第41話「虎が、ゴーストタウンへ向かう」
サンドポートを出て、
数日歩いた。
木々が深くなり、
霧が出始めた頃、
三羽のカラスが鳴いた。
カア、カア、カア。
ステラ「……カラスが、多いですね」
虎「気になるか」
ステラ「なんとなく、道案内をされている気がします」
クリスが、
虎の肩の上でふわりと揺れた。
クリス『……この先、独特な気配がする』
虎「独特、とは」
クリス『生と死の境界が、薄い場所だ』
しばらく歩くと、
霧の向こうに、
街の輪郭が見えてきた。
古い建物が並んでいる。
だが、
廃墟ではなかった。
灯りがついていた。
人が、
歩いていた。
そして、
その隣を、
半透明の姿をした何かが、
一緒に歩いていた。
ステラ「……あれは」
虎「ゴーストだな」
門の看板に、
文字が刻まれていた。
『ホロウベルへようこそ』
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門をくぐると、
ゴーストたちが、
虎を見て少し驚いた顔をした。
だが、
すぐに何事もなかったように、
それぞれの生活に戻った。
ステラ「……驚かれませんね」
虎「見慣れているんだろう」
通りには、
人間とゴーストが、
並んで店番をしていた。
半透明のゴーストが、
野菜を売っている。
その隣で、
人間の店主が、
パンを焼いている。
虎(一万年前には、こういう光景はなかった)
虎(人間の技術が、死者との共存を可能にしたのか)
クリス『……面白い街だ』
虎「そうだな」
クリス『骨の私と、通じるものがあるかもしれない』
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街の中心に、
役場のような建物があった。
中に入ると、
恰幅のいい老人が迎えた。
町長「おお、あなた方が虎殿ですかな。ギルドから連絡を受けておりました」
虎「依頼の件で来た」
町長「ありがとうございます。実は困った事態が起きておりましてな……」
町長が、
地図を広げた。
町長「最近、暴走ゴーストが出るようになりましてな。夜な夜な、畑や建物を壊すのです」
ステラ「……人的被害は」
町長「幸い、人を襲うことはありません。ただ、土地や物への攻撃が激しく、街の生活に支障が出ています」
虎「なぜ攻撃をやめさせない」
町長「討伐という選択肢もあるのですが……その暴走ゴーストは、まだ強制的に成仏させるほどの罪を犯していないのです。ホロウベルの法では、ゴーストにも一定の権利があります。むやみに消すことはできません」
虎(なるほど。人権ならぬ、死者の権利、というものがあるのか)
ステラ「攻撃は効かないのですか」
町長「効きません。物理的な攻撃も、魔法も、すり抜けてしまいます。あれは、通常のゴーストとは違う性質を持っているようです」
虎「では、どうする」
町長「唯一の方法があります。この街には、ダイヤル式の魔導電話がありましてな。生者と死者の境界を超えて、声を届けることができる特殊な魔道具です。それを使って、暴走ゴーストと対話し、未練を解消する必要があります」
クリスが、
ふわりと前に出た。
クリス『……対話、か』
町長「おお、そちらのクリスタルスカル様は」
クリス『クリスでいい。私は生でも死でもない、境界の存在だ。ゴーストとは、波長が合うかもしれない』
町長は、
少し驚いた顔をした。
町長「それは、心強い。ぜひ、力をお貸しいただければ」
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依頼を受けた後、
町長が街を案内してくれた。
町長「まずは、この街の名産を召し上がってください。腹が減っては、調査もできませんからな」
案内されたのは、
半透明の店主が営む、
小さな店だった。
店の看板に、
『ゴーストアイス』と書かれていた。
町長「ゴーストの冷気を使って作るアイスクリームです。この街でしか味わえません」
虎は一口食べた。
虎「……」
まず、
ひやりとした冷たさが、
普通のアイスより深かった。
だが冷たいだけではなく、
魔力を帯びた独特の余韻がある。
甘みは控えめで、
そのぶん、
素材の風味が際立っていた。
舌の上で溶けていく感触が、
不思議と心地よかった。
虎「……うまい。冷たさが、違う」
店主「ありがとうございます。私たちの冷気は、生きている頃の体温の記憶から来ているんですよ」
ステラも一口食べた。
ステラ「……確かに、普通の氷とは違う冷たさです」
クリスが、
アイスの一部を吸い込んだ。
クリス『……これは、なかなかいい』
虎「お前もわかるのか」
クリス『冷たさは、私にもよくわかる。骨は、常に冷たいからな』
虎「もう一つもらえるか」
店主「もちろんです」
虎は二つ目のアイスを受け取った。
町長「気に入っていただけたようで、何よりです」
虎「他の名物もあると聞いたが」
町長「霊製パスタですな。あれはまた、日を改めてご案内しましょう。今夜は、これで十分でしょう」
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食事を終えて、
宿に落ち着いた頃、
外から轟音が聞こえた。
ステラ「……あれが」
町長「暴走ゴーストです。今夜も、始まりました」
虎は窓から外を見た。
遠くの畑の方角で、
土煙が上がっていた。
半透明の巨大な影が、
建物を薙ぎ倒しているのが見えた。
虎「見に行くか」
ステラ「はい」
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現場に着くと、
畑の一角が、
めちゃくちゃに荒らされていた。
暴走ゴーストが、
まだそこにいた。
輪郭がぼやけていて、
はっきりとした姿は見えない。
だが、
巨大で、
悲しみを帯びた気配がした。
虎は近づいて、
拳を放った。
拳が、
ゴーストの体をすり抜けた。
虎「……本当にすり抜けるのか」
クリス『物理も魔法も効かない。だが、悲しみの気配は感じる』
暴走ゴーストが、
虎たちに気づいて、
一瞬動きを止めた。
それから、
霧のように、
夜の闇に溶けて消えた。
ステラ「……逃げましたね」
虎「攻撃しても意味がないと、町長の言った通りだな」
畑を見た。
作物が、
根こそぎ荒らされている。
虎(畑を、狙っている。建物も。土地に、何か執着があるんだろう)
虎「明日から、証拠を集める」
ステラ「未練の正体を探る、ということですね」
虎「ああ」
クリスが、
夜空を見上げた。
クリス『……あの悲しみ、どこかで見たことがある気がする』
虎「そうか」
クリス『……思い出せない。だが、無視できない気配だった』
夜霧の中を、
三羽のカラスが、
また鳴きながら飛んでいった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「暴走ゴーストの調査、始まります」
虎「証拠を集める」
ステラ「町の人々やゴーストの方々に、話を聞く必要がありますね」
虎「そうだな」
ステラ「クリスさん、何か気配を感じていましたね」
クリス『……まだ、はっきりしない』
虎「思い出したら教えてくれ」
クリス『そうする』
ステラ「次回、『虎が、証拠を集める』」
虎「地道な仕事になりそうだ」
ステラ「地道な仕事も、大事です」
虎「そうだな」
ステラ「……おおむね、虎様には向いていない気もしますが」
虎「なぜだ」
ステラ「いつも、力ずくで解決してきましたので」
虎「今回は、力が効かない相手だ」
ステラ「……そうでした」
虎「だから、面白い」




