第87話「虎が、荒野を戻る」
塔を離れて数時間、
荒野の景色は変わらず続いていた。
ステラ「三人だった旅が、また二人になりましたね」
虎「そうだな」
風が砂を巻き上げながら吹いていた。
虎(クリスがいない分、荷物の配分を変えないといけないな)
虎(少し寂しいが、それだけだ)
ステラが地図を確認しながら言った。
ステラ「街までは、来た時と同じ道のりです。五日ほどかかるかと」
虎「わかった」
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歩きながら、
ステラが虎の隣で言った。
ステラ「虎様、クリスさんのこと、あっさり送り出しましたね」
虎「あいつが決めたことだ」
ステラ「寂しくは、ないのですか」
虎はしばらく黙ってから答えた。
虎「寂しくないと言えば、嘘になる」
ステラ「……」
虎「だが、あいつは、ようやく自分の時間を、取り戻す場所を見つけた」
ステラがその言葉を、
噛みしめるように聞いていた。
ステラ「……そうですね」
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昼になり、
岩陰で休憩を取ることにした。
ステラが荷物を広げると、
街から持ってきた饅頭が、
まだ少し残っていた。
虎は一口食べた。
虎「……」
行きに食べた時よりも、
少し味が変わっていた。
甘みは薄れていたが、
その分、
生地の香ばしさがはっきりと感じられた。
時間が経った分だけ、
また違う顔を見せる味だった。
虎「……うまい。日が経つと、味も変わるものだな」
ステラ「保存食は、そういうものかもしれません」
二人で分け合いながら、
残りの饅頭を食べきった。
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夕方、
野営地を選んで、
火を起こした。
ステラが焚き火の前で、
静かに言った。
ステラ「三人分の食事を作る癖が、まだ抜けません」
虎「そのうち、慣れるだろう」
虎(クリスがいた時間は、それほど長くなかったが、確かに、癖になっていたな)
夜空を見上げると、
星が今夜も多かった。
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二日目、
道中で、
行きに立ち寄った岩の遺構を、
再び通りかかった。
ステラが足を止めた。
ステラ「あの、文字が刻まれていた岩ですね」
虎「クリスが、興味を持っていた場所だ」
虎はその岩を、
もう一度確認した。
虎(あの時は、ただの摩耗した文字だと思っていたが)
虎(今なら、クリスの記憶と、繋げて読めるものが、あるかもしれないな)
だが、
文字は依然として、
読み取れなかった。
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三日目、
水場を見つけて、
体を清めることにした。
小さな泉が、
岩の間から湧き出していた。
ステラ「久しぶりの、まともな水浴びですね」
虎「ああ」
ステラが虎の毛並みを、
丁寧に洗っていった。
ステラ「……前より、少し落ち着いた顔をしていますね」
虎「そうか」
ステラ「はい。塔での試練が、何か、答えを出させたのかもしれません」
虎は何も言わなかったが、
否定もしなかった。
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四日目の夜、
携帯食が底をついてきた。
ステラが残っていた分を数えて言った。
ステラ「明日一日分なら、足りそうです」
虎「街まで、あと一日か」
虎は空を見上げた。
虎(この旅も、色々あったな)
虎(サンドポートから始まって、ホロウベル、ナイトポップシティー、ビッグビッグシティー、そしてこの塔)
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五日目、
街道の終点が、
遠くに見えてきた。
ステラ「見えました。あそこから、また馬車が使えます」
虎「ようやくか」
街道に足を踏み入れると、
砂と岩ばかりだった景色に、
少しずつ緑が戻ってきた。
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馬車が通る道まで来ると、
一台の荷馬車が、
ちょうど通りかかった。
御者「おや、旅の方かい。街まで乗せていこうか」
虎「助かる」
馬車に乗り込むと、
御者が話しかけてきた。
御者「未開拓地帯に、行ってきたのかい」
虎「そうだ」
御者「そりゃすごい。無事に戻ってきただけでも、大したもんだ」
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御者が、
荷物の中から、
干した果物を分けてくれた。
虎は一口食べた。
虎「……」
甘みが凝縮されていて、
噛むたびに、
じんわりとした満足感が広がった。
街の匂いが、
少しずつ近づいてくる中で食べると、
帰ってきた実感が、
その甘さと一緒に染み込んでくる気がした。
虎「……うまい。街が近いと思うと、味も違って感じるな」
ステラも一口食べた。
ステラ「……確かに、ほっとする味です」
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夕暮れ時、
ビッグビッグシティーの門が、
見えてきた。
案内係の姿が、
遠くに見えた。
ステラ「あ、案内係の方が」
虎「元気そうだな」
御者が馬車を止めて言った。
御者「ここまでだ。気をつけてな」
虎「世話になった」
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門をくぐると、
案内係が虎たちに気づいて、
大きく手を振った。
案内係「おお、戻ってきたか! 塔はどうだった!」
虎「面白い場所だった」
案内係が、
虎の後ろを見て、
首を傾げた。
案内係「あれ、骨のお嬢ちゃんは」
虎「あいつは、あそこに残った」
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案内係が、
少し意外そうな顔をしたが、
すぐに笑った。
案内係「まあ、そういうこともあるさ。器の大きい街の連中は、そういう選択も、応援するもんだ」
虎「そうか」
虎(この街らしい言い方だな)
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司書に報告するため、
図書館に向かった。
館長と司書が、
虎たちを迎えた。
司書「お帰りなさい。塔の様子は」
虎「アショカの柱、見つけた。管理者もいた」
館長が身を乗り出した。
館長「管理者だと……!」
虎「詳しい記録は、まだ、あちらで整理中だ」
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司書が、
興奮した様子で言った。
司書「では、また連絡が取れるということですね」
虎「クリスが、そこに残っている。連絡役になるだろう」
館長が、
深く頭を下げた。
館長「本当に、大きな成果だ。感謝する」
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図書館を出ると、
夜の街が、
灯りに包まれていた。
ステラが虎の隣で言った。
ステラ「虎様、今夜はどうしますか」
虎「宿を取って、ゆっくりする」
虎は夜空を見上げた。
虎(次は、どこへ行こうか)
虎(急ぐ必要は、ない)
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宿の窓から、
街の灯りが見えた。
ステラが荷物を整理しながら言った。
ステラ「クリスさんの分の荷物、まだ手元にありますね」
虎「いつか、届けに行くか」
ステラ「はい、そうしましょう」
夜風が、
静かに部屋の中を通り抜けていった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「街に戻ってきましたね」
虎「久しぶりの、まともな宿だ」
ステラ「案内係の方も、喜んでいました」
虎「相変わらず、大声だったな」
ステラ「クリスさんの報告、館長さんも喜んでいましたね」
虎「大きな成果だと言っていた」
ステラ「これから、どこへ向かいましょうか」
虎「まだ決めていない」
ステラ「……おおむね、ゆっくり決めることになりそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、次の目的地を選ぶ』」
虎「久しぶりに、自由な選択だな」
ステラ「はい。楽しみですね」




