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虎無双、虎無双。  作者: BB
5章

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62/112

第62話「虎が、ネズミを追う」

朝、

虎たちは、

畑の前に集まった。


ミラが、

昨夜、

荒らされた場所を、

指差した。


ミラ「ここです。トマトの列が、根元から、かじられていて」


ステラが、

しゃがみ込んで、

土の様子を確認した。


ステラ「……足跡が、ありますね。小さいですが、はっきり残っています」


…………………………………………………………………………………………………


クリスが、

足跡の上に、

杖をかざした。


クリス「……この足跡、単なるネズミにしては、少し不自然だ」

虎「どういう意味だ」

クリス「動きの軌跡が、まっすぐすぎる。餌を探して、彷徨っているというより、何かに、向かって進んでいるような跡だ」


ゴードンが、

腕を組んだ。


ゴードン「……向かっている先、というと」

クリス「畑の、奥の方だ」


虎(面白くなってきたな)


虎(単なる害獣退治とは、少し違うかもしれない)


虎「奥を、見てみよう」



…………………………………………………………………………………………………


畑の奥に進むと、

そこに、

一株だけ、

様子の違う植物があった。


葉の色が、

青白く、

夜露が乾いていないのか、

ほのかに光って見えた。


ミラ「……あら、これ」

ゴードン「見覚えがない植物だな」


ステラが、

近づいて、

確認した。


ステラ「……不思議な魔力を、帯びています」


クリスが、

杖をかざして、

反応を確かめた。


クリス「……この気配、月の光に触れた植物特有のものだ」

虎「月、か」

クリス「おそらく、種か何かが、月光の強い夜に、この土地に落ちたんだろう。稀に、そういうことがある」


ゴードンが、

首をひねった。


ゴードン「うちの畑に、そんなものが」

クリス「ネズミたちは、この植物の匂いに、引き寄せられているんだと思う。動物は、こういう特殊な気配に、敏感なことがある」



…………………………………………………………………………………………………


原因の見当がついたところで、

虎たちは、

作戦を立てることにした。


虎「植物ごと、移動させれば、収まるか」

クリス「その可能性が高い。ただ、根が広く張っているようだ。掘り出すのに、少し時間がかかる」


ステラ「その間に、今いるネズミを、追い払う必要がありますね」


ミラが、

少し不安げに言った。


ミラ「……ネズミを、追い払うって、簡単にできるものなの?」

虎「任せろ」


虎(力ずくで倒すような相手じゃない。追い払うだけでいい)


虎(ちょうどいい、体を動かす仕事だ)



…………………………………………………………………………………………………


畑の各所に、

虎、

ステラ、

クリスが、

分かれて配置についた。


虎が、

畑の端から、

気配を探った。


虎「……いた。三匹、右側の茂みだ」


虎が動くと、

ネズミたちが、

一斉に、

逃げ出した。


ステラが、

その進路を、

先読みして、

待ち構えた。


ステラ「そちらへは、行かせません」


ステラが、

軽やかな身のこなしで、

ネズミの群れを、

別方向へ誘導していく。


クリスが、

杖の先から、

小さな光を出して、

畑の外へ続く道を、

照らして見せた。


クリス「こっちだ、逃げ道はここだ」


ネズミたちが、

光に誘われるように、

畑の外へと、

走り去っていった。


ミラ「……あら、本当に、いなくなったわ」

ゴードン「見事なもんだな」


虎(追い払うだけなら、これで十分だ)



