第62話「虎が、ネズミを追う」
朝、
虎たちは、
畑の前に集まった。
ミラが、
昨夜、
荒らされた場所を、
指差した。
ミラ「ここです。トマトの列が、根元から、かじられていて」
ステラが、
しゃがみ込んで、
土の様子を確認した。
ステラ「……足跡が、ありますね。小さいですが、はっきり残っています」
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クリスが、
足跡の上に、
杖をかざした。
クリス「……この足跡、単なるネズミにしては、少し不自然だ」
虎「どういう意味だ」
クリス「動きの軌跡が、まっすぐすぎる。餌を探して、彷徨っているというより、何かに、向かって進んでいるような跡だ」
ゴードンが、
腕を組んだ。
ゴードン「……向かっている先、というと」
クリス「畑の、奥の方だ」
虎(面白くなってきたな)
虎(単なる害獣退治とは、少し違うかもしれない)
虎「奥を、見てみよう」
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畑の奥に進むと、
そこに、
一株だけ、
様子の違う植物があった。
葉の色が、
青白く、
夜露が乾いていないのか、
ほのかに光って見えた。
ミラ「……あら、これ」
ゴードン「見覚えがない植物だな」
ステラが、
近づいて、
確認した。
ステラ「……不思議な魔力を、帯びています」
クリスが、
杖をかざして、
反応を確かめた。
クリス「……この気配、月の光に触れた植物特有のものだ」
虎「月、か」
クリス「おそらく、種か何かが、月光の強い夜に、この土地に落ちたんだろう。稀に、そういうことがある」
ゴードンが、
首をひねった。
ゴードン「うちの畑に、そんなものが」
クリス「ネズミたちは、この植物の匂いに、引き寄せられているんだと思う。動物は、こういう特殊な気配に、敏感なことがある」
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原因の見当がついたところで、
虎たちは、
作戦を立てることにした。
虎「植物ごと、移動させれば、収まるか」
クリス「その可能性が高い。ただ、根が広く張っているようだ。掘り出すのに、少し時間がかかる」
ステラ「その間に、今いるネズミを、追い払う必要がありますね」
ミラが、
少し不安げに言った。
ミラ「……ネズミを、追い払うって、簡単にできるものなの?」
虎「任せろ」
虎(力ずくで倒すような相手じゃない。追い払うだけでいい)
虎(ちょうどいい、体を動かす仕事だ)
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畑の各所に、
虎、
ステラ、
クリスが、
分かれて配置についた。
虎が、
畑の端から、
気配を探った。
虎「……いた。三匹、右側の茂みだ」
虎が動くと、
ネズミたちが、
一斉に、
逃げ出した。
ステラが、
その進路を、
先読みして、
待ち構えた。
ステラ「そちらへは、行かせません」
ステラが、
軽やかな身のこなしで、
ネズミの群れを、
別方向へ誘導していく。
クリスが、
杖の先から、
小さな光を出して、
畑の外へ続く道を、
照らして見せた。
クリス「こっちだ、逃げ道はここだ」
ネズミたちが、
光に誘われるように、
畑の外へと、
走り去っていった。
ミラ「……あら、本当に、いなくなったわ」
ゴードン「見事なもんだな」
虎(追い払うだけなら、これで十分だ)
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その後、
クリスが、
青白い植物の根を、
慎重に掘り起こした。
根は、
思ったより深くまで、
伸びていた。
虎が、
周りの土ごと、
そっと持ち上げて、
畑の外に運んだ。
クリス「……この植物、月の気配が強い土地に植え直せば、うまく育つはずだ」
虎「近くに、そういう場所はあるか」
ゴードン「……街道の脇に、古い祠がある。あそこなら、月明かりが、よく当たる場所だ」
三人で、
その祠の近くに、
植物を植え直した。
葉の青白い光が、
夕方の薄暗さの中で、
穏やかに揺れていた。
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畑に戻ると、
