第84話「虎が、最後の関門を突破する」
階段を上りきると、
そこは今までとは全く違う空間だった。
森の木々、
無数の柱、
静かな水面。
これまで通ってきた三つの階層の要素が、
すべて一つの部屋に混ざり合っていた。
ステラ「……全部、揃っていますね」
虎「集大成、というやつか」
部屋の中央に、
巨大な影がうずくまっていた。
虎たちが近づくと、
その影がゆっくりと立ち上がった。
木の幹のような太い脚、
柱のように硬質な体表、
そして体の各所に、
水鏡のような反射する面を持っている。
クリス「……これは」
虎「三つの試練が混ざった番人か」
……………………………………………………………………………………………
その巨体が低い唸り声を上げた。
姿を森の色に変えながら、
影の中に一瞬溶け込んだ。
ステラ「……擬態も影渡りも、両方使ってきます」
虎「厄介だな」
虎(一つずつなら、対処法はわかっている)
虎(だが、組み合わされると話が違う)
番人が柱の影から急に姿を現した。
虎はそれを両腕で受け止めた。
どごん。
衝撃が体の芯まで響いた。
虎「……重い。今までの、どの試練より、力が強い」
クリスが杖を構えながら言った。
クリス「光で影渡りを封じる」
虎「頼む」
光の玉が部屋中に広がり、
柱の暗がりを一つずつ消していった。
番人が逃げ場を失って、
苛立つように体を大きく振った。
……………………………………………………………………………………………
その反動で、
体表の色が森の緑から、
むき出しの黒い地肌に戻った。
ステラ「……擬態も崩れています」
虎「今のうちだ」
虎は番人の脚に向かって、
一気に距離を詰めた。
だが番人の体表の一部が、
鏡のように光った。
虎の姿がそこに映り込んだ瞬間、
番人の攻撃が、
まるで虎自身の動きを先読みしたかのように飛んできた。
虎「……なるほど、水鏡の力も使うのか」
虎はとっさに軌道を変えて避けた。
虎(動きを読まれている。同じ攻め方は通用しない)
ステラがすかさず、
番人の背後から攻撃を仕掛けた。
ステラ「私の動きは、まだ読まれていません」
ステラの一撃が番人の背中に確かに入った。
番人が体を大きく揺らして、
苦しげな声を上げた。
クリス「弱点は鏡面の少ない、背中側だ」
虎「わかった」
……………………………………………………………………………………………
虎とステラが連携して、
番人の正面と背後から交互に攻撃を繰り出していく。
番人が反射面を虎の方に向けようとすると、
ステラが背後から攻め、
ステラの方に向けようとすると、
虎が正面から攻めた。
番人(……こんな連携は)
その動きが、
どこか戸惑っているようにも虎には見えた。
虎(一人相手なら無敵の力なんだろう。だが俺たちは一人じゃない)
クリスが最後の光の玉を、
番人の全身に浴びせた。
擬態も影渡りも封じられた番人が、
むき出しの姿で立ち尽くした。
虎はその隙を逃さず、
体の頑丈さ修行と、
肉体火力修行の両方の成果を込めて、
拳を放った。
どごおん。
大きな音とともに、
番人の体に深い亀裂が走った。
番人がゆっくりと膝をついた。
そしてこれまでの試練の生物たちと同じように、
光となって静かに消えていった。
ステラ「……終わりました」
虎「ああ」
……………………………………………………………………………………………
クリスが息を整えながら言った。
クリス「……三つの力が合わさった相手だった。だが私たちも、三人でそれに応えられた」
虎「連携の勝ちだな」
虎(一万年前、一人で戦っていた頃には、こういう戦い方はなかった)
虎(これも悪くない)
戦いの後、
部屋の奥に上へ続く、
最後の階段が現れた。
その手前で、
三人は少しだけ休むことにした。
ステラが荷物から、
残っていた食材をすべて取り出した。
木の実と干し肉を炙って合わせた、
即席の料理だった。
……………………………………………………………………………………………
虎は一口食べた。
虎「……」
木の実の酸味と干し肉の塩気が、
意外なほどよく合っていた。
戦いの後の空腹に、
まっすぐ染み込んでくる味で、
今まで食べてきたどの携帯食よりも満足感があった。
虎「……うまい。手持ちの物を、組み合わせただけなのに」
ステラ「残り物を、集めただけですが」
クリス「……最後の試練の後だからか、格別に感じる」
食べ終えて、
虎は最後の階段を見上げた。
虎「あそこが、頂上だな」
クリス「間違いない。魔力の反応が、これまでで一番強い」
ステラが少し緊張した面持ちで言った。
ステラ「……いよいよですね」
虎「そうだな」
……………………………………………………………………………………………
三人は立ち上がって、
最後の階段に足をかけた。
一段ずつ上っていくたびに、
空気が張り詰めていくのがわかった。
虎(この先に、月文明の手がかりが待っている)
虎(そして、アショカの柱、そのものが)
階段の先に、
淡い光が差し込んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「あの番人、強敵でしたね」
虎「三つの力が合わさっていた」
ステラ「連携で突破できました」
虎「一人じゃ厳しかったかもしれない」
クリス「……いよいよ、最上階だ」
虎「ああ」
ステラ「……おおむね、感慨深いものがあります」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、最上階に立つ』」
虎「何が待っているか」
ステラ「はい。楽しみですね」




