第81話「虎が、森林階層に挑む」
翌朝、
三人は鉄塔の入り口に立った。
裂け目の奥は、
思ったより広く、
中に足を踏み入れると、
空気が一変した。
ステラ「……これは」
虎「森、か」
外から見た金属の塔とは思えないほど、
青々とした木々が生い茂り、
鳥の声まで聞こえてきた。
クリス「……幻覚ではない。本当に、森としての機能を持っている」
虎「柱の内側に、こんな空間が」
虎(あの街の噂通りだ。森の階層、というやつだな)
虎(先へ進むしかない)
……………………………………………………………………………………………
三人は木々の間を、
慎重に進んでいった。
しばらく歩くと、
足元の草が、
不自然に揺れた。
ステラ「……何か、います」
虎「わかっている」
木の幹に、
何か大きな影がへばりついていた。
だが、
見た目は木肌そのもので、
言われなければ気づかないほどだった。
クリス「……カメレオンか」
虎「擬態しているな」
……………………………………………………………………………………………
影が、
急に動いた。
体長は虎の背丈ほどある、
巨大なトカゲのような生物だった。
体表の色が、
周囲の木々と同じ模様に、
瞬時に変化していく。
虎はその動きを、
じっと観察した。
虎(目で追うのは、難しいな。だが)
虎(気配までは、消せていない)
ステラが構えながら言った。
ステラ「姿が見えなくなりました」
虎「音と匂いで、追える」
……………………………………………………………………………………………
虎は目を閉じて、
気配を辿った。
背後から、
気配が急速に近づいてくる。
振り返らずに、
虎は腕を後ろに振った。
拳が、
何かに当たる感触があった。
カメレオンの姿が、
一瞬だけ、
はっきり現れて、
すぐにまた木々に紛れた。
虎「見えたぞ」
クリス「捕捉した。位置を、伝える」
クリスが杖の先を、
小さく光らせた。
淡い光の粒が、
カメレオンの周囲に、
まとわりついた。
……………………………………………………………………………………………
姿を隠しても、
その光だけは、
消えなかった。
虎「これは、いい」
クリス「擬態は、視覚を欺くだけだ。魔力の粒子までは、隠せない」
光の位置を頼りに、
虎が距離を詰めた。
カメレオンが、
慌てて逃げようとしたが、
その動きは、
もう光で丸見えだった。
虎は、
その巨体を、
正面から受け止めた。
どごん。
一撃で、
カメレオンの動きが止まった。
しばらくすると、
その姿は、
淡い光になって、
消えていった。
ステラ「……倒すと、消えるんですね」
虎「試練の一部、ということだろう」
……………………………………………………………………………………………
森はさらに奥へと続いていた。
歩きながら、
ステラが木の実を見つけた。
ステラ「……食べられそうな実です」
慎重に確認してから、
一つ手に取ってみた。
虎が受け取って、
一口かじった。
虎「……」
外側は硬かったが、
中の果肉は柔らかく、
噛むたびに、
爽やかな酸味が広がった。
森の湿った空気の中で食べると、
その酸味が、
妙に体に染み渡る感じがした。
虎「……うまい。この階層、意外と、恵みがあるな」
ステラも一口食べた。
ステラ「……確かに、爽やかです」
クリスも味わいながら言った。
クリス「……この森、単なる試練の場ではなく、生態系として機能している」
虎「そういうことか」
虎(力ずくの牢獄ではなく、一つの世界を、内部に作り上げている)
虎(一万年前にも、こんな技術はなかった)
……………………………………………………………………………………………
森の奥に進むと、
さらに数体の、
カメレオン型の魔物が現れた。
だが、
一度コツを掴んだ後は、
クリスの魔力探知と、
虎の反射で、
着実に対処できた。
ステラも、
自分の動きで、
一体を誘導して、
虎の一撃に繋げた。
しばらく戦った後、
森が急に開けた。
そこに、
上へと続く階段があった。
石でできた、
古い階段だった。
虎「……ここが、この階層の終わりか」
……………………………………………………………………………………………
クリスが、
階段を見上げながら言った。
クリス「次の階層は、また違う環境のはずだ」
虎「柱が並ぶ場所だと、聞いていたな」
階段の手前で、
少し休憩を取ることにした。
ステラが、
先ほど見つけた木の実を、
もう少し集めていた。
ステラ「持って帰れるだけ、持って帰りましょう」
虎「いい判断だ」
虎(この森の恵みは、旅の間、役に立ちそうだ)
……………………………………………………………………………………………
一息ついてから、
虎は階段を見上げた。
虎「次だな」
ステラ「はい」
クリスが杖を握り直した。
クリス「柱の階層、どんな試練が待っているか」
三人は、
階段を、
上へと登り始めた。
森の緑が、
少しずつ、
後方に遠ざかっていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「森林階層、無事に突破しましたね」
虎「カメレオン、面白い相手だった」
ステラ「木の実も、収穫できました」
虎「うまかったな」
クリス「……次は、柱の階層らしい」
虎「影に潜む敵がいる、という話だったな」
ステラ「……おおむね、油断できない予感がします」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、柱の影を追う』」
虎「今度は、光じゃなく、影が鍵か」
ステラ「はい。楽しみですね」




