第74話「虎が、街を歩き回る」
翌朝、
虎たちは特に予定もなく、
街を歩いていた。
大通りを外れた静かな区画に、
差し掛かった。
そこに古びた掲示板が立っていた。
ステラが足を止めて、
掲示板を見た。
ステラ「……何か貼ってありますね」
『ビッグ・ノーマル相互理解促進地域交流委員会、参加者募集』
長い名前がびっしりと書かれていた。
虎「……長いな」
クリス「読むのに少し時間がかかる名前だ」
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掲示板の下に、
小さな案内所が併設されていた。
中から一人の女性が顔を出した。
疲れた様子だったが、
明るく声をかけてきた。
女性「あら、興味ありますか」
ステラ「その、名前が目に留まりまして」
女性が苦笑いした。
女性「ノラといいます。この活動を担当しているんです」
虎「虎だ」
ノラ「ビッグ人とノーマルサイズの人たちが、もっと自然に交流できるようにって、活動を続けているんですけど」
ノラが少し肩を落とした。
ノラ「正直なところ、あまり人が集まらなくて」
ステラ「そうなのですか」
ノラ「街としては共存してますし、日常的に接する機会は多いんです。でも、こういう意識的な交流の場となると、なかなか」
虎(面白そうな課題だな)
虎「詳しく聞かせてくれ」
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案内所の中に招かれた。
小さなテーブルに、
これまでの活動記録が積まれていた。
ノラ「毎月、集まりを開いているんですけど、来る人はいつも同じ顔ぶれで」
虎「新しい人が増えないのか」
ノラ「はい。掲示板を見ても、ピンと来ないみたいで」
ステラが記録を確認しながら言った。
ステラ「……確かに、活動内容が少しわかりにくいですね」
ノラ「そうなんです。真面目に、きちんと伝えようとすると、どうしても堅い言い方になってしまって」
クリスが静かに言った。
クリス「……悪くない目的だと思う。手伝わせてもらってもいいだろうか」
ノラが驚いた顔をした。
ノラ「本当ですか。助かります……!」
虎「せっかくなら、少し見学させてくれ。今日の活動は何をする」
ノラ「今日は配布用のチラシ作りです。ビッグ人向けと、ノーマル向け、両方印刷しないといけなくて」
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案内所の奥で、
数人のボランティアがチラシを折り畳んでいた。
みな真面目な顔で、
黙々と作業をしている。
虎(活気が、あまりないな)
虎(悪い雰囲気ではないが、楽しそうにも見えない)
虎とステラ、
クリスも作業に加わった。
ステラが手際よくチラシを折っていく。
ステラ「……この作業、単調ですが、確かに必要ですね」
ノラ「地道な部分ですけどね」
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しばらく作業を続けた後、
昼休憩の時間になった。
ノラが近くの食堂を案内してくれた。
食堂はビッグ人向けと、
ノーマル向けの両方の座席が用意されていた。
ノラ「ここの定食がおすすめです」
運ばれてきたのは、
魚の煮付けと炊き込みご飯の定食だった。
虎は一口食べた。
虎「……」
魚は出汁がしっかり染みていて、
噛むほどに旨みが広がった。
炊き込みご飯は具材の味が、
米粒の一つ一つに行き渡っている。
どこか、
ほっとするような家庭的な味だった。
虎「……うまい。落ち着く味だ」
ノラ「ありがとうございます。……ここも、この街の共存を象徴するお店なんです。夫婦で経営していて。一人はビッグ人、一人はノーマルサイズなんですよ」
ステラも一口食べた。
ステラ「……確かに、優しい味です」
クリス「……この街には、こういう店が多いな」
虎(この街には共存の下地は、しっかりある)
虎(だが意識的な交流となると、話は別なんだな)
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食事をしながら、
ノラが話を続けた。
ノラ「実は来月、大きな集まりを開こうと思っているんです。でも今のままだと、また参加者が少ないんじゃないかって」
虎「今の名前だと、確かに興味を持ちにくいな」
ノラ「……そう思いますか」
虎「『ビッグ・ノーマル相互理解促進地域交流委員会』、長すぎる。何をする集まりか、名前を見ただけじゃわからない」
ノラが苦笑いした。
ノラ「……正直、私もそう思ってました。でも正式な名前だから、変えられないって思い込んでいて」
ステラが興味深そうに言った。
ステラ「虎様、何かいい案がありますか」
虎「まだ、これといったものはないが」
虎(もう少し考えてみる価値はある)
虎「もう少し、この活動を手伝わせてくれ」
ノラが目を輝かせた。
ノラ「本当ですか……!」
虎「面白そうだからな」
クリスが静かに言った。
クリス「……月文明の調査は、まだ少し時間がかかる。ちょうどいい」
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午後、
再び案内所に戻った。
作業を続けながら、
ノラが虎に聞いた。
ノラ「虎さんたちは、どうしてこの街に来られたんですか」
虎「図書館で調べ物をしている」
ノラ「そうなんですね」
夕方になり、
今日の作業が一段落した。
ノラが虎たちに頭を下げた。
ノラ「今日は本当にありがとうございました。また明日も来ていただけますか」
虎「もちろんだ」
外に出ると、
夕日が街をオレンジ色に染めていた。
ステラが虎に言った。
ステラ「虎様、この活動、うまくいくといいですね」
虎「ああ。まだ考えることがありそうだが」
虎(名前だけじゃない。もっと根本的に変えられる部分があるはずだ)
虎(明日、じっくり考えてみよう)
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夜、
宿に戻る道すがら、
クリスが静かに言った。
クリス「……こういう地道な取り組み、悪くないな」
虎「そうだな」
夜風が街を静かに包んでいた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「ノラさんの活動、手伝うことになりましたね」
虎「面白そうな課題だ」
ステラ「名前が長すぎるのが、問題の一つでしたね」
虎「他にも改善できる部分があるはずだ」
クリス「……明日は企画を練ることになりそうだな」
虎「そうだ」
ステラ「……おおむね、いい方向に進みそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、企画を練る』」
虎「どんな案が出るか」
ステラ「はい。楽しみですね」




