第78話「虎が、未開の地へ向かう」
翌朝、
図書館に立ち寄ると、
司書が正式な書類を用意して待っていた。
司書「調査許可証です。未開拓地帯への立ち入りが、正式に認められました」
虎は書類を受け取った。
虎「ありがたい」
司書「館長からも、くれぐれもよろしくと」
館長も見送りに来ていた。
館長「アショカの柱が本当にあるなら、これは歴史的な発見になる。無事に戻ってきてくれ」
虎「必ず戻る」
クリスが地図を広げながら言った。
クリス「未開拓地帯までは、街道の終点から、さらに歩くことになる」
ステラ「どのくらいかかりますか」
司書「馬車が使える範囲を過ぎると、あとは徒歩です。二週間ほどを見込んでください」
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準備のため、
一旦街に戻って買い出しをすることにした。
市場では、
すでに旅立ちの噂が広まっていたらしく、
何人もの住民が声をかけてきた。
商人A「未開拓地帯に行くんだって? 保存食、うちのが一番だぞ」
商人B「うちの防寒具も見ていってくれ、あの辺りは夜が冷えるからな」
虎(この街は、噂の回るのが早いな)
でこぼこ饅頭の店主も、
店先から声をかけてきた。
店主「祭りの後、すぐ旅立ちか。寂しくなるな」
虎「また来る」
店主「約束だぞ。土産に、日持ちする饅頭、持っていけ」
店主が包みを差し出してきた。
ノラも、
案内所から駆けつけてきた。
ノラ「間に合ってよかった。これ、街のみんなから」
寄せ書きの入った布と、
小さな飾りが手渡された。
ステラ「……ありがとうございます」
ノラ「でこボコまつり、また開催したら、必ず報告しますね」
虎「楽しみにしている」
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昼、
最後の食事に、
ゴリアスたちと出会ったあの庭園近くの食堂に立ち寄った。
店主が、
虎たちを見て笑った。
店主「旅立つ前の腹ごしらえか。今日は特別に、腹に溜まるやつを出してやる」
運ばれてきたのは、
干し肉と穀物を煮込んだ、
濃厚なシチューだった。
虎は一口食べた。
虎「……」
干し肉の旨みが濃く煮出されていて、
穀物がそれを吸い込んで、
ずっしりとした満足感になっていた。
長旅を前提にした味付けなのか、
塩気がしっかりしていて、
体に力が入るような感覚があった。
虎「……うまい。これなら、道中も、腹が持ちそうだ」
店主「未開の地は、うまいものにありつけないだろうからな。今のうちに食っておけ」
ステラも一口飲んだ。
ステラ「……確かに、力の出る味です」
クリス「街を離れる前に、こういう味を覚えておくのも悪くない」
虎(この街には、本当に世話になった)
虎(また、いつか戻ってくる)
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食後、
街の門まで歩いた。
案内係が、
そこで待っていた。
案内係「聞いたぞ、未開拓地帯に行くんだってな」
虎「ああ」
案内係「気をつけてな。あそこは、この街の連中でも、めったに足を踏み入れない場所だ」
虎「面白そうな場所だ」
案内係「相変わらずだな、あんた」
案内係が笑って、
最後に大きな声で言った。
案内係「街の器が大きいのは、また来た時にも、変わらないからな! いつでも戻ってこい!」
虎「そうする」
門をくぐると、
街道の先に、
緑の少ない、
荒涼とした地形が見え始めていた。
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しばらく歩いて、
街が遠くなった頃、
ステラが振り返った。
ステラ「……いい街でしたね」
虎「ああ」
クリスが地図を確認しながら言った。
クリス「ここから先、道が細くなる。街道の終点まで、あと三日ほどだ」
虎「わかった」
夕方、
街道の途中で野営することになった。
ステラが荷物から、
店主にもらった饅頭を取り出した。
ステラ「今夜は、これを」
火を起こして、
軽く温めてから、
三人で分けた。
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虎は一口食べた。
虎「……」
祭りの日に食べたものより、
少し甘みが控えめになっていた。
保存を考えた配合なのか、
生地がしっかりしていて、
噛むほどに、
じんわりとした甘さが出てきた。
温めたことで、
香りが立って、
街の記憶が、
そのまま口の中に戻ってくるようだった。
虎「……うまい。あの街の味を、持ってきたみたいだ」
ステラ「保存食にしても、丁寧な味ですね」
クリスも一口食べながら言った。
クリス「……この味も、覚えておく」
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夜が更けて、
焚き火の周りで、
虎は空を見上げた。
星がいつもより多く見えた。
虎(未開拓地帯には、何が待っているのか)
虎(アショカの柱が見つかれば、月文明の手がかりに、また近づける)
ステラが虎の隣に座った。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「新しい旅、楽しみですね」
虎「ああ」
クリスが焚き火に、
薪をくべながら言った。
クリス「……月文明の記憶が、少しずつ繋がっていく感覚がある」
虎「そうか」
クリス「三千年前の私には、わからなかったことが、この旅で見えてくる」
虎(面白い旅になっている)
虎(一万年前の俺には、想像もできなかった道のりだ)
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焚き火が、
夜の闇の中で静かに揺れていた。
三人の影が、
地面に長く伸びている。
虎は目を閉じて、
明日からの道のりを思った。
ステラ「おやすみなさい、虎様」
虎「ああ、おやすみ」
夜の未開拓地帯への道が、
静かに三人を待っていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「街のみんな、温かく見送ってくれましたね」
虎「世話になった」
ステラ「饅頭の味、街の記憶そのものでした」
虎「うまかった」
クリス「……未開拓地帯まで、あと少しだな」
虎「そうだ」
ステラ「……おおむね、順調な旅立ちです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、荒野を進む』」
虎「どんな地形が待っているか」
ステラ「はい。楽しみですね」




