第80話「虎が、鉄塔を見上げる」
翌朝早く出発すると、
昼過ぎには鉄塔の麓に到着した。
近くで見ると、
その大きさは想像以上だった。
金属質の表面には、
苔のような植物が絡みつき、
長い年月を物語っていた。
ステラ「……見上げても、頂上が見えません」
虎「かなりの高さだな」
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麓の少し離れた場所に、
小さな集落があった。
粗末な木造の家が数軒、
寄り添うように建っている。
住民の一人が、
虎たちに気づいて、
警戒した様子で近づいてきた。
住民「……旅人か。まさか、あの塔に用があるのか」
虎「そうだ」
住民が、
少し表情を曇らせた。
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住民「やめておいた方がいい。あそこに入って、無事に戻ってきた者は、いないんだ」
ステラ「そんなに、危険なのですか」
住民「危険というより……跳ね返される、という方が近いかもしれん」
虎「跳ね返される」
住民「財宝があると噂を聞いて、何人もの冒険者が挑んだ。だが、みんな、途中で追い出されたように、外に放り出されて戻ってきた」
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クリスが興味深そうに聞いた。
クリス「怪我をした者は」
住民「不思議と、大怪我はしない。ただ、二度と、挑もうとはしなくなる」
虎(面白い話だ)
虎(力ずくの脅威ではなく、何か別の仕組みがあるのかもしれない)
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住民が続けた。
住民「あの塔は、昔は、ただの石柱だったと、爺さんから聞いたことがある。それが、いつの間にか、あんな姿になったんだと」
虎「石柱が、成長した、ということか」
住民「そう言われている。何百年、何千年とかけて、少しずつな」
クリスが小さくつぶやいた。
クリス「……三千年、か」
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集落の広場で、
話を聞きながら、
一軒の食堂に案内された。
店主が、
干し肉を使ったスープを、
出してくれた。
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虎は一口飲んだ。
虎「……」
塩気の強いスープで、
干し肉の旨みが、
じっくり溶け出していた。
荒野の粗末な暮らしの中で作られた味らしく、
派手さはなかったが、
体の奥にしっかり染み込むような、
実直な味だった。
虎「……うまい。飾らないが、いい味だ」
店主「この辺りでは、これしか作れないんでね」
ステラも一口飲んだ。
ステラ「……素朴ですが、温まります」
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食事をしながら、
店主がさらに話してくれた。
店主「塔に挑んだ連中は、みんな、口を揃えて言うんだ。中に、いくつも、試練がある、と」
虎「試練」
店主「森みたいな階層があったり、柱がたくさん並んだ階層があったり。詳しくは、誰も、最後まで語れないがね」
虎(階層ごとに、違う環境か)
虎(面白い作りだ)
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クリスが、
考え込むように言った。
クリス「……単純な防衛機構ではなさそうだ。何かの意図があって、こういう構造になっている」
虎「意図とは」
クリス「わからない。だが、資格のある者だけを、上に通す仕組み、というのは、あり得る」
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食後、
店主に礼を言って、
再び塔の前に立った。
近くで見上げると、
入り口らしき裂け目が、
根元に見えた。
ステラ「……あそこから、入れそうですね」
虎「ああ」
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虎は入り口の前で、
一度、
中の気配を探ってみた。
虎(静かだ。だが、確かに、何かが、うごめいている)
虎(力任せに突破するより、慎重に進んだ方がいいだろう)
クリスが杖を構えながら言った。
クリス「準備は、いいか」
虎「ああ」
ステラ「私も」
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だが、
日が傾き始めていたので、
今日はここまでにして、
麓で野営することにした。
集落の外れに、
テントを張った。
ステラが、
荷物から最後の携帯食を取り出した。
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虎は一口食べた。
虎「……」
もう何度も食べてきた保存食の味だったが、
明日への準備の時間だと思うと、
不思議と、
落ち着く味に感じられた。
噛むほどに出てくる旨みが、
これからの探索への、
静かな覚悟を促してくるようだった。
虎「……この味も、悪くない。慣れてきたな」
ステラ「もう、旅の相棒のような味ですね」
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クリスが、
塔の方角を見ながら言った。
クリス「……明日、あの中に入る」
虎「ああ」
クリス「何が待っているにせよ、行くしかない」
虎(月文明の手がかりが、あの中にある)
虎(アショカの柱に、封じられていたものが)
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夜、
焚き火の前で、
ステラが虎に言った。
ステラ「虎様、緊張していますか」
虎「していない」
ステラ「……そうですか」
虎「だが、楽しみにはしている」
ステラが少し笑った。
ステラ「その言い方、虎様らしいです」
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星が、
鉄塔の輪郭を、
静かに照らしていた。
三人は焚き火を囲みながら、
明日からの探索に備えて、
早めに休むことにした。
虎(さて、どんな試練が、待っているか)
夜が、
荒野を、
静かに包んでいった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「塔の噂、興味深いものでしたね」
虎「跳ね返される、というのが気になる」
ステラ「階層ごとに、違う環境があるようです」
虎「森や、柱の階層、と言っていたな」
クリス「……いよいよ、明日、中に入る」
虎「そうだ」
ステラ「……おおむね、準備は整いました」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、森林階層に挑む』」
虎「最初の試練だな」
ステラ「はい。楽しみですね」