…………………………………………………………………………………………………


その後、

クリスが、

青白い植物の根を、

慎重に掘り起こした。


根は、

思ったより深くまで、

伸びていた。


虎が、

周りの土ごと、

そっと持ち上げて、

畑の外に運んだ。


クリス「……この植物、月の気配が強い土地に植え直せば、うまく育つはずだ」


虎「近くに、そういう場所はあるか」

ゴードン「……街道の脇に、古い祠がある。あそこなら、月明かりが、よく当たる場所だ」


三人で、

その祠の近くに、

植物を植え直した。


葉の青白い光が、

夕方の薄暗さの中で、

穏やかに揺れていた。



…………………………………………………………………………………………………


畑に戻ると、

被害を免れた野菜たちが、

無事な姿を、

見せていた。


ミラが、

その中から、

オクラと、

トマトを、

何個か摘み取った。


ミラ「今夜は、これでお祝いしましょう。畑が守れたお祝いよ」


ミラが、

調理場で、

手際よく、

下ごしらえを始めた。


ステラが、

その手元を、

興味深そうに見た。


ステラ「……オクラのヘタ、丸く切るんですね」


ミラ「そうよ。ヘタの上の、硬い部分と、周りの黒ずんだところだけを、くるりと削るの。全部切り落とすと、中の粘りが出すぎちゃうから」


ミラの手が、

包丁を軽く回すように動かして、

ヘタの周りだけを、

薄く削っていった。


ステラ「……なるほど。無駄なく、必要な部分だけ、取り除くんですね」

ミラ「ちょっとしたコツなの」


続けて、

ミラが、

トマトを手に取った。


ミラ「トマトは、ヘタの反対側に、浅く十字の切り込みを入れるの。これで、湯むきした時に、皮がきれいに剥けるのよ」


包丁の先で、

ミラが、

トマトの底に、

小さく十字の傷をつけた。


熱湯にくぐらせると、

切り込みの部分から、

皮が、

すっと、

めくれ上がった。


ステラ「……本当に、きれいに剥けましたね」

ミラ「あとは、湯むきしたトマトを、丸ごと使うの。皮があると、口当たりが悪いから」



…………………………………………………………………………………………………


しばらくして、

食卓に、

料理が並んだ。


丸ごと素揚げされたオクラと、

湯むきしたトマトを丸ごと使った冷製スープ、

それに、

昨日直したミルで挽いた、

コーヒーが添えられていた。


虎は、

まず、

オクラを一口食べた。


虎「……」


外側は、

かりっと揚がっていて、

中は、

とろりとした粘りがあった。

下ごしらえが丁寧だったせいか、

苦味やえぐみが全くなく、

オクラ本来の、

青々しい香りだけが、

まっすぐに伝わってきた。


虎「……うまい。切り方一つで、こんなに違うのか」

ミラ「ふふ、わかってもらえて嬉しいわ」


次に、

トマトのスープを、

一口飲んだ。


虎「……」


皮がない分、

口当たりが、

なめらかだった。

トマトの果肉が、

そのまま、

とろりと舌に乗って、

甘みと酸味が、

すっきりと広がる。

今日、

守り抜いた畑の味が、

そのまま、

器の中にあるようだった。


虎「……いい味だ。トマトも、皮があるとないとで、こんなに違うんだな」

ステラも、

一口飲んだ。


ステラ「……口当たりが、全然違いますね」


クリスが、

コーヒーを飲みながら、

静かに言った。


クリス「……守れた畑の飯は、また、格別だな」


ゴードンが、

嬉しそうに、

コーヒーを飲み干した。


ゴードン「本当に、世話になった。おかげで、また、いい野菜が作れる」



…………………………………………………………………………………………………


食後、

夜の畑を、

虎は一人で眺めた。


星明かりの下、

青白い植物が、

祠のそばで、

静かに輝いていた。


虎(一万年前にも、こういう不思議な植物は、あった)


虎(だが、こうして誰かと一緒に、原因を探って、解決するのは、初めての経験だ)


ステラが、

隣に来た。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「いい一日でしたね」

虎「そうだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「ネズミの件、無事に解決しましたね」

虎「原因は、月に触れた植物だった」

ステラ「祠のそばに、移し替えましたね」

虎「あそこなら、うまく育つだろう」

クリス「……月の気配が、こんな身近な場所にも、残っている」

虎「面白い発見だった」

ステラ「ミラさんの野菜料理、絶品でしたね」

虎「切り方一つで、味が変わることを、学んだ」

ステラ「……おおむね、いい滞在になりました」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です。そろそろ、旅立つ頃合いですね」

虎「次の予告をしてくれ」

ステラ「次回、『虎が、カフェを発つ』」

虎「収穫祭が、待っているらしいな」

ステラ「はい。楽しみです」

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