第60話「虎が、シーアリスを発つ」
シーアリスの門を出て、
街道を進んだ。
石畳が丁寧に敷かれた道が、
緑豊かな田園風景の中を、
まっすぐに続いていた。
ステラ「……いい景色ですね」
虎「そうだな」
両脇に、
麦畑や果樹園が広がっている。
遠くに、
小さな水車小屋も見えた。
クリスが、
自転車を漕ぎながら、
周りを見渡した。
クリス「……こういう景色は、初めて見る」
ステラ「三千年、宮殿の中でしたから」
クリス「今は、色々な景色が見られる」
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しばらく走った頃、
ステラの自転車が、
急に重くなった。
ステラ「……あれ」
虎「どうした」
ステラ「なんだか、ペダルが、重いです」
自転車が、
ふらつき始めた。
ステラは、
慌てて止まって、
自転車から降りた。
タイヤを見ると、
明らかに、
空気が抜けていた。
ステラ「……パンクでしょうか」
クリス「街を出て、それほど経っていないのに」
虎「見た目には、傷はなさそうだが」
ステラが、
タイヤを軽く押した。
ステラ「……原因は、よくわかりませんが、このままでは進めませんね」
虎(自分で直せる代物でもないな)
虎「近くに、直せる場所はあるか」
ステラが、
地図を確認した。
ステラ「……このあたりに、カフェがあるようです。修理も、頼めるかもしれません」
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少し歩くと、
道の脇に、
木造のカフェが見えてきた。
看板には、
『畑のカフェ』
と書かれている。
店の前に、
畑が広がっていて、
野菜が、
きれいに列を作って育っていた。
ステラが、
自転車を押しながら、
店に近づいた。
ステラ「すみません」
中から、
がっしりとしたビッグ人の男が、
顔を出した。
ゴードン「おや、お客さんかい」
ステラ「実は、自転車が、動かなくなってしまって」
ゴードンが、
自転車を見た。
ゴードン「ふむ……ちょっと、見せてくれ」
ゴードンが、
自転車を持ち上げて、
店の裏手に運んだ。
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裏手には、
道具が整然と並んだ、
小さな作業場があった。
もう一人、
ノーマルサイズの女性が、
そこにいた。
ミラ「あら、お客さんね。いらっしゃい」
虎「世話になる」
ミラ「私は、ミラ。あちらの人が、夫のゴードンです」
ゴードンが、
自転車のタイヤを、
慎重に調べていた。
ゴードン「……ああ、これは、パンクじゃないな」
ステラ「違うんですか」
ゴードン「バルブのゴムが、劣化してる。空気が、少しずつ漏れていたんだろう」
虎「バルブ」
ゴードン「タイヤに空気を入れる、小さな部品だ。長く使ってると、ゴムが硬くなって、漏れるようになる。パンク修理とは、違う対処が必要でね」
ミラ「うちには、交換用のバルブがあるから、心配いらないわ」
ステラ「……ありがとうございます」
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ゴードンが、
慣れた手つきで、
バルブを交換していった。
大きな指先で、
細かい作業を、
丁寧にこなしている。
虎(器用な手つきだな)
虎(体の大きさに関係なく、手先の技術がある)
ミラが、
その様子を見ながら、
微笑んだ。
ミラ「主人は、こう見えて、細かい作業も得意なんです」
ゴードン「まあ、長年やってりゃ、身につくもんだ」
しばらくして、
交換が終わった。
ゴードン「これで、大丈夫だろう」
ステラが、
自転車を軽く押してみた。
ステラ「……軽くなりました。ありがとうございます」
ゴードン「気にするな。ここは、旅人がよく通る道だからな」
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修理のお礼にと、
ミラが、
カフェの席に案内してくれた。
ミラ「せっかくだから、少し休んでいって。うちの豆で淹れたコーヒー、飲んでいくといいわ」
しばらくして、
温かいコーヒーと、
焼き菓子が運ばれてきた。
虎は一口飲んだ。
虎「……」
香ばしい香りが、
まず鼻を抜けた。
苦みの中に、
確かな甘みがあり、
飲み込んだ後に、
香りだけが、
長く残った。
一万年前にはなかった飲み物だったが、
すぐに、
虎の好みに合った。
虎「……うまい。深みがある」
ミラ「うちの畑の隣で、コーヒー豆も育てているの。挽きたて、焙煎したてが自慢よ」
ステラも一口飲んだ。
ステラ「……香りが、豊かですね」
クリスが、
焼き菓子を一口かじった。
クリス「……甘さが、優しい」
ミラ「うちの野菜を使った、素朴なお菓子なの」
虎(この街道沿いに、こういう店があるのは、いいものだな)
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コーヒーを飲み終えた後、
ミラが、
店の裏手の畑を案内してくれた。
無農薬で育てられた野菜が、
青々と並んでいた。
ステラ「……立派な畑ですね」
ミラ「ええ、丹精込めて育てているの。でも……」
ミラが、
少し表情を曇らせた。
ミラ「最近、困ったことがあってね」
畑の一角を見ると、
葉が、
かじられたように、
穴だらけになっていた。
ステラ「これは」
ミラ「ネズミの仕業だと思うの。無農薬だから、余計に狙われやすくて」
ゴードンが、
腕を組んで言った。
ゴードン「罠を仕掛けても、なかなか捕まらなくてな。厄介な相手なんだ」
虎は、
荒らされた畑を、
じっと見た。
虎(面白そうな話だ)
虎(少し、調べてみるか)
虎「その話、もう少し聞かせてくれるか」
ミラが、
少し驚いた顔をした。
ミラ「……手伝ってくれるの?」
虎「時間はある」
ゴードンが、
嬉しそうに笑った。
ゴードン「そりゃあ、助かる。今夜、泊まっていけばいい。じっくり話そう」
夕暮れの光が、
畑に、
長い影を落としていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「バルブの交換、助かりましたね」
虎「ゴードンの手際が、よかった」
ステラ「ミラさんのコーヒーも、おいしかったです」
虎「深みがある味だった」
クリス「……畑のネズミ、気になるな」
虎「調べてみる価値はありそうだ」
ステラ「今夜、泊めていただけるようです」
虎「その間に、色々見えてくるだろう」
ステラ「……おおむね、面白い展開になりそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしてくれ」
ステラ「次回、『虎が、コーヒーミルを直す』」
虎「今度は、機械の修理か」
ステラ「はい。楽しみですね」




