第63話「虎が、カフェを発つ」
翌朝、
畑に、
人が集まり始めていた。
近隣の農家や、
街道を通りかかる旅人たちが、
少しずつ、
カフェの周りに、
集まってきている。
ミラ「収穫祭を、開くことにしたの。畑が守れたお祝いに」
虎「賑やかになりそうだな」
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ゴードンが、
巨大な鍋を、
外に運び出していた。
ゴードン「今日は、朝から仕込みだ。手伝ってくれると助かる」
虎「任せろ」
虎は、
薪割りを引き受けて、
次々と、
鍋の下に、
火を起こしていった。
ステラは、
ミラと一緒に、
野菜の下ごしらえを、
手伝っていた。
ステラ「……この人参は、どう切りますか」
ミラ「乱切りでいいわ。煮込むと、どうせ角が丸くなるから」
ステラが、
包丁を動かしながら言った。
ステラ「昨日、教えていただいた切り方、実践してみます」
ミラ「あら、覚えてくれたのね」
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クリスは、
祠のそばに植え替えた、
青白い植物の様子を、
確認しに行っていた。
戻ってきて、
虎に報告した。
クリス「……根付いたようだ。葉の色艶が、昨日より、良くなっている」
虎「そうか」
クリス「あの場所なら、これからも、月の気配を、うまく吸収できるだろう」
虎(一つ、心配事が片付いたな)
虎(畑も、あの植物も、これで落ち着くだろう)
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昼過ぎ、
準備が整い、
収穫祭が、
始まった。
畑で採れた野菜が、
様々な料理になって、
テーブルに並んでいく。
近隣の農家の一人が、
虎に話しかけてきた。
農家「あんたたちが、あのネズミの件を、解決してくれたんだってな。噂で聞いたよ」
虎「たまたま、興味を持っただけだ」
農家「たまたまで、あそこまでやるもんかね」
農家が、
笑いながら、
杯を差し出した。
農家「まあ、一杯どうだ。祝いの席だ」
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祭りの中心で、
ゴードンが、
大鍋から、
シチューを、
振る舞っていた。
野菜がごろごろと入った、
具沢山のシチューだった。
虎は一口食べた。
虎「……」
昨夜のスープとは、
また違う味わいだった。
じっくり煮込まれたことで、
野菜同士の甘みが、
一つに溶け合っている。
人参の角が、
ステラの言った通りに、
丸く柔らかくなっていて、
口の中で、
ほろりとほどけた。
虎「……うまい。昨日とは、また違ううまさだ」
ゴードン「祭りの日の飯は、格別だからな」
ステラも、
一口食べた。
ステラ「……野菜の甘みが、より、深くなっていますね」
ミラ「大人数で作ると、なぜか、味も豊かになる気がするのよね」
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祭りが進むにつれて、
畑の作物を使った、
様々な料理が、
次々と振る舞われた。
トウモロコシを焼いたもの、
豆を煮込んだもの、
野菜たっぷりのパン。
クリスが、
焼きトウモロコシを、
かじりながら言った。
クリス「……この街道沿いの豊かさ、悪くない」
虎「そうだな」
子供たちが、
畑の周りを、
走り回っていた。
その様子を見ながら、
ミラが、
虎に言った。
ミラ「本当に、助かったわ。あなたたちが来てくれなかったら、今頃、畑は、めちゃくちゃだったでしょうね」
虎「たまたま、通りかかっただけだ」
ミラ「たまたまでも、感謝の気持ちは、変わらないわ」
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夕方、
祭りが落ち着いた頃、
ゴードンが、
虎たちの元に来た。
ゴードン「そろそろ、旅立つのか」
虎「ああ。ビッグビッグシティーへ向かう」
ゴードン「あそこまでは、まだ、少し距離がある。焼いた保存食を、持たせるから、持っていってくれ」
ミラが、
布に包んだ、
何かを渡してきた。
ミラ「野菜パンよ。日持ちするように、焼いてあるから」
ステラ「ありがとうございます」
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自転車の点検を、
最後にしてもらった。
ゴードンが、
タイヤの空気圧を、
確認しながら言った。
ゴードン「バルブも、ミルの部品も、これで、当分は大丈夫だろう」
ステラ「本当に、色々と、ありがとうございました」
虎が、
ゴードンに、
手を差し出した。
虎「世話になった」
ゴードン「こちらこそだ。あんたたちのおかげで、いい経験をさせてもらった」
クリスが、
祠の方角を見た。
クリス「あの植物、たまに、様子を見てやってくれ」
ゴードン「もちろんだ。月の気配を、大事にする植物ってのも、面白いからな」
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街道に出ると、
夕日が、
田園風景を、
オレンジ色に染めていた。
ステラとクリスが、
自転車にまたがった。
ステラ「今度は、ふらつかずに、乗れそうです」
クリス「……少しは、上達した気がする」
虎は、
二人の横を、
ゆっくりと走り出した。
ゴードンとミラが、
カフェの前で、
見送っていた。
ミラ「気をつけてね!」
ゴードン「また、いつでも、寄っていってくれ!」
虎「ああ」
夕日の中、
三人の影が、
街道の先へと、
伸びていった。
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虎(この道沿いにも、いい出会いがあった)
虎(一万年前には、こういう小さな街の営みに、目を向けることもなかった)
虎(今は、それが、面白い)
ステラが、
ペダルを漕ぎながら、
虎に言った。
ステラ「虎様、ビッグビッグシティーまで、どのくらいでしょうか」
虎「まだ、何日かはかかるだろうな」
ステラ「……楽しみです」
虎「そうだな」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「カフェ、いい滞在でしたね」
虎「バルブの修理から、ここまで来るとは、思わなかった」
ステラ「ミラさんの野菜料理、忘れられません」
虎「収穫祭のシチューも、格別だった」
クリス「……あの月の植物、これからも、うまく育つといいが」
虎「ゴードンが、見てくれるだろう」
ステラ「街道も、まだ続きますね」
虎「ビッグビッグシティーまで、もう少しだ」
ステラ「……おおむね、順調な旅路です」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。次は、いよいよ、大都市ですね」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、大都市へ入る』」
虎「世界最大級の図書館が、待っている」
ステラ「はい。楽しみですね」