被害を免れた野菜たちが、
無事な姿を、
見せていた。
ミラが、
その中から、
オクラと、
トマトを、
何個か摘み取った。
ミラ「今夜は、これでお祝いしましょう。畑が守れたお祝いよ」
ミラが、
調理場で、
手際よく、
下ごしらえを始めた。
ステラが、
その手元を、
興味深そうに見た。
ステラ「……オクラのヘタ、丸く切るんですね」
ミラ「そうよ。ヘタの上の、硬い部分と、周りの黒ずんだところだけを、くるりと削るの。全部切り落とすと、中の粘りが出すぎちゃうから」
ミラの手が、
包丁を軽く回すように動かして、
ヘタの周りだけを、
薄く削っていった。
ステラ「……なるほど。無駄なく、必要な部分だけ、取り除くんですね」
ミラ「ちょっとしたコツなの」
続けて、
ミラが、
トマトを手に取った。
ミラ「トマトは、ヘタの反対側に、浅く十字の切り込みを入れるの。これで、湯むきした時に、皮がきれいに剥けるのよ」
包丁の先で、
ミラが、
トマトの底に、
小さく十字の傷をつけた。
熱湯にくぐらせると、
切り込みの部分から、
皮が、
すっと、
めくれ上がった。
ステラ「……本当に、きれいに剥けましたね」
ミラ「あとは、湯むきしたトマトを、丸ごと使うの。皮があると、口当たりが悪いから」
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しばらくして、
食卓に、
料理が並んだ。
丸ごと素揚げされたオクラと、
湯むきしたトマトを丸ごと使った冷製スープ、
それに、
昨日直したミルで挽いた、
コーヒーが添えられていた。
虎は、
まず、
オクラを一口食べた。
虎「……」
外側は、
かりっと揚がっていて、
中は、
とろりとした粘りがあった。
下ごしらえが丁寧だったせいか、
苦味やえぐみが全くなく、
オクラ本来の、
青々しい香りだけが、
まっすぐに伝わってきた。
虎「……うまい。切り方一つで、こんなに違うのか」
ミラ「ふふ、わかってもらえて嬉しいわ」
次に、
トマトのスープを、
一口飲んだ。
虎「……」
皮がない分、
口当たりが、
なめらかだった。
トマトの果肉が、
そのまま、
とろりと舌に乗って、
甘みと酸味が、
すっきりと広がる。
今日、
守り抜いた畑の味が、
そのまま、
器の中にあるようだった。
虎「……いい味だ。トマトも、皮があるとないとで、こんなに違うんだな」
ステラも、
一口飲んだ。
ステラ「……口当たりが、全然違いますね」
クリスが、
コーヒーを飲みながら、
静かに言った。
クリス「……守れた畑の飯は、また、格別だな」
ゴードンが、
嬉しそうに、
コーヒーを飲み干した。
ゴードン「本当に、世話になった。おかげで、また、いい野菜が作れる」
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食後、
夜の畑を、
虎は一人で眺めた。
星明かりの下、
青白い植物が、
祠のそばで、
静かに輝いていた。
虎(一万年前にも、こういう不思議な植物は、あった)
虎(だが、こうして誰かと一緒に、原因を探って、解決するのは、初めての経験だ)
ステラが、
隣に来た。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「いい一日でしたね」
虎「そうだな」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「ネズミの件、無事に解決しましたね」
虎「原因は、月に触れた植物だった」
ステラ「祠のそばに、移し替えましたね」
虎「あそこなら、うまく育つだろう」
クリス「……月の気配が、こんな身近な場所にも、残っている」
虎「面白い発見だった」
ステラ「ミラさんの野菜料理、絶品でしたね」
虎「切り方一つで、味が変わることを、学んだ」
ステラ「……おおむね、いい滞在になりました」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。そろそろ、旅立つ頃合いですね」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、カフェを発つ』」
虎「収穫祭が、待っているらしいな」
ステラ「はい。楽しみです」




