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虎無双、虎無双。  作者: BB
7章

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86/113

第86話「虎が、ミイラと語り合う」


広間の隅に三人と一人で腰を下ろした。


ミイラはまだ短剣を手放してはいなかったが、

先ほどより警戒は緩んでいた。


虎「もう少し、話を聞きたい」

ミイラ「……何をだ」


クリスが静かに口を開いた。


クリス「お前は、月から、来たのか」

ミイラ「……そうだ」


ミイラが少しずつ語り始めた。


ミイラ「月文明は、資源が、限られていた。だから、いくつかの拠点を、地上に作った」

虎「この柱も、その一つか」

ミイラ「そうだ。私は、その、管理者だった」


ミイラ「文明が、衰退していく中で、この柱に、記録を残すことを、命じられた」

クリス「……記録」

ミイラ「地上での、私たちの、活動記録だ」


虎(アショカの柱、そのものが記録の集積場所だったのか)


虎(司書たちが探していたものが、ここにある)


……………………………………………………………………………………………


クリスがミイラをじっと見つめた。


クリス「私も、月に関わる存在だ。三千年、別の場所で、封じられていた」

ミイラ「……三千年」


ミイラの目に初めて強い興味の色が浮かんだ。


ミイラ「お前も、記録を、託されたのか」

クリス「わからない。私自身の記憶は、断片的だ。ただ、宮殿を守っていた」


ミイラがクリスに少し近づいた。


ミイラ「……お前の中に、私が知らない、記録があるかもしれない」

クリス「その逆も、あるだろう」


虎はその様子を見ながら考えた。


虎(この二人、話が合いそうだな)


虎(同じ立場を経験した者同士だ)


ステラも静かにその光景を見守っていた。


……………………………………………………………………………………………


ミイラが虎に向かって言った。


ミイラ「お前たちは、この記録を、どうする気だ」

虎「街の図書館に、持ち帰るつもりだった」


ミイラの表情が少し険しくなった。


ミイラ「……この記録は、まだ、全部は、読み解けていない」

虎「そうなのか」

ミイラ「私にも、わからない部分が、多い。長い間、一人で、ここにいたから」


虎(一人で抱え続けていたのか)


虎(それは確かに大変だっただろうな)


クリスが静かに言った。


クリス「……私が、手伝おうか」

ミイラ「……」


ミイラがクリスを見た。


その視線に戸惑いと、

かすかな期待が混ざっているように虎には見えた。


……………………………………………………………………………………………


ステラが荷物から残っていた食料を、

また取り出した。


今度は森で採った木の実を温めて出した。


虎は一口食べた。


虎「……」


森で食べた時の、

爽やかな酸味に温めたことで少し丸みが加わっていた。

長い旅の記憶が、

その一口に詰まっているような気がした。


虎「……うまい。旅の終わりに、食べるには、いい味だ」

ステラも一口食べた。


ステラ「……確かに、しみじみとした味です」


ミイラもおそるおそる一つ受け取った。


ミイラ「……」


一口かじってしばらく黙っていた。


ミイラ「……こういう味は、月には、なかった」

虎「そうか」

ミイラ「……悪くない」


……………………………………………………………………………………………


しばらく四人で静かに食事を続けた。


やがてクリスが虎の方を向いて言った。


クリス「……虎、話がある」

虎「聞こう」


クリス「私は、ここに、残ろうと思う」

ステラ「……」


虎は少しの間クリスを見つめた。


虎「……そうか」


クリス「この柱には、まだ、解読していない記録が、山ほどある。それに」


クリスがミイラを見た。


クリス「彼女一人で、抱えるには、大きすぎる。私が、手伝いたい」


ミイラが少し驚いた顔をした。


ミイラ「……私は、頼んでいない」

クリス「頼まれなくても、決めた」


虎(クリスらしい決め方だ)


虎(あいつはいつも自分で答えを出す)


……………………………………………………………………………………………


ステラが静かに聞いた。


ステラ「……クリスさん、寂しくは、ないのですか」

クリス「寂しさより、興味の方が、大きい」


クリスが少し笑った。


クリス「……それに、いつか、また、会える」

虎「そうだな」


虎はクリスに向かって言った。


虎「無理は、するな」

クリス「お前にだけは、言われたくない」


虎が少し笑った。


虎「……確かに」


ミイラが虎とステラを交互に見た。


ミイラ「……お前たちは、私を、信用しすぎではないか」

虎「クリスが、信用したなら、それでいい」

ミイラ「……」


ミイラはそれ以上何も言わなかった。


……………………………………………………………………………………………


夕方近く、

虎とステラは塔を出る準備を始めた。


クリスが荷物の中から自分の杖を確認していた。


クリス「……この杖は、ここでの研究に、使う」

虎「役に立つといい」


ステラがクリスに小さな布包みを渡した。


ステラ「保存食です。しばらくは、これで」

クリス「……ありがとう」


クリスがその包みを大切そうに受け取った。


虎とクリスは少しの間、

黙って向き合った。


虎「また、会おう」

クリス「ああ」


虎は軽くクリスの肩に手を置いた。


……………………………………………………………………………………………


塔の入り口までミイラが見送りに来た。


ミイラ「……感謝は、しない」

虎「それでいい」

ミイラ「だが、悪くは、なかった」


虎(素直じゃないな)


虎(それも悪くない)


塔の外に出ると、

夕日が荒野を赤く染めていた。


ステラが振り返って塔を見上げた。


ステラ「……クリスさん、大丈夫でしょうか」

虎「大丈夫だろう。あいつは、自分で決めた」


……………………………………………………………………………………………


虎とステラ、

二人だけの旅がまた始まった。


虎(三千年の空白を埋める場所を見つけたんだろう)


虎(それもあいつなりの旅の続きだ)


ステラが虎の隣を歩きながら言った。


ステラ「虎様、次は、どこへ」

虎「わからない。だが、面白い場所を、探そう」


荒野の向こうに夕日が沈んでいく。


塔がシルエットになって遠ざかっていった。


二人の影が地面に長く伸びていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「クリスさん、決断しましたね」

虎「あいつらしい選択だった」

ステラ「また、二人旅に、戻りましたね」

虎「久しぶりだな」

ステラ「……少し、寂しいですが」

虎「また会える」

ステラ「……おおむね、そう信じています」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」

虎「次の予告をしてくれ」

ステラ「次回、『虎が、荒野を戻る』」

虎「街に、戻るだけの話だがな」

ステラ「はい。楽しみですね」

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