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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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4/10

第4話「虎が、本試験を受ける」

本試験の会場は、

街の中心にある円形の闘技場。


石造りの観客席が、ぐるりと取り囲んでいる。

朝の光の中に、すでに人が集まり始めていた。

観客だ。

試験が見世物になっているらしい。


コウ「え、見られるのか。これ」

レン「……ギルドの試験は公開されてるんだろ。強さを見せる意味でも」

ミオ「うるさい。集中して」


ステラが虎の隣で観客席を見上げた。


ステラ「三百名ほど、来ているようです」

虎「賑やかだな」

ステラ「虎様はお好きですか、こういう場所は」

虎「嫌いじゃない」


試験官が闘技場の中央に立った。

あの白髪の老人だ。


試験官「本試験の内容を説明する。各受験者は、ギルドが用意した相手と一対一で戦う。勝敗は問わない。我々が見るのは、戦い方だ」


レン「戦い方?」

試験官「どう考え、どう動くか。力だけの話ではない。第二試験の続きだと思え」


虎は腕を組んだ。


虎(なるほど。面白い試験をやる)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初にレンが呼ばれた。


相手は、ギルドの若い剣士。

レンより頭一つ背が高く、剣の構えが板についている。


開始の合図と同時に、レンが踏み込んだ。

速い。

だが相手も受けた。

鍔迫り合いになる。

レンは力で押しきろうとしたが、相手がうまく流した。


レン「くっ……」


体勢が崩れる。

だがレンはそこから立て直した。

無理に攻めず、距離を取って呼吸を整える。

それから、じわじわと崩しにかかった。


五分ほど経って、相手の剣士が片膝をついた。


試験官「レン、合格」


観客席から拍手が上がった。


コウ「おお……! レンやるじゃん」

レン「……ギリギリだった」


次にコウ、ミオの順で呼ばれ、

二人とも合格した。

コウは魔法の手数で押しきり、

ミオは最初から最後まで無表情のまま、

氷の魔法で相手を封じて終わらせた。


ミオ「……終わった」

コウ「ミオ、もう少し盛り上げろよ」

ミオ「いらない」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラが呼ばれた。


相手は、同じくギルドの若い剣士。


ステラは白いエプロンドレスのまま、

中央に歩いて出た。

観客席がざわめく。


観客「人形か……」

観客「動けるのか?」


開始の合図。


相手の剣士が剣を構えたまま、

少し躊躇した。

人形を相手に本気で剣を振るうのが、

気後れするらしい。


その一瞬に、

ステラが動いた。


音もなく踏み込んで、

相手の剣の内側に入り、

手首を取って、

そのまま投げた。


どん、と地面に叩きつけられた剣士が、

天井を見上げたまま動かない。


ステラ「おおむね、三秒かかりました。次は改善します」


観客席が、しんと静まり返った。


コウ「……ステラ、つよ」

レン「……うん」

ミオ「……」


試験官「ステラ、合格」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最後に、虎が呼ばれた。


中央に出ると、

相手が出てこなかった。


試験官が観客席の方を向いて、

何かを合図した。


通路の扉が開いた。


出てきたのは、大きな魔物だった。

体高は三メートルを超える岩のような体躯。

石の鎧のような表皮に覆われた、

ゴーレム種の上位個体だ。


コウ「え、人間じゃないのか」

レン「……あれ、Aランク相当じゃないか」

ステラ「正確にはA+です」


観客席がどよめく。


試験官「虎の相手は、これだ。……これだけで判断が難しかった」


虎(なるほど。俺には魔物をぶつけてきたか)


