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虎無双、虎無双。  作者: BB
7章

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83/117

第83話 「虎が、次の試練を越える」

通路の先に広がっていたのは、

床一面に水が張られた、

静かな回廊だった。


天井には、

無数の鏡のような、

磨かれた石が埋め込まれていて、

水面にその光景を映し出している。


ステラ「……水と鏡、ですか」

虎「足元、深そうだな」


クリスが慎重に水面を確かめた。


クリス「膝下ほどの深さだ。だが、この水、ただの水じゃない」


虎(何かしら、意味を持たされた場所だな)


虎(先へ進んでみるしかない)


三人が回廊を進み始めると、

水面が急に波打った。


……………………………………………………………………………………………


水面の奥から、

声のようなものが響いた。


声(……そなたらの、真の目的を、語れ)

ステラ「……声が」

虎「試練の、案内役か」


声(言葉に、偽りがあれば、道は、開かぬ)


水面が、

三人をそれぞれ、

別々の場所へと、

分けるように、

淡く光り始めた。


……………………………………………………………………………………………


虎の前に、

水面が像を結んだ。


そこに映ったのは、

一万年前、

飽き飽きした目をして、

砂漠に佇む、

自分の姿だった。


声(そなたは、何を、求めて、旅をしている)


虎はしばらく、

その映像を見つめた。


虎「……面白いものを、探している」


水面が、

かすかに揺れた。


それだけか


虎は、

少し考えてから、

続けた。


虎「一万年、退屈だった。あの頃の俺は、何もかもに、飽きていた。今は、違う」

虎「うまいものがあって、話す相手がいて、明日が、何が起きるか、わからない」

虎「それが、面白い。だから、探している」


映像の中の、

虚ろな目をした虎が、

静かに、

水の中へと、

沈んでいった。


声(……偽りなし。進むがいい)


虎の足元の水が、

一段、

引いていった。


……………………………………………………………………………………………


少し離れた場所で、

ステラの前にも、

水面が像を結んでいた。


そこに映っていたのは、

出会ったばかりの頃、

何の表情もなかった、

自分自身だった。


声(そなたは、なぜ、仕えている)


ステラは、

その映像を見つめながら、

静かに答えた。


ステラ「……最初は、命じられたからでした」


ステラ「でも、今は違います。虎様の隣にいることを、私自身が選んでいます」

ステラ「うまいものを一緒に食べて、旅をして、笑うことを、覚えました」

ステラ「……それは、命令では、ありません。私が、望んだことです」


水面の、

表情のない自分の姿が、

少しだけ、

微笑んだように見えて、

静かに沈んでいった。


声(……偽りなし。進むがいい)


……………………………………………………………………………………………


クリスの前にも、

水面が像を結んだ。


そこに映っていたのは、

宮殿の中で、

三千年、

一人で座り続けていた、

自分自身だった。


声(そなたは、失われた時を、どうする)


クリスは、

その映像を、

じっと見つめた。


クリス「……三千年を、取り戻そうとは、思わない」


なぜだ


クリス「取り戻せるものではないからだ。あの時間は、確かに、あった。だが、それは、過去だ」

クリス「私は、今から、新しく、時間を作っていく。虎とステラと、この旅の中で」


映像の中の、

座り続ける自分の姿が、

ゆっくりと立ち上がり、

水の中へと、

消えていった。


声(……偽りなし。進むがいい)


……………………………………………………………………………………………


三人の足元の水が、

すべて引いていき、

回廊の先に、

乾いた道が現れた。


ステラ「……終わったんですね」

虎「そうらしいな」


クリスが、

静かに息を吐いた。


クリス「……自分の言葉にすると、思っていた以上に、重みがある」

虎「そうだな」


回廊の奥に、

石でできた小さな祭壇があった。


そこに、

今までよりも濃い、

月文明を思わせる紋様が、

刻まれていた。


クリスが、

その紋様に、

そっと触れた。


クリス「……近づいている。この意匠、宮殿にあったものと、ほとんど同じだ」


……………………………………………………………………………………………


虎(頂上が、近いということか)


虎(もう少しだな)


祭壇の脇に、

休める空間があったので、

三人は一旦、

腰を下ろすことにした。


ステラが荷物から、

残っていた携帯食と、

先ほどの木の実を、

取り出した。


虎は木の実を、

一口食べた。


虎「……」


先ほどの試練で、

自分の言葉を、

声にした後のせいか、

爽やかな酸味が、

いつもより、

深く感じられた。

胸の奥に、

何かが、

少し軽くなったような感覚があった。


虎「……うまい。心が、軽くなった後の飯は、また、違う味がするな」

ステラも一口食べた。


ステラ「……確かに、そうかもしれません」


クリスが、

祭壇を見つめながら言った。


クリス「……この塔、上に行くほど、試練が、内面的になっている気がする」

虎「森は、外の敵。柱は、隠れた敵。ここは、自分自身の、言葉」

クリス「そうだ。おそらく、次は、もっと違う何かが、待っているだろう」


虎(面白い構造だ)


虎(誰が、こんな仕組みを作ったんだろうな)


……………………………………………………………………………………………


休憩を終えると、

祭壇の奥に、

上へ続く階段が、

現れた。


先ほどまでとは違い、

その階段には、

かすかな光が灯っていた。


ステラ「……この光、道しるべでしょうか」

虎「そう思っておこう」


クリスが立ち上がって、

杖を握り直した。


クリス「……次で、いよいよ、最上階に近づくはずだ」


虎は階段を見上げた。


虎「行くぞ」

ステラ「はい」


三人は、

光の灯る階段を、

一段ずつ、

上っていった。


回廊の水面が、

静かに、

彼らの背中を映していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「自分の言葉で答える試練、不思議な体験でしたね」

虎「言葉にすると、はっきりするものがある」

ステラ「私も、初めて、口にした思いがありました」

クリス「……三千年分、少し、軽くなった気がする」

虎「次で、最上階に近づくらしい」

ステラ「……おおむね、いよいよ終盤ですね」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」

虎「次の予告をしてくれ」

ステラ「次回、『虎が、最後の関門を突破する』」

虎「最大の試練、というやつだな」

ステラ「はい。楽しみですね」

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