第47話「虎が、ウミネコを調べる」
翌朝、
街の集会所に向かった。
大勢の漁師や住民が、
すでに集まっていた。
老いた漁師が、
壇上で話していた。
老漁師「……この十日ほど、ウミネコの鳴き声が、明らかにおかしい。普段は朝と夕方に二回鳴くだけなのに、今は昼夜問わず鳴き続けている」
住民A「うちの船も、出航を見合わせています。ウミネコが荒れると、海も荒れるって言いますから」
住民B「一部のウミネコが、群れを離れて沖に向かっているのも心配です。何かに追われているんじゃないでしょうか」
会場が、
ざわめいた。
虎は宿の主人に連れられて、
壇上近くに立った。
主人「皆さん、こちらの方々が、調べてくださるそうです」
虎「虎だ。ウミネコの様子を見てみたい」
老漁師が、
虎を見た。
老漁師「……頼もしい体格だな。だが、ウミネコは物理的な脅威に弱いわけじゃない。むしろ、優しく見ないといけない生き物だ」
虎「わかっている。力ずくで解決する気はない」
ステラが前に出た。
ステラ「私たちは、原因を調べて、街の皆さんに正しい情報をお伝えしたいと思っています」
老漁師が、
少し安心したような顔をした。
老漁師「……頼む。港の東側に、ウミネコが集まる岩場がある。案内しよう」
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港の東側、
岩場に着くと、
確かに様子が違った。
ウミネコたちが、
落ち着きなく飛び回っている。
顔は猫、
体は魚という、
不思議な姿だった。
鳴き声が、
普段よりずっと甲高く、
連続していた。
ステラ「……確かに、乱れていますね」
クリス「……何かに反応しているような鳴き方だ」
虎は目を細めて、
ウミネコの動きを追った。
虎(一斉に、沖の方向を見ている個体が多いな)
虎(何かを、待っているような動きだ)
老漁師「見てください。あそこの一群、もう三日も、あの姿勢のままです」
数羽のウミネコが、
岩の上に並んで、
一点を見つめ続けていた。
クリスが、
杖を軽く構えた。
クリス「……魔力の流れを見てみる」
クリスの目が、
青白く光った。
クリス「……海の底から、何か大きなものの気配が近づいている」
虎「大きなもの、とは」
クリス「詳しくはわからない。だが、規模がかなり大きい。街を脅かすほどではなさそうだが、油断はできない」
老漁師が、
青ざめた。
老漁師「……やはり、何か恐ろしいものが来るということですか」
虎「まだ、わからない。決めつけるのは早い」
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図書館代わりに、
街の古い記録がある寺院に向かった。
住職らしき老人が、
奥から古い書物を持ってきた。
住職「ウミネコに関する記録なら、いくつかありますよ」
ステラが、
一冊ずつ確認していった。
ステラ「……鳴き声のパターンについての記述は、ありますが、今回のような大規模な乱れについては、記録がありません」
虎「初めてのことか」
住職「……いえ、待ってください」
住職が、
一番奥の棚から、
古びた巻物を取り出した。
住職「これは、街の創設期からの言い伝えを記した巻物です。滅多に開かないのですが」
巻物を広げると、
古い文字が並んでいた。
虎(……古代語に近い。読める)
虎は文字を目で追った。
虎「……歌が、書いてある」
ステラ「歌、ですか」
虎「ウミネコが、鳴き方を変えて歌うとき、それは同胞を迎える合図だと」
住職が、
目を丸くした。
住職「……それは、初めて聞く話です」
虎「続きがある。『大きな影が海を渡るとき、ウミネコは声を上げて迎える。数百年に一度、その時が来る』」
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老漁師が、
巻物の記述を見て、
何かを思い出した顔をした。
老漁師「……そういえば、祖父から聞いた歌があります。子供の頃、寝る前に歌ってもらった歌です」
老漁師が、
低い声で、
古い歌を口ずさんだ。
『海を渡る大きな影、猫の顔した友を連れて』
『百年、また百年、待ちわびた声よ響け』
虎「……」
クリス「……その歌、今のウミネコの鳴き方と、リズムが似ている」
虎(数百年に一度、大きな影が来る。ウミネコは、それを迎えるために鳴いている)
虎(脅威ではなく、歓迎の声かもしれない)
だが、
確証はまだなかった。
虎「引き続き、調べる必要がある」
ステラ「はい」
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夕方、
宿に戻って、
遅い昼食を取った。
ステラが、
市場で買った巨大なイカのようなものを、
輪切りにして焼いた。
虎は一口食べた。
虎「……」
弾力のある食感で、
噛むほどに、
濃厚な旨みが出てきた。
普通のイカよりも身が厚く、
一切れで満足感がある。
焦げ目の香ばしさが、
旨みを引き立てていた。
虎「……うまい」
ステラ「調査で疲れましたから、しっかり食べましょう」
クリスも、
一切れ食べた。
クリス「……この身の厚み、面白いな」
虎「でかいだけの街じゃない」
ステラ「はい。味も、ちゃんとついてきます」
虎は食べながら、
考えていた。
虎(歌の内容が本当なら、ウミネコは何かを迎えようとしている)
虎(だとすれば、街の人々の不安を解消するには、その正体を確かめる必要がある)
ステラ「虎様、明日はどう動きますか」
虎「もう少し、記録を調べる。それと、実際にウミネコの近くで様子を見たい」
ステラ「危険はないですか」
虎「今のところ、こちらに敵意はなさそうだ」
クリスが、
窓の外の海を見た。
クリス「……その大きな影、私も気になる」
虎「そうか」
クリス「月文明の記録にも、似たような話があった気がする。海を渡る巨大な存在について」
虎(クリスの記憶とも、繋がるかもしれないな)
虎「思い出したら教えてくれ」
クリス「うむ」
夜の海から、
また鳴き声が響いてきた。
さっきより、
少し落ち着いた響きだった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「歌の記録、見つかりましたね」
虎「数百年に一度の、大きな影」
ステラ「脅威ではないかもしれません」
虎「ああ。だが、確かめる必要がある」
クリス「私も、記憶を辿ってみる」
虎「頼む」
ステラ「明日は、実際にウミネコの近くで観察するのですね」
虎「そうだ」
ステラ「……おおむね、平和的な展開になるといいのですが」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしろ」
ステラ「次回、『虎が、影の正体を探る』」
虎「巨大な影、か」
ステラ「街のみんなが、安心できる答えが見つかるといいですね」
虎「見つける」
クリス「……頼もしいな」
虎「当然だ」




