第70話「虎が、記録の中に入る」
夜、
禁書蔵書室の一角に、
特別な結界が、
張られていた。
司書が、
慎重な手つきで、
本を、
台座の上に置いた。
司書「準備が、整いました。これより、記録の中へ、入っていただきます」
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館長らしき、
初老の男が、
立ち会っていた。
館長「古い記録に入るのは、危険が伴う。何かあれば、すぐに、この呪符を、握りしめなさい。強制的に、外に引き戻される」
虎は、
渡された呪符を、
懐に、
しまった。
虎「わかった」
ステラとクリスも、
それぞれ、
呪符を、
受け取った。
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館長「では、始める」
館長が、
本に、
手をかざした。
紋様が、
光り始めた。
光は、
次第に、
強くなっていき、
台座を囲むように、
渦を巻いた。
ステラ「……来ますね」
虎「ああ」
三人の体が、
その光に、
包まれた。
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気がつくと、
虎は、
草原に立っていた。
夜だった。
だが、
昼のように、
明るかった。
空の一角に、
巨大な、
光る球体が、
浮かんでいた。
虎
虎(記録に書かれていた、光る球体か)
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近くに、
ステラとクリスの姿が、
見えた。
ステラ「虎様、無事ですか」
虎「ああ、そっちは」
クリス「……問題ない」
三人の周りには、
古い時代の、
村の風景が、
広がっていた。
木造の小屋が、
点々と並び、
畑には、
見慣れない作物が、
育っていた。
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村人らしき人々が、
恐怖に慄きながら、
空の光を、
見上げていた。
村人A「な、なんだ、あれは……!」
村人B「神様の、お怒りか……!」
虎(音は聞こえるが、俺たちの姿は、見えていないようだな)
虎(あくまで、記録を、追体験しているだけか)
クリスが、
静かに言った。
クリス「……幻影のようなものだ。私たちは、この世界の、傍観者に過ぎない」
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光る球体が、
ゆっくりと、
降下してきた。
地面が、
かすかに、
揺れ始めた。
村人たちが、
一斉に、
逃げ惑った。
村人C「逃げろ! あれが、落ちてくるぞ!」
虎は、
その光景を、
じっと、
見つめていた。
虎(月から来た、何かが、降りてくる瞬間)
虎(クリスの記憶にも、繋がる場面だ)
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だが、
光が、
地面に触れる、
その瞬間。
視界が、
真っ白に、
染まった。
しばらくして、
気がつくと、
場面が、
変わっていた。
昼の、
穏やかな村の風景だった。
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ステラが、
辺りを見回した。
ステラ「……時間が、飛びましたね」
虎「そうだな」
村人たちが、
畑仕事をしながら、
何やら、
話していた。
村人D「あの夜のこと、まだ、信じられねえよな」
村人E「ああ。でも、あれから、しばらく経つが、何も、悪いことは、起きてねえ」
虎(あの夜から、時間が経った後の場面のようだ)
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少し離れた場所に、
一人の老人が、
座って、
何かを、
書き記していた。
虎は、
そっと、
近づいた。
虎(この老人が、記録を、書いた本人か)
老人の手元には、
羊皮紙と、
筆があった。
老人がつぶやいた。
老人「……あの夜のことは、忘れちゃならん。誰かが、記録を、残しておかねば」
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クリスが、
老人の様子を、
じっと、
観察していた。
クリス「……この人物が、記録の、原本を書いた人間だ」
虎「そうらしいな」
村の広場で、
夕方の支度が、
始まっていた。
大きな鍋を、
何人かの女性が、
囲んでいる。
ステラ「……何か、料理を、しているようですね」
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虎たちは、
その場に、
近づいてみた。
村の女性が、
鍋から、
湯気の立つ、
何かを、
よそっていた。
村人たちが、
それを、
食べながら、
談笑していた。
虎(幻影とはいえ、この世界にも、食べ物があるのか)
虎は、
記録の本の話を、
思い出した。
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虎(そういえば、司書が、こういう記録の本からも、味を、持ち帰れるかもしれないと、言っていたな)
虎は、
試しに、
鍋の近くに、
手を伸ばしてみた。
不思議なことに、
指先が、
その料理に、
触れる感触があった。
虎は、
少しだけ、
それを、
すくい取ってみた。
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とろりとした、
穀物の粥のようなものだった。
虎は、
一口、
含んだ。
虎「……」
素朴な、
麦の甘みが、
広がった。
村の暮らしそのものを、
表すような、
質素だが、
温かい味だった。
古い時代の、
生活の匂いが、
そのまま、
口の中に、
残っているようだった。
虎「……うまい。この時代の、飾らない味だ」
ステラも、
同じように、
少しだけ、
味わってみた。
ステラ「……本当に、味がありますね。不思議です」
クリスが、
興味深そうに言った。
クリス「……これも、持ち帰れば、街の名物に、なるかもしれないな」
虎「そうだな」
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だが、
その時。
急に、
視界が、
揺らぎ始めた。
老人の姿が、
遠ざかっていく。
ステラ「……虎様、これは」
虎「何かが、変わってきている」
クリスが、
辺りを、
見回した。
クリス「……場面が、切り替わろうとしているのかもしれない」
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虎(次の場面に、繋がる兆しか)
虎(それとも、俺たちが、はぐれる前触れか)
視界が、
さらに、
激しく、
揺れ動いた。
ステラの姿が、
一瞬、
遠くに、
離れて見えた。
ステラ「虎様……!」
虎「ステラ!」
光が、
三人の間を、
引き裂くように、
差し込んだ。
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虎
虎(落ち着け。焦る必要はない。ここは、ただの記録の世界だ)
気がつくと、
虎は、
一人、
見知らぬ、
道の途中に、
立っていた。
遠くに、
村の灯りが、
見えていた。
虎は、
その方向を、
見つめた。
虎「……探すか」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「記録の中、不思議な世界でしたね」
虎「あの夜の光景も、見られた」
ステラ「村の食べ物も、味わえました」
虎「素朴な味だった」
クリス「……はぐれてしまったな」
虎「合流を、探さないといけない」
ステラ「……おおむね、無事に、集まれるといいのですが」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、目撃者の跡を追う』」
虎「あの老人を、追うことになりそうだ」
ステラ「はい。楽しみですね」