ゴーレムがゆっくりと動き出した。

足音のたびに地面が揺れる。


コウ「虎、大丈夫か?!」


虎は答えなかった。


ゴーレムが右腕を振り上げた。

岩の拳が、虎めがけて落ちてくる。


虎は避けなかった。


右手を前に出して、

ゴーレムの拳を、

真正面から受けた。


ごん、という音がした。

地面にひびが入った。

ゴーレムの拳の方が、

砕けた。


虎「……思ったより硬かった」


ゴーレムが左腕を振う。

虎は今度は一歩踏み込んで、

腕の付け根を、

片手で掴んだ。


ぎ、という音。


そのまま、持ち上げた。


三メートルの岩の体が、

宙に浮いた。


観客席が完全に静まり返った。


虎はそのまま、ゆっくりと地面に下ろした。


試験官「……やめておけ」


虎「ああ」


ゴーレムがゆっくりと後退した。

戦意喪失だ。


試験官「虎、合格」


しばらくして、

観客席から、

ぽつぽつと拍手が起き始めた。

それがやがて、大きくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試験が終わったのは、昼を過ぎたころだった。


街の大通りに出ると、屋台が並んでいた。

コウが立ち止まった。


コウ「腹減った。何か食いたい」

レン「試験の後だしな」

ミオ「……私も」


屋台の一つから、

いい匂いがしていた。


串に刺した肉が、

炭火で焼かれている。

鳥のようだが、羽の色が青い。


屋台の主「青鳥の塩串ですよ。今日仕入れたばかりで」


虎「一本もらう」


受け取って、一口食べた。


虎「……」


最初は塩の輪郭がくっきりと来て、

それから肉の旨みが続く。

鶏肉に近いが、それよりずっと繊細だ。

噛むと、汁が出る。

脂は少なく、あっさりしているのに、

旨みだけは濃い。

炭の香りが、後味にほんのり残って、

それが全体を引き締めている。


あっさりしているのに、物足りなくない。

そういう味だった。


虎「……うまい」

屋台の主「ありがとうございます! 口に合いましたか」

コウ「俺も! ください!」


しばらく、五人で屋台の前に並んで食べた。


レン「……なんで試験の後の飯ってこんなうまいんだ」

コウ「疲れてるからじゃないか」

ミオ「……理由はどうでもいい」


ステラだけは食べないが、

皆の様子を静かに見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕方、ギルドの建物に戻ると、

受付で登録証が渡された。


受付「おめでとうございます。これよりギルド正式登録員です。ランクはEからのスタートになります」


コウ「Eか……長い道のりだな」

レン「始まりはみんなそうだろ」

ミオ「……早く上がる」


虎は登録証を一枚受け取った。

紙に、虎、とだけ書いてある。


虎(これで、会える範囲が広がる)


ステラがそっと虎の隣に来た。


ステラ「虎様。ギルド正式登録、おめでとうございます」

虎「ああ」

ステラ「これで、より強い依頼に近づけます」

虎「そうだな」


虎は登録証を眺めた。


虎「……ギン、か」


レンが、少し離れたところで、

自分の登録証を見ている。

その横顔は、試験のときより、

少し柔らかかった。


虎はそれ以上何も言わなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、宿への帰り道。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「本日のゴーレム戦ですが」

虎「うん」

ステラ「ゴーレムを地面に下ろしたのは、なぜですか。倒すことも容易だったはずです」

虎「壊すほどのものでもなかった」

ステラ「……」

ステラ「試験官が止めなくても、倒しませんでしたか」

虎「倒すなと言われる前から、そのつもりだった」

ステラ「なぜですか」

虎「怯えた相手を倒しても、面白くない」


ステラはしばらく黙った。


ステラ「……そうですか」

虎「何だ」

ステラ「虎様は、強さより面白さを優先するのですね」

虎「そうじゃない」

虎「面白くない戦いは、強さを使う理由がない。それだけだ」


星の出た夜空に、風が吹いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です、虎様」

虎「ああ」

ステラ「今回はおおむね穏やかな試験でしたが、」

虎「ゴーレムをぶつけられて穏やかか」

ステラ「虎様基準では穏やかかと」

虎「……まあ、そうかもな」

ステラ「次回、『虎が、初依頼を受ける』」

虎「ようやく動けるな」

ステラ「はい。ご期待ください」

虎「お前に言われると、ちょっと信用できる気がする」

ステラ「……おおむね、正確です」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」


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