第69話「虎が、来訪の記録を読み解く」
翌朝、
再び、
禁書蔵書室を訪れた。
司書が、
古い書物を、
何冊か抱えて、
待っていた。
司書「おはようございます。地名の対照表、用意しておきました」
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テーブルに、
古地図と、
現在の地図が、
並べられた。
ステラが、
昨夜の記録の本を、
開いた。
ステラ「……ここに書かれている、地名は」
司書「読み上げていただけますか」
虎「……『月鏡の谷』、と書いてある」
司書が、
古地図を、
指でなぞった。
司書「……『月鏡』という地名は、この地図の、北方に、記録が残っています。今の呼び方だと……」
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司書が、
現在の地図と、
見比べながら、
続けた。
司書「……おそらく、今の『月見谷』にあたる場所かと思います。ただ、地名の変遷は、複雑で、確証は持てません」
虎「北の谷、か」
クリス「……月見谷、聞いたことがある気がする」
クリスが、
杖を軽くかざして、
何かを、
思い出そうとしていた。
クリス「……いや、まだ、はっきりしない」
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記録を、
さらに読み進めた。
虎「……『光る球体が、地面に触れた場所に、後に、印が残された』とある」
ステラ「印、ですか」
虎「詳しい形までは、書かれていない。だが、何か、目印になるものが、その場所に、あったようだ」
司書が、
興味深そうに言った。
司書「印、というと……何らかの、建造物でしょうか」
虎「わからない。もう少し、読み進めれば」
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だが、
そこから先の文字は、
インクが薄れて、
判読が難しくなっていた。
ステラ「……ここから先、読みにくいですね」
虎「ああ」
虎は、
慎重に、
文字を、
目で追った。
虎(一文字ずつなら、読める。だが、意味が、繋がらない部分がある)
しばらく、
苦戦していると、
クリスが、
本に、
そっと手を触れた。
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クリス「……」
クリスの目が、
青白く光った。
クリス「……この本、ただの記録じゃない」
虎「どういうことだ」
クリス「魔力の残り方が、普通の本とは、違う。……これは、おそらく、『入れる本』の一種だ」
虎
虎(司書が、昨日、案内してくれた仕組みと、同じか)
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司書が、
驚いた顔をした。
司書「……この本が、ですか」
クリス「ああ。ただ、普通の観光用の本とは、性質が違う。相当に、古く、力が強い」
司書が、
本を、
慎重に確認した。
司書「……確かに、この蔵書室にある本の一部には、そういう性質のものが、あると聞いたことがあります。ただ、実際に、確認された例は、ほとんどありません」
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虎「入れば、記録の内容を、直接、見られるということか」
クリス「おそらく。文字で読むより、はるかに、多くの情報が、得られるはずだ」
ステラが、
少し緊張した面持ちで言った。
ステラ「……危険は、ないのでしょうか」
司書「古く、力の強い本は、通常の『入れる本』より、リスクが高いと言われています。館長の許可と、安全のための準備が、必要になるかと」
虎(また、手続きか)
虎(だが、それだけの価値は、ありそうだ)
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司書が、
本を、
丁寧に閉じた。
司書「今日中に、館長に、掛け合ってみます。準備が整うまで、少し、お時間をください」
虎「頼む」
昼が近づいてきたので、
一旦、
休憩を取ることになった。
司書が、
蔵書室の近くにある、
小さな茶房に、
案内してくれた。
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茶房は、
古文書の研究者たちが、
よく利用する店らしく、
落ち着いた雰囲気だった。
店主が、
焼き栗を、
一皿、
出してくれた。
店主「古地図とにらめっこしてる連中には、これが一番だよ。頭が疲れた時は、甘いものだ」
虎は、
一つ手に取って、
食べた。
虎「……」
焼きたての栗は、
ほくほくとした食感で、
噛むたびに、
自然な甘みが、
口の中に広がった。
香ばしい皮の香りが、
その甘さを、
さらに引き立てている。
派手さはないが、
集中した頭に、
すっと沁みる味だった。
虎「……うまい。地道な作業の後には、ちょうどいい」
ステラも一口食べた。
ステラ「……優しい甘さですね」
クリスが、
栗を割りながら言った。
クリス「……こういう、素朴な甘さも、悪くない」
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食べながら、
司書が、
少し声を落として言った。
司書「実は、館長への相談、今から、行ってきます。夕方には、返事が、もらえると思います」
虎「わかった」
司書が、
茶房を出ていった。
残された三人は、
しばらく、
静かに、
栗を食べ続けた。
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ステラが、
虎を見た。
ステラ「虎様、記録の中に、入るのですね」
虎「許可が下りれば、な」
ステラ「……おおむね、下りると思いますが」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。私たちには、正当な理由がありますから」
クリスが、
静かに、
窓の外を見た。
クリス「……あの本の中に、何があるのか」
虎「行ってみればわかる」
夕方、
司書が、
息を切らして、
戻ってきた。
司書「……許可、下りました!」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「記録の本、実は『入れる本』でしたね」
虎「クリスが、気づいた」
クリス「……力の強さが、他とは違った」
ステラ「許可も、下りました」
虎「準備が整い次第、入ることになる」
ステラ「……おおむね、大きな一歩ですね」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、記録の中に入る』」
虎「いよいよだな」
ステラ「はい。楽しみですね」




