第54話「虎が、リングに上がる」
興行場は、
街の中心にある巨大な円形闘技場だった。
観客席が、
ビッグ人用とノーマル用に分かれていて、
すり鉢状に、
何段にも重なっている。
スカウトが、
控室に案内した。
スカウト「今日はもう一組、大きな試合がある。だが、飛び入りのお前らも、盛り上げてくれよ」
虎「任せろ」
ステラが、
控室の中を見渡した。
ステラ「……本格的な場所ですね」
クリス「緊張してきた」
虎「面白い方が勝つ」
ステラ「……勝敗ではなく、面白さで判断するのですね」
虎「そうだ」
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出番の前に、
審判役のビッグ人が、
ルールを説明した。
審判「魔法、魔道具の使用は一切禁止。純粋な体術のみで競う。場外に落ちるか、参ったをするか、動けなくなれば負けだ」
虎「わかった」
審判「今回は一対二のハンデ戦だ。虎、お前が一人。ステラとクリス、お前たちが組んで挑む」
ステラ「よろしくお願いします」
クリス「手加減は無用だ」
審判が、
虎を見た。
審判「相手が二人でも、油断するなよ」
虎「相手が誰でも、油断はしない」
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入場のアナウンスが、
会場に響いた。
アナウンス「本日、飛び入り参加! 旅の虎、対、ステラ&クリス組!」
歓声が、
会場を包んだ。
観客席には、
ビッグ人もノーマルも、
入り混じって座っていた。
虎がリングに上がると、
観客たちが、
ざわめいた。
観客A「でかい虎だな……!」
観客B「あの人形と骨も、参加者か!」
虎(賑やかだ)
虎(一万年前には、こういう場所もなかったな)
ステラとクリスも、
反対側からリングに上がった。
ステラは、
両手を軽く構えた。
クリスは、
杖を魔法陣に置いて、
使用不可であることを、
審判に確認させた。
クリス「これでいいな」
審判「確認した。それでは、始め!」
ゴングが、
鳴った。
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ステラが、
まず動いた。
低い体勢から、
虎の懐に飛び込んだ。
虎は、
それを片手で受け止めた。
虎(速い。だが、力はない)
虎はステラの腕を掴んで、
そのまま持ち上げようとした。
だが、
ステラは体を捻って、
その手を外した。
ステラ「……さすがに、力では敵いません」
虎「わかっているなら、動きで勝負しろ」
クリスが、
反対側から接近した。
クリスの拳が、
虎の腹に入った。
虎「……」
思ったより、
重い一撃だった。
虎(体は大きくなったが、クリスの力も、それなりに強い)
クリス「……手応え、ありましたね」
虎「あったな」
虎は、
クリスの拳を受けた腹に、
少し力を込めた。
虎「だが、これぐらいだ」
虎は反撃に、
軽く腕を振った。
クリスがそれを避けて、
後方に跳んだ。
観客席から、
歓声が上がった。
観客A「動きが速いぞ、あの二人!」
観客B「でも、虎も余裕がある!」
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ステラとクリスが、
連携して動き始めた。
ステラが、
虎の足元に低く入り込み、
クリスが、
上から拳を振り下ろす。
虎は、
ステラの動きを察知して、
一歩下がった。
クリスの拳が、
空を切った。
虎「わかりやすい連携だな」
ステラ「……お見通しでしたか」
虎「動きに、癖がある」
だが、
ステラが、
さらに変化をつけた。
低い姿勢から、
今度は虎の足を狙った。
虎の足が、
一瞬、
バランスを崩した。
ステラ「……今です!」
クリスが、
その隙に、
虎の腕を掴んで、
体重をかけた。
虎「……なるほど」
虎は、
そのまま流されるふりをして、
体を捻った。
クリスの手が、
虎の腕から外れた。
虎は、
その勢いのまま、
軽くクリスを押した。
クリスが、
後ろに転がった。
クリス「……」
虎「大丈夫か」
クリス「問題ない。三千年生きてきたが、こういう痛みも、初めてだ」
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試合は、
拮抗した攻防を続けた。
ステラとクリスの連携は、
虎の力に対して、
確実に効果を上げていた。
だが、
虎の対応力もまた、
一つ一つの動きに、
的確に応じていた。
虎(面白い。二人がかりというのは、こういう感覚か)
虎(一人で戦うのとは、また違う手強さがある)
ステラが、
再び懐に飛び込んだ。
今度は、
虎の足を絡めるような動きだった。
虎の体が、
大きく傾いた。
観客席が、
一斉に沸いた。
観客A「あっ、虎が崩れた!」
観客B「いけるか!?」
だが、
虎は、
崩れた体勢のまま、
片手をついて、
そのまま体を回転させた。
その動きで、
ステラの体を、
軽く弾き飛ばした。
ステラ「……」
ステラが、
場外ぎりぎりで、
なんとか止まった。
虎「……惜しかったな」
ステラ「……本当に、惜しかったです」
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試合が長引くにつれて、
三人とも、
息が上がってきた。
クリスが、
一度距離を取って、
息を整えた。
クリス「……体があると、疲れるものだな」
虎「そういうものだ」
ステラが、
虎を見て言った。
ステラ「虎様、そろそろ、決着をつけませんか」
虎「そうだな」
三人が、
同時に動いた。
ステラが低く、
クリスが高く、
両方向から挟み込むように迫った。
虎は、
その中間で、
体を回転させた。
腕で、
ステラの動きを受け流し、
もう片方の腕で、
クリスの拳を受け止めた。
虎「……悪くない連携だ」
そのまま、
虎は、
二人を、
同時に軽く押し出した。
二人とも、
リングの端まで、
弾き飛ばされた。
審判「……二人とも、場外まで、あと一歩!」
ステラとクリスは、
なんとか踏みとどまった。
ステラ「……さすがです」
クリス「一対二でも、押し切られない、か」
虎「まだ、終わってない」
三人は、
再び構え直した。
会場の熱気が、
最高潮に達していた。
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観客席の一角に、
若い男が、
腕を組んで座っていた。
がっしりとした体格で、
目つきが鋭い。
その男が、
リングの虎を見ながら、
つぶやいた。
若い男「……あの虎、面白いな」
隣に座っていた別の観客が、
気づいて声をかけた。
観客C「あれ、ガロンさんじゃないですか」
若い男「ああ」
観客C「今日、試合はないんですか」
ガロン「見に来ただけだ。……あの虎とは、いつか戦ってみたいな」
ガロンの目が、
静かに光っていた。
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リングの上では、
まだ試合が続いていた。
虎(もう少し、楽しめそうだ)
虎(この街の連中は、面白い)
ゴングが、
まだ鳴っていなかった。
会場の歓声が、
夜空に響いていた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「試合、まだ決着していませんね」
虎「なかなか、いい勝負だった」
ステラ「……おおむね、疲れました」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。三千年生きても、疲れは疲れですね」
クリス「同感だ」
虎「試合は、明日の朝には決着がついているはずだ」
ステラ「観客の中に、ガロンさんもいたようですね」
虎「見ていたのか」
ステラ「気配を感じました」
虎「そのうち、会うことになりそうだ」
ステラ「次回、『虎が、ガロンと出会う』」
虎「楽しみだな」
クリス「デュエリストとの対面、興味がある」




