこんな風に吹っ飛ばすからな。あの先は俺とゼータで調べる。だから、安全になるまでは近づくな。いいか?」
「う、うん! 分かったよ領主様!」
領主様!
新しい呼び名だな。
「領主様すげー!」
「もっとやって! もっと!」
「仕方ない奴らだな。そこに並べ。順番に空を飛ばせてやるからなー」
「ハイザット様ー!?」
「あ、悪い悪い」
モネが村人たちを代表し、説明を求めている。
「つまりだな、村人諸君」
俺は村人たちに呼びかけた。
「ここ、森に立ち入らなければ安全だから。自由に使っていいぞ。具体的には、畑をさらに広げて作物の増産もできるだろう。それから、畜産を行う手もある。畜産を知らないか? ここには畜産を行うスペースも、動物もいなかったものな。よし、俺が教えてやろう」
「おじさま、何から何までやろうとしていますね!」
「退屈そうだった村に、文化が芽生えようとしてるんだ。こんな楽しいことがあるか? 次の土地を開拓する前に、この辺りで色々新しいことを始めるぞゼータ」
「もちろん、私もお手伝いしますよ! ねえお姉さん」
「あ、ああ、もちろんあたしだって!」
よし、村の規模は拡大した。
これから、ターミナルを何で埋めていくか。
何をやっていくか。
考えることはいくらでもある。
俺が動かなければ何も始まらない。
実に楽しくなってきた。
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