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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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9/10

第9話「虎が、黒牙と接触する」

虎「どこから動く」

ミオ「……それが、決まらない」


三人で宿の一室に集まっていたが、

朝から話が進まなかった。


ステラ「黒牙の拠点の正確な場所がわかりません。遺跡の入り口も、おおむねの位置しか把握できていない状態です」

ミオ「……闇雲に動いて警戒されるのも困る。でも、時間がない気もする」

虎「鍵が揃う前に動きたい、か」

ミオ「……そうだ」


虎は立ち上がった。


虎「一旦、外に出よう。腹も減った」

ミオ「……作戦会議中だぞ」

虎「歩きながらでも考えられる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大通りに出ると、

朝市が立っていた。


ステラ「露店が多いですね。東の街は朝市が盛んなようです」

虎「賑やかだな」

ミオ「……浮かれてる場合か」

虎「浮かれてない。見ているだけだ」


三人でゆっくり歩いた。


そのとき、

路地の奥から声が聞こえた。


男の声「おい。お前、昨日もこの辺うろついてたな」

か細い声「……ち、違います。ただ通っただけで」

男の声「嘘をつくな。ついて来い」


ステラ「黒い外套が見えます」

ミオ「……黒牙だ」


三人で路地に入った。


黒外套の男が二人、

細い路地の奥で、

一人の少年を壁に押しつけていた。


銀色の髪に、褐色の肌。

片腕を庇うように縮こまって、

男たちを見上げている。

顔が、青い。


虎は男たちの後ろに立った。


虎「……うるさい路地だな」


男たちが振り返った。


一瞬だけ、

虎を見た。


それから、

二人同時に走って逃げた。


少年が、

へたへたとその場に座り込んだ。


少年「……た、助かった……」

虎「怪我か」

少年「……前に、やられた傷が。まだ治りきってなくて」


ミオが少年を見た。


ミオ「……黒牙にやられたのか」

少年「……よくわかりますね」

ミオ「その庇い方、見覚えがある」


少年はしばらくミオを見た。


それから、

小さく頷いた。


少年「……キールといいます。情報屋をやっていて、それで黒牙に目をつけられてしまって」

ミオ「情報屋」

キール「はい。この街の色々なことを調べて、必要な人に売る仕事です。黒牙のことも、少し調べていたら……こうなりました」


キールは苦笑いした。


キール「……お三方も、黒牙を追っていたりしますか」

虎「まあ、そんなところだ」

キール「……なら、少し話を聞いてもらえませんか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


四人で、

大通りの端にある小さな売店に移った。


揚げたパイが並んでいる屋台で、

肉と野菜を包んで揚げたものが

香ばしい匂いを立てていた。


ステラ「四つ、買ってきました」

キール「……あ、ありがとうございます」


虎は一口食べた。


外の皮がさくっと割れて、

中から肉汁が滲み出てくる。

挽き肉の旨みと、

炒めた玉葱の甘みが混ざり合って、

口の中に広がった。

香辛料が奥に効いていて、

噛むほどに層になった味が出てくる。

揚げたての熱が、

全体をひとつにまとめていた。


虎「……うまい」

キール「……そう、ですね」


キールは揚げパイを両手で持ったまま、

なかなか食べようとしなかった。


ミオ「……話してくれ」

キール「あ、はい」


キールは小さく咳払いをした。


キール「黒牙の次の動きですが、情報屋として掴んでいることがあります。三日後の夜、東の古神殿裏の井戸に、黒牙の一隊が集まります。夜の四つ刻です」

ミオ「……場所と時刻まで、正確に知っているのか」

キール「情報屋ですから。黒牙の末端に顔見知りが何人かいて、そちらから流れてきた話です」


ミオはしばらくキールを見た。


ミオ「……末端と顔見知り、か」

キール「仕事柄、色々な人と繋がっています。怪しいことを言っているのはわかっているんですが……本当のことです」


ミオは納得しきっていない顔だったが、

それ以上は追わなかった。


ミオ「井戸が遺跡への入り口か」

キール「おそらく。そこに最後の鍵を運び込むつもりだと思います。情報屋として集めた話を繋ぎ合わせると、そういうことになって」

ステラ「最後の鍵が遺跡に持ち込まれる前に止めれば、古代兵器の起動は防げる」

ミオ「……そういうことになる」


虎「お前はどうする」

キール「……え」

虎「怪我をしていると言った。戦えるのか」

キール「……無理です。ただ、黒牙の末端と顔見知りなので、当日の動きを読むのに役に立てるかと。案内くらいなら」

ミオ「……それは、確かに助かる」

キール「後ろにいますから、足手まといにはならないと思います」


虎はキールを見た。


キール「……ダメ、ですか」

虎「構わない」


キールが少し、

ほっとした顔をした。


虎(情報屋、か)


虎(まあ、それだけでもないだろうが)


口には出さなかった。


ステラが、

虎の横顔にそっと視線を注いだ。


それから、

何も言わずに揚げパイの最後のひとかけらを食べた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三日後の夜。


四人は古神殿の裏手に来ていた。


キール「……あの井戸です。普段は蓋がしてあって、目立たない場所に見えますが」


石造りの神殿が、

月明かりに白く浮かんでいる。


ミオ「……静かだな」

ステラ「まだ来ていません。ただ、遠くに気配があります」

虎「来るな」


キールは石壁に背をつけて、

少し後ろに立っていた。


キール「……僕が話をしにいきます、もしかしたら門ぐらいは突破できるかも…」

虎「いや、行くぞ」


虎は夜の空気を読んだ。


遠くの気配が、

少しずつ近づいてくる。


虎(四つ。荷物を持っている。急いでいる)


暗がりから、

黒外套の男たちが現れた。


四人。

一人が、

小さな木箱を抱えている。


男「……誰だ」


ミオが前に出た。


ミオ「黒牙に用がある」


男たちが武器を抜いた。


ステラ「虎様」

虎「ああ」


虎は一歩踏み出した。


どごん。


先頭の男の剣を、

片手で受けた。

剣が、根元から折れた。


男が後退する。


残り三人が、

同時に動いた。


ミオが氷の魔法を足元に叩き込んで、

二人の動きを封じる。


ステラが残り一人の内側に入り、

静かに投げた。


虎は折れた剣を持つ男の肩を、

軽く押した。


男が、

吹き飛んだ。


四人が地面に転がった。


ミオ「……終わったか」

ステラ「木箱を確保しました。鍵と思われます」

虎「そうか」


虎は倒れた男たちを見た。


それから、

後ろを振り返った。


キールが、

石壁に背をつけたまま、

じっと虎を見ていた。


キール「……す、すごかったです。予想以上に。」


虎は何も言わなかった。


ミオ「……次は本丸だ。遺跡の中を押さえる」

虎「ああ」


夜風が吹いた。


神殿の影が、

長く伸びていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「鍵を一つ、押さえました」

虎「まだ終わっていないが」

ステラ「はい。遺跡の中に入ることになりそうです」

虎「面白くなってきた」

ステラ「次回、『虎が、遺跡へ入る』」

虎「キールはついてくるのか」

ステラ「案内役として、と言っています」

虎「怪我をしているのに、物好きだな」

ステラ「……そうですね」

虎「何か言いたそうだな」

ステラ「いいえ。おおむね、何も」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」

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