第56話「虎が、試合を待つ」
翌朝、
興行会の事務所に呼ばれた。
スカウトが、
書類を片手に、
待っていた。
スカウト「話は聞いてる。ガロンとの試合、正式に組ませてもらった」
虎「いつだ」
スカウト「三日後だ。この街では、一番大きな興行になる」
ステラが、
書類を覗き込んだ。
ステラ「……三日間、ですか」
スカウト「ビッグ化体験の期限も、ちょうどそのくらいだろ。ぴったりだ」
虎「そうだな」
スカウト「試合まで、街を見て回るなり、体を休めるなり、好きにしてくれ。準備期間だ」
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事務所を出ると、
街の通りに、
興行の告知が貼られていた。
『虎 対 ガロン、三日後決戦!』
大きな文字で、
書かれていた。
ステラ「……もう、街中に広まっていますね」
虎「そうらしいな」
通りすがりのビッグ人が、
虎に気づいて、
声をかけてきた。
ビッグ人「おお、あんたが虎か! 三日後、楽しみにしてるぞ!」
虎「ああ」
さらに歩くと、
ノーマルサイズの子供たちが、
虎を指差して騒いでいた。
子供A「見て! あの虎だよ!」
子供B「本当にでっかいな!」
虎(一万年前には、名前を覚えられることさえなかった)
虎(今は、街中の人間に知られている)
虎(不思議な感覚だ)
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昼過ぎ、
街の広場で、
虎たちは休憩をとった。
クリスが、
杖を軽く振って、
魔力の流れを確かめていた。
クリス「……試合まで、体を慣らしておいた方がいいかもしれない」
虎「軽く動くか」
ステラ「私も、付き合います」
三人は、
広場の隅で、
軽い組手の稽古を始めた。
ステラが、
虎の動きに合わせて、
体をかわしながら言った。
ステラ「虎様、ガロンさんの戦い方、覚えていますか」
虎「昨日の食事の時に、少し話は聞いた。だが、実際の試合は見ていない」
ステラ「観客席で見た限り、力強さと、意外な柔軟性を持っていました」
虎「そうか」
クリスが、
杖を軽く構えながら言った。
クリス「三日後まで、情報を集めておくべきだな」
虎「そうだな」
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稽古の後、
興行場の隣にある、
選手用の練習場に立ち寄った。
そこで、
何人かのデュエリストが、
稽古をしていた。
その中に、
ガロンの姿もあった。
だが、
様子が少し違った。
ガロンが、
見慣れない装置の前に立っている。
黒い箱のような機械から、
細い管が伸びていて、
ガロンの腕に、
繋がっていた。
虎
虎(何かを、注入しているのか)
ガロンが、
虎たちに気づいて、
慌てて管を外した。
ガロン「……お、来てたのか」
虎「その装置は、何だ」
ガロンが、
一瞬、
言葉に詰まった。
ガロン「……ただの、栄養補給用の装置だ。試合前の、体力回復に使うんだよ」
虎(本当に、それだけか)
虎(何か、隠している気がする)
ステラも、
ガロンの様子を見て、
少し眉をひそめた。
ステラ「……失礼ですが、その装置、少し珍しい形をしていますね」
ガロン「……そうか? この街じゃ、よく見るやつだが」
虎は、
それ以上、
深く追及しなかった。
虎「そうか。まあ、いい」
ガロン「……ああ」
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練習場を出た後、
虎はステラとクリスに言った。
虎「あの装置、気になるな」
ステラ「はい。……普通の栄養補給には、見えませんでした」
クリス「……私も、少し違和感を覚えた。魔力の流れが、不自然だった」
虎「不自然、とは」
クリス「体の外から、無理やり魔力を送り込むような気配があった。あれは、普通の道具ではない」
虎(もし、あれが違法な強化装置だとしたら)
虎(試合の前に、はっきりさせておいた方がいいかもしれない)
だが、
確証はまだなかった。
虎「もう少し、調べてみよう」
ステラ「はい」
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夕方、
街の図書館らしき建物に立ち寄った。
ビッグ人向けの巨大な本棚が、
天井近くまで並んでいる。
ステラが、
記録を探した。
ステラ「……興行会の規定に、使用可能な補助道具の一覧があります」
しばらく調べると、
一冊の古い規則書に、
禁止事項が書かれていた。
ステラ「……『外部からの魔力注入による身体強化は、いかなる形式であれ禁止する』とあります」
虎「やはり、ただの栄養補給ではないな」
クリス「あの装置が、それに該当するなら、明確な違反だ」
虎(ガロンが、なぜそんなことをする必要があるんだ)
虎(焦り、と言っていたな)
虎(あれが、原因かもしれない)
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夜、
宿の庭で、
遅い夕食を取った。
ステラが、
街の市場で買ってきた、
ビッグ人向けの巨大な果物を用意した。
赤く艶やかな果実で、
一つが、
虎の頭ほどの大きさがあった。
虎は一口かじった。
虎「……」
果汁が、
口いっぱいに広がった。
甘みが濃く、
それでいて、
後味はすっきりしていた。
大きな果実らしく、
噛むごとに、
新鮮な瑞々しさが続いた。
虎「……うまい。試合前の、いい気分転換になる」
ステラ「よかったです」
クリスも一口食べた。
クリス「……甘さが、深い」
虎「そうだな」
食べながら、
虎は、
ガロンのことを考えていた。
虎(試合まで、あと二日)
虎(あいつが、あの装置を、また使うようなら)
虎(見過ごすわけには、いかないな)
ステラが、
虎の表情を見て言った。
ステラ「虎様、考え事ですか」
虎「ガロンのことだ」
ステラ「……試合、心配ですね」
虎「勝ち負けの心配じゃない。あいつが、間違った方向に進んでいるかもしれないことが、気になる」
クリスが、
静かに言った。
クリス「……焦りは、時に人を、正しくない道に導く」
虎「そうだな」
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夜が更けて、
虎は、
窓の外を見た。
興行場の方角に、
まだ灯りが、
灯っていた。
虎(あそこで、誰かが、まだ稽古をしているのかもしれない)
虎(あの装置を使って)
虎「明日、もう一度、あいつと話す必要がありそうだ」
ステラ「はい」
クリス「……試合、無事に終わるといいが」
夜風が、
街全体を、
静かに包んでいた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「あの装置、気になりますね」
虎「規則違反の可能性が高い」
ステラ「ガロンさんに、直接聞いてみますか」
虎「そうするしかない」
クリス「……何か理由があるはずだ」
虎「聞いてみないとわからない」
ステラ「……おおむね、穏やかな話し合いになるといいのですが」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。虎様が話せば、案外すんなり解決するかもしれません」
虎「そうだといいが」
ステラ「次の予告をしてください」
虎「次回、『虎が、真実を知る』」
ステラ「いよいよ核心ですね」
虎「ガロンが、何を抱えているのか。知る必要がある」




