第79話「虎が、荒野を進む」
街道の終点を過ぎると、
景色が一変した。
緑がほとんどなく、
乾いた岩と土だけが、
どこまでも続いている。
ステラ「……ここからは、地図にない道ですね」
虎「ああ」
クリスが杖を軽くかざして、
周囲の魔力を確認した。
クリス「……独特な気配がする。街とは、違う種類の静けさだ」
風が、
砂埃を巻き上げながら吹いていた。
虎は目を細めて、
遠くを見渡した。
虎(生き物の気配が、少ない)
虎(一万年前にも、こういう場所はあった)
ステラが荷物を確認しながら言った。
ステラ「保存食は、十分にあります。水も、街で補充してきました」
虎「頼りにしている」
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一日目の道のりは、
特に何事もなく進んだ。
岩場を越え、
乾いた川底のような場所を通り、
夕方には野営することになった。
クリスが焚き火の準備をしながら言った。
クリス「……この辺りの土、少し変わっている。魔力が、うっすら残っている感じがする」
虎「何かの痕跡か」
クリス「はっきりとは、わからない。だが、無視できない」
夜、
携帯食を分け合った。
ステラが乾燥させた肉と、
硬いパンを取り出した。
虎は一口食べた。
虎「……」
塩気が強く、
噛むほどに、
凝縮された肉の旨みが出てきた。
パンは硬かったが、
水分を含んだ肉と一緒に食べると、
ちょうどいい食べ応えになる。
街の食事に比べれば地味だったが、
体を支えるには十分な味だった。
虎「……悪くない。長旅向きの味だ」
ステラ「街で選んでもらった、保存性の高いものです」
クリスも一口食べながら言った。
クリス「……派手さはないが、力が入る味だな」
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二日目、
三日目と、
荒野を進んだ。
道のりは単調だったが、
時折、
奇妙な岩の形や、
古い建造物の跡らしきものが、
見つかった。
ステラが一つの岩を見て言った。
ステラ「……この模様、人工的な気がします」
虎「見せてくれ」
近づいて確認すると、
かすかに文字のようなものが、
刻まれていた。
虎「……読めない。摩耗しすぎている」
クリスが岩に手を触れた。
クリス「……古い。相当、古いものだ」
虎「関係あるものか」
クリス「わからない。だが、この辺り一帯、何かの痕跡が、散らばっている気がする」
虎(アショカの柱に、近づいている証拠かもしれない)
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五日目の昼、
食事の時間になった。
今日は少し趣向を変えて、
ステラが道中で見つけた、
食べられる根菜を、
火であぶることにした。
ステラ「街の司書さんに教わった食材です。この辺りに自生していると聞いていました」
虎は一口食べた。
虎「……」
素朴な甘みがあり、
噛むとほくほくとした食感が広がった。
保存食の塩気とは違う、
自然な味わいが、
荒野の中で妙に新鮮に感じられた。
虎「……うまい。荒野にも、うまいものがあるんだな」
ステラ「見つけられて、よかったです」
クリスも一口かじった。
クリス「……素朴だが、悪くない」
食後、
再び歩き始めた。
虎が、
ふと足を止めた。
虎「……あれか」
遠くの地平線に、
何か巨大なものが、
そびえ立っているのが見えた。
ステラも、
その方向を見た。
ステラ「……あれは」
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輪郭は、
まだはっきりしなかったが、
それは明らかに、
自然物ではなかった。
金属質の光沢を放ち、
天に向かって、
まっすぐに伸びている。
クリスが、
杖を強く握った。
クリス「……あれだ」
虎「間違いないか」
クリス「魔力の反応が、あそこから、はっきり感じられる。今までの、どの痕跡よりも、強い」
虎(あれが、アショカの柱の、なれの果てか)
虎(想像していたより、大きい)
ステラが、
その巨大な塔を見つめながら言った。
ステラ「……あの大きさ、街の建物とは、比べ物になりませんね」
虎「そうだな」
風が、
三人の間を、
吹き抜けていった。
クリスが、
静かにつぶやいた。
クリス「……三千年前、私が眠っていた頃の記憶に、あんな景色は、なかった」
虎「変化したんだろう。長い年月をかけて」
虎は、
遠くの塔を、
じっと見つめた。
虎(あそこに、次の手がかりがある)
虎(もう少しだ)
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日が傾き始めていた。
三人は、
その日の野営地を選びながら、
塔の方向を、
何度も確認した。
ステラ「明日には、麓に着けそうですね」
虎「急ぐ必要はない。着実に進もう」
クリスが、
塔を見上げながら言った。
クリス「……あの塔の中に、何が待っているのか」
夜が来て、
遠くの塔の輪郭が、
星明かりの中に、
静かに浮かび上がっていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「ついに、塔が見えましたね」
虎「思ったより、大きかった」
ステラ「クリスさんも、強い反応を感じたようです」
クリス「……間違いなく、あれだ」
虎「明日には、麓に着く」
ステラ「……おおむね、予定通りの旅路です」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、鉄塔を見上げる』」
虎「いよいよ、近づくな」
ステラ「はい。楽しみですね」




