第48話「虎が、影の正体を探る」
翌朝、
虎とステラ、
クリスは、
再び港の東側の岩場に向かった。
老漁師も、
同行してくれた。
老漁師「今朝は、さらに鳴き声が強くなっています」
岩場に着くと、
ウミネコたちの様子が、
昨日よりも激しかった。
数十羽が、
一斉に沖に向かって鳴いている。
その鳴き声が、
波のように重なって響いていた。
クリス「……昨夜より、魔力の反応が強い。近づいている」
虎「距離は」
クリス「まだわからない。だが、確実に、こちらに向かっている」
虎(岩場からでは、見えないな)
虎(船で沖に出れば、確認できるか)
虎「船を借りられるか」
老漁師「……この状況で、沖に出るつもりですか」
虎「様子を見るだけだ。危険があれば、すぐ戻る」
老漁師は少し迷ったが、
頷いた。
老漁師「……わかりました。私の船を使ってください。私も、一緒に行きます」
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小さな漁船で、
沖に出た。
ウミネコの群れが、
船の周りを飛び回っていた。
ステラ「……ついてきていますね」
虎「案内しているつもりかもしれない」
老漁師が、
船を操りながら言った。
老漁師「この方角は、普段は漁に出ない場所です。潮の流れが複雑で」
虎「複雑な流れが、大きなものが通る道になっているのかもしれない」
しばらく進むと、
海面に、
異変が見えた。
水面が、
うねるように波打っている。
ステラ「……何か、下にいますね」
クリス「気配が、はっきりしてきた」
虎は海面を見つめた。
虎(大きい。かなり大きい)
海が、
大きく盛り上がった。
老漁師「うわっ……!」
船が、
少し揺れた。
水面から、
何かが姿を現した。
顔は、
猫のような形をしていた。
だが、
体は、
巨大な鮫のようだった。
体長は、
船の何倍もある。
老漁師「……ネコザメだ」
虎「ネコザメ」
老漁師「……伝説でしか聞いたことがない。数百年に一度、この海域を回遊するという、幻の生き物だ」
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巨大なネコザメが、
ゆっくりと海面近くを泳いでいた。
その体の周りに、
ウミネコの群れが、
まとわりつくように飛んでいた。
クリス「……鳴き声が、変わった」
先ほどまでの、
騒がしい鳴き方ではなく、
落ち着いた、
歌うような響きになっていた。
虎(歌の内容通りだ。同胞を迎えている)
虎「攻撃的な様子はない」
ステラ「はい。ウミネコたちも、喜んでいるように見えます」
ネコザメが、
大きく体をくねらせた。
その動きに合わせて、
数羽のウミネコが、
体の表面から、
ぴょんと飛び出した。
老漁師「……あれは」
虎「ウミネコが、ネコザメから生まれた、ということか」
クリスが、
杖を構えて、
魔力の流れを読んだ。
クリス「……そうらしい。ネコザメの回遊中に、一部のウミネコが生まれ、独り立ちする。そして、港に居つくんだ」
虎「それが、この街のウミネコの起源か」
クリス「おそらく」
老漁師が、
呆然とした顔で、
その光景を見ていた。
老漁師「……つまり、これは、悪いことじゃないんですね」
虎「むしろ、めでたいことだろう。新しい仲間が、生まれている」
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しばらく観察した後、
船は港に戻った。
老漁師が、
すぐに集会所に向かい、
街の人々に説明した。
老漁師「……大きな影の正体は、伝説のネコザメでした。ウミネコの同胞を運んでくる、めでたい存在だったんです」
会場が、
どよめいた。
住民A「……悪いことじゃなかったのか」
住民B「じゃあ、鳴き声が乱れていたのは」
老漁師「新しい仲間を迎えるための、歓迎の歌だったようです」
安堵の空気が、
会場に広がった。
虎は、
その様子を後ろで見ていた。
虎(不安の正体は、正体不明だったことだ)
虎(知れば、恐怖は変わる)
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夕方、
宿に戻って、
遅い食事を取った。
ステラが、
市場で買ってきた大きなカニのようなものを、
茹でて出した。
一本の脚が、
虎の腕ほどの太さがあった。
虎は一口食べた。
虎「……」
身が、
ぎっしり詰まっていた。
噛むたびに、
甘みと旨みが交互に広がる。
普通のカニよりも、
繊維が太く、
食べごたえがあった。
茹でただけのシンプルな調理だったが、
素材の良さがそのまま伝わってきた。
虎「……うまい。今日食べたものの中で、一番うまいかもしれない」
ステラ「大きな脚一本で、お腹いっぱいになりそうです」
クリスも、
一口食べた。
クリス「……甘みが濃い。この街の食材は、大きさに比例して味も濃くなっているようだ」
虎「面白い理屈だ」
ステラが、
少し笑った。
ステラ「今日は、いい調査になりましたね」
虎「ああ。街の不安も、解消できた」
クリスが、
窓の外を見た。
夜の海に、
ウミネコたちの鳴き声が、
穏やかに響いていた。
クリス「……もうすぐ、ネコザメは去るんだろうか」
虎「数日は、この海域にいるだろう。新しいウミネコが、独り立ちするまでは」
ステラ「街の人々も、それを見守るでしょうね」
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「影の正体、ネコザメでしたね」
虎「街の不安も、解消できた」
ステラ「新しいウミネコが、生まれていましたね」
虎「めでたいことだった」
クリス「……月文明の記録にあった話とも、少し繋がる気がする」
虎「詳しく話せるか」
クリス「もう少し、記憶を整理してから」
ステラ「次回、『虎が、街の祝福を見る』」
虎「祝福、か」
ステラ「新しいウミネコの誕生を、街全体で祝うようです」
虎「面白そうだ」
ステラ「……おおむね、賑やかな回になりそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」




