第40話「虎が、宮殿を出る」
翌朝、
街に戻った。
門をくぐると、
すぐに人だかりが見えた。
その中心に、
ラシードがいた。
ラシード「……本当に、すまなかった。今まで俺がやってきたことは、全部……」
ラシードが、
街の人々に頭を下げていた。
ステラ「……様子が違いますね」
虎「良い人格になったと言っていたな」
近づくと、
ラシードが虎に気づいた。
ラシード「……あなたたちか」
虎「覚えているのか」
ラシード「……ぼんやりとだが。宮殿での記憶がある。目が覚めたら、街の外で倒れていた」
ラシードは深く息を吐いた。
ラシード「グリンドのことも、思い出した。俺が集めた連中だ。今すぐ、彼らを止めなければ」
虎「もう遅いかもしれない」
ラシード「……いや」
ラシードが街の広場を見た。
そこに、
グリンドの残党が集まっていた。
グリンドの一人「頭……無事だったのか」
ラシード「……お前たち、聞いてくれ。俺は、間違っていた」
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ラシードが、
仲間たちに話し始めた。
宮殿でのこと、
自分の目が覚めたこと、
そして今後どうするか。
グリンドの一人「……頭がそう言うなら」
別の一人「俺たちも、盗みはもう疲れてたんだ」
ステラが虎を見た。
ステラ「……更生する、ということでしょうか」
虎「そうなりそうだな」
ギルドの職員が話に加わって、
何やら手続きの話を始めた。
盗賊団の解散と、
街の労働力としての再出発。
漁師が近くで、
それを見ていた。
漁師「……あいつら、案外まともな連中だったのかもな」
虎「そうかもしれない」
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昼過ぎ、
虎とステラは宿の庭にいた。
クリスタルスカルが、
荷物の中から、
ふわりと浮いて出てきた。
クリスタルスカル『……街は、落ち着いたようだな』
虎「ああ」
クリスタルスカル『三千年ぶりに、外の空気を吸っている気がする』
ステラ「……決めましたか。これからのこと」
クリスタルスカルは、
しばらく黙っていた。
クリスタルスカル『……決めた。お前たちについていく』
虎「そうか」
クリスタルスカル『宮殿を守る役目は、もう終わった。三千年、同じ場所にいた。そろそろ、外を見てもいい頃だろう』
ステラ「よかったです」
クリスタルスカル『……一つ、頼みがある』
虎「何だ」
クリスタルスカル『名前を、変えてほしい。クリスタルスカルは、長すぎる』
虎は少し考えた。
虎「クリスでいいか」
クリスタルスカル『……クリス、か』
しばらく、
その響きを確かめるように、
クリスタルスカルは黙っていた。
クリスタルスカル『……悪くない。それでいい』
ステラ「では、クリスさんですね」
クリス『さん、はいらない。クリスでいい』
虎「わかった、クリス」
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夕方、
街の市場を歩いた。
屋台の一つで、
見慣れない食べ物が売られていた。
薄く伸ばした生地に、
肉や野菜を巻いたものだった。
屋台の主「これはトウモロコシの生地を使ったトルティーヤだよ。粉にして水で練って、薄く焼くんだ」
虎は一つ買った。
一口かじった。
虎「……」
トウモロコシの甘みが、
生地全体にほんのりと残っていた。
中の肉と野菜の旨みが、
生地に包まれることで、
一体になっている。
噛むと、
もちっとした食感の後に、
香ばしさが来た。
同じトウモロコシでも、
焼き、蒸し、茹で、
そして生地にしたものと、
また全く違う顔を見せていた。
虎「……これも、うまいな」
屋台の主「トウモロコシは、形を変えると味も変わるんだよ。この街の人間はみんな知ってる」
ステラも一口食べた。
ステラ「……確かに。生地になると、また違う味わいですね」
クリスタルスカルが、
ふわりと近づいてきた。
クリス『……私にも、分けてくれるか』
虎「ああ」
虎はトルティーヤの端を、
クリスに近づけた。
一口分が、
中に消えた。
クリス『……』
しばらく、
沈黙があった。
クリス『……うまい』
虎「そうか」
クリス『同じ果実でも、形が変わると、こんなに違うのか』
ステラ「……クリスさんも、味の違いがわかるのですね」
クリス『三千年、味というものを忘れていた。取り戻すのに、少し時間がかかりそうだ』
虎「これから、いくらでも食える」
クリス『……そうだな』
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夜、
宿の窓から、
砂漠と海の両方が見えた。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「サンドポート、いい街でしたね」
虎「ああ」
ステラ「守護者もいましたし、クリスさんにも出会えました」
虎「面白い街だった」
クリスが、
窓の外を見ていた。
クリス『……この景色を見るのも、初めてだ。ずっと宮殿の中にいたから』
虎「これからは、色々見られる」
クリス『……そうだな』
ステラ「明日、出発しますか」
虎「ああ」
ステラ「次はどこへ」
虎「決めていない」
ステラ「……いつも通りですね」
虎「それでいい」
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翌朝、
街の門で、
ラシードと漁師が見送りに来た。
ラシード「世話になった。グリンドのことも、街のみんなと一緒にやり直す」
虎「そうか」
漁師「またこの街に来いよ。トウモロコシ、いつでも食えるからな」
虎「そうする」
ステラが虎の隣で、
クリスを腕に抱えた。
ステラ「行きましょうか」
虎「ああ」
三人は、
街道を歩き出した。
砂漠の熱と、
海の風が、
背中に流れていった。
クリス『……次は、どこへ向かうんだ』
虎「決めていない」
クリス『……お前たちは、いつもそうなのか』
ステラ「はい。おおむね、その場で決めます」
クリス『……面白いやり方だ』
虎「気に入ったか」
クリス『……悪くない』
三人の旅が、
続いていった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「クリスさんが仲間になりました」
虎「賑やかになった」
ステラ「三人での旅ですね」
虎「そうだな」
ステラ「クリスさんは、何ができるのでしょうか」
虎「まだわからない」
ステラ「楽しみですね」
虎「ああ」
クリス『……私も何か、役に立てるだろうか』
虎「心配するな。うまいものを食う仲間が増えただけでも十分だ」
クリス『……それだけでいいのか』
ステラ「虎様の基準は、おおむねそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎「次の予告をしろ」
ステラ「次回、『虎が、ゴーストタウンへ向かう』」
虎「どこへ行くか」
ステラ「まだ決めていません」
虎「それでいい」
ステラ「はい」




