第72話「虎が、印を見つける」
石塚を最後まで観察し終えた頃、
視界が再び揺らぎ始めた。
ステラ「……時間、来たようですね」
虎「ああ」
三人の体が、
淡い光に包まれていく。
クリスが静かにつぶやいた。
クリス「……忘れないうちに、記憶をしっかり固定しておく」
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光が強くなり、
視界が真っ白に染まった。
気がつくと、
虎は禁書蔵書室の台座の前に立っていた。
館長が心配そうな顔で見守っていた。
館長「……戻ってきたか。無事のようだな」
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ステラとクリスも同じように、
現実の空間に戻ってきていた。
司書が安堵の表情を浮かべた。
司書「よかった……三時間ほど、経っていました」
虎「そんなに経っていたのか」
体感では、
もっと長い時間が過ぎていたように感じていた。
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クリスがすぐに杖を取り出して、
何かを書き留め始めた。
クリス「……忘れないうちに、石の配置を記録しておく」
虎はその様子を見守った。
虎(あの世界での経験が、現実に繋がるかどうか)
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しばらくして、
クリスが図を描き上げた。
クリス「……このような配置だった」
司書がそれを興味深そうに覗き込んだ。
司書「……これは」
司書の表情が急に変わった。
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司書「……お待ちください、この配置、見覚えがあります」
司書が慌てて棚の奥から、
別の資料を持ち出してきた。
古い時代の記念碑を記録した、
図鑑のような本だった。
司書「これです。……『アショカの柱』と呼ばれる、遺跡の記録です」
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虎「アショカの柱」
司書「はい。石を円形に積んで、中央に細長い柱状の石を立てる。この配置と酷似しています」
クリスがその図を見つめた。
クリス「……間違いない。石の並び方が、私が見た、あの場所と一致する」
虎(ついに繋がったか)
虎(あの記録の世界の、あの場所が、現実の、この遺跡と同じものだったとは)
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司書が本のページをめくった。
司書「アショカの柱は、現在も、いくつか実物が残っているとされています。ただ……正確な所在地は、長らく謎とされてきました」
虎「場所は、わからないのか」
司書「はい。伝承だけが残っていて。実際に見た者は、ほとんどいません」
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クリスが先ほど描いた図を、
もう一度見つめた。
クリス「……いや、待て。あの記録の中で、老人が村の外れから、どのくらい歩いたか、覚えている」
虎「そうか、方角と距離がわかれば」
クリスが慎重に、
古地図に線を引き始めた。
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しばらく計算を続けた後、
クリスが顔を上げた。
クリス「……おそらく、ここだ」
地図上の一点を指差していた。
司書がその場所を確認して、
息を呑んだ。
司書「……ここは、現在の地図では、辺境の未開拓地帯です。長らく、誰も足を踏み入れていない場所かと」
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虎(未開の地、か)
虎(面白そうだ)
虎「次は、そこに行くことになりそうだな」
ステラ「はい。……アショカの柱、実際に見つけられれば、大きな発見です」
館長が感心したように言った。
館長「……見事なものだ。長年の謎が、少しずつ解けていく」
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一連の作業が一段落した頃、
夜も更けていた。
司書が気を利かせて、
軽い夜食を用意してくれた。
湯気の立つ温かい料理が、
テーブルに並んだ。
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虎はそれを一口食べた。
虎「……」
先ほど記録の世界で味わった、
素朴な粥や炙った実とは、
また違う、
現代の丁寧な味付けだった。
出汁の旨みがはっきりと感じられて、
古い時代の簡素な味との違いが、
かえってはっきりとわかった。
虎「……うまい。あちらの世界の味も悪くなかったが、こちらは、こちらで、また違う良さがある」
ステラも一口味わった。
ステラ「……確かに、比べると面白いですね」
クリスが静かに言った。
クリス「……時代が進むほど、味も洗練されていくんだろうな」
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食事をしながら、
虎は今日一日を振り返った。
虎(記録の世界に入り、目撃者を追い、印を見つけた)
虎(そして、それが、アショカの柱と繋がった)
虎(一万年前の、俺の知らないところで、こういう歴史が積み重なっていたんだな)
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司書が改めて頭を下げた。
司書「本当にありがとうございました。長年の謎の一端が、解けそうです」
虎「こちらこそ、助かった」
館長が続けて言った。
館長「未開拓地帯への調査許可も、こちらで手配しておこう。しばらく時間がかかるだろうが」
虎「頼む」
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夜がさらに更けていく中、
三人は図書館を後にした。
外に出ると、
夜空に星が瞬いていた。
虎はその空を見上げた。
虎(あの記録の世界で見た、光る球体)
虎(それが、月から来たものだとしたら)
虎(この星の空を見上げていた、あの時代の人々の気持ちが、少しわかる気がする)
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ステラが虎の隣に並んだ。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「次は、未開拓地帯ですね」
虎「ああ」
ステラ「……アショカの柱、見つかるでしょうか」
虎「見つける」
クリスが静かに夜空を見上げていた。
クリス「……あの柱の先に、また新しい手がかりがあるといいが」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「アショカの柱、正体がわかりましたね」
虎「未開拓地帯にあるらしい」
ステラ「記録の世界の味も、印象的でした」
虎「あちらは、あちらで、いい味だった」
クリス「……調査許可が下りるまで、少し時間がかかりそうだ」
虎「気長に待つとするか」
ステラ「……おおむね、この街での目的は達成できましたね」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。次の目的地が決まるまで、少しこの街を楽しみましょうか」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、街を満喫する』」
虎「久しぶりに、のんびりできそうだ」
ステラ「はい。楽しみですね」




