第73話「虎が、街を満喫する」
翌朝、
虎たちは久しぶりに、
予定のない一日を過ごすことにした。
ステラ「調査許可が下りるまで、しばらく時間があります」
虎「それなら、この街を、もう少し見て回るか」
クリス「賛成だ」
……………………………………………………………………………………………
宿を出ると、
昨日とは違う、
朝の街の顔があった。
市場が立ち始めていて、
商人たちが、
威勢のいい声を上げている。
商人A「新鮮な野菜だぞ、でかいのから小さいのまで揃ってる!」
商人B「うちの魚は、ビッグシー産の一級品だ!」
虎「相変わらず、賑やかだな」
ステラ「この街らしいですね」
……………………………………………………………………………………………
大通りを歩いていると、
案内係の姿を見かけた。
案内係「おお、あんたたちか! 図書館は、順調そうだな」
虎「ああ、少し進展があった」
案内係「そりゃよかった。今日は、休みか」
虎「そうだ」
案内係が、
にやりと笑った。
案内係「なら、いい店を教えてやる。この街の甘味処だ。ここに来たら、外せない」
……………………………………………………………………………………………
案内された先は、
路地の奥にある、
小さな菓子屋だった。
看板には、
『栗入りヨウカン』
と書かれている。
店主が、
奥から出てきた。
店主「いらっしゃい。うちの看板商品、食べていくかい」
……………………………………………………………………………………………
店主が、
切り分けたヨウカンを、
皿に載せて出してきた。
つややかな黒い断面に、
大きな栗が、
いくつも埋まっている。
虎は一口食べた。
虎「……」
甘さが、
ずっしりと来た。
だが、
くどくない甘さで、
噛むたびに、
豆の風味が、
奥から広がってくる。
中の栗は、
ほくほくとした食感で、
その素朴な甘みが、
ヨウカンの濃厚さと、
うまく釣り合っていた。
虎「……うまい。この街の食べ物は、どれも、力強いな」
店主「だろう。うちは、栗を、大きめのまま、丸ごと入れるのが、こだわりでね」
ステラも一口食べた。
ステラ「……栗の食感が、しっかり残っていますね」
クリスが、
ヨウカンを見つめながら言った。
クリス「……この街に来てから、甘いものを、色々食べたが、これは、また違った良さがある」
……………………………………………………………………………………………
甘味処を出ると、
案内係が、
さらに、
街を案内してくれた。
大通りを外れて、
職人街と呼ばれる区画に、
足を踏み入れた。
そこには、
様々な工房が、
軒を連ねていた。
……………………………………………………………………………………………
一軒の鍛冶屋から、
金属を打つ音が、
響いていた。
案内係「ここは、腕のいい職人が、揃ってる場所だ。ビッグ人向けの道具も、ノーマル向けの道具も、両方作ってる」
鍛冶屋の店主が、
虎に気づいて、
声をかけてきた。
鍛冶屋「おっ、でかい客だな。何か、打ってほしいものでもあるか」
虎「特にないが、興味はある」
鍛冶屋「見ていくといい」
……………………………………………………………………………………………
鍛冶屋の中では、
巨大な炉と、
小さな炉が、
並んで設置されていた。
ビッグ人の職人と、
ノーマルサイズの職人が、
それぞれの炉で、
作業をしていた。
ステラ「……両方の道具を、同じ場所で、作っているんですね」
鍛冶屋「そうだ。技術を、教え合ってな。お互いのやり方から、学ぶことも多いんだよ」
……………………………………………………………………………………………
虎は、
その様子を、
興味深く見た。
虎(一万年前には、こういう技術の共有は、なかった)
虎(種族が違えば、争うことの方が、多かった)
虎(この街は、それとは、違う道を、選んでいるんだな)
クリスが、
炉の火を、
見つめながら言った。
クリス「……この街の在り方は、面白い。効率だけでなく、共存そのものを、楽しんでいる」
……………………………………………………………………………………………
昼過ぎ、
職人街の広場で、
屋台が集まる一角に、
出た。
案内係が、
一つの屋台を、
指差した。
案内係「ここの串焼き、名物なんだ。試してみな」
虎は、
一本受け取って、
食べた。
……………………………………………………………………………………………
虎「……」
炭火の香ばしさが、
まず来て、
噛むと、
肉の旨みが、
じゅわりと、
広がった。
タレの甘辛さが、
その旨みを、
さらに、
引き立てている。
虎「……うまい。この街に来て、まずいものに、当たったことがないな」
案内係「そりゃそうさ、うちの店は、みんな、腕がいいからな!」
……………………………………………………………………………………………
夕方近く、
街の中心にある、
噴水広場に、
戻ってきた。
水しぶきが、
夕日を受けて、
きらきらと、
輝いていた。
ステラが、
その光景を、
眺めながら言った。
ステラ「……いい街ですね」
虎「ああ」
……………………………………………………………………………………………
案内係が、
虎たちに、
別れを告げた。
案内係「今日は、案内できて、楽しかったぜ。図書館の方も、頑張れよ」
虎「世話になった」
案内係が、
大股で、
去っていった。
その後ろ姿を、
三人で見送った。
……………………………………………………………………………………………
宿への帰り道、
ステラが、
虎に言った。
ステラ「虎様、明日は、どうしますか」
虎「調査許可が下りるまで、まだ、時間があるらしい」
ステラ「もう少し、この街を、見て回りますか」
虎「そうだな」
クリスが、
静かに言った。
クリス「……街を歩くだけでも、月文明の手がかりが、他に、見つかるかもしれない」
虎「その可能性もある」
……………………………………………………………………………………………
夜、
宿の窓から、
図書館の灯りが、
遠くに、
見えていた。
虎(この街には、まだ、知らないことが、たくさんありそうだ)
虎(急ぐ必要はない。今は、この街を、じっくり味わおう)
ステラが、
虎の隣に来た。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「今日一日、楽しかったですね」
虎「ああ」
夜風が、
静かに、
街を包んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「栗入りヨウカン、絶品でしたね」
虎「あの甘さは、印象に残る」
ステラ「職人街も、興味深い場所でした」
虎「共存の在り方が、面白かった」
クリス「……まだ、この街には、色々、あるだろう」
虎「そうだな」
ステラ「明日も、この街を、探索する予定ですね」
虎「調査許可が下りるまでは、そうなる」
ステラ「……おおむね、まだまだ、楽しめそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、街を歩き回る』」
虎「明日は、どんな発見があるか」
ステラ「はい。楽しみですね」




