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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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3/10

第3話「虎が、試される」

第二試験の会場は、

港町の外れにある古い建物だった。


石造りの壁に、

蔦が絡まっている。

入り口に、

試験官が一人立っていた。

白髪で、背が低く、見た目は老人だが、

目だけが妙に鋭い。


試験官「第二試験へようこそ。今回の試験は戦闘ではない」


レン「戦闘じゃない?」

コウ「じゃあ何するんですか」

試験官「判断だ」


老人は一枚の紙を取り出した。


試験官「今から、いくつかの状況を提示する。どう動くか、理由も含めて答えてもらう。正解はない。我々が見るのは、お前たちの判断の中身だ」


ミオ「……中身」

試験官「冒険者は力だけでは務まらん。いざというとき、何を優先するか。その人間の格が、仕事の質を決める」


虎は黙って建物の中に入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


広い部屋に、長机が並んでいた。

受験者はざっと三十人ほど。

前試験から残ったメンバーのようだ。

各自に紙が配られた。


試験官「第一問。お前たちは依頼を受け、山中の村へ向かっている。道中、別の村が魔物に襲われているのを発見した。依頼の村まではあと半日。今夜中に着かなければ依頼は失敗する。どうするか」


室内がざわめいた。


コウ「え、どっちかしか選べないのか……」

レン「依頼を優先するのが筋だろ。でも目の前で人が……」


虎は紙に書いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらくして回答が集められた。

試験官が何枚かを読み上げる。


試験官「『依頼を優先する。契約を守ることが信頼の基本だから』。試験官「『目の前の村を助ける。依頼人には後で説明する』。……これが大半だ」


試験官「では、こう答えた者がいる。読む」


試験官「『魔物の規模を見る。一人で片づけられる程度なら片づけてから走る。無理なら村人に魔物の弱点だけ教えて先を急ぐ。どちらも守ろうとして両方失うのが最悪だ』」


室内が静かになった。


試験官「誰だ」


虎が手を上げた。

特に表情はない。


試験官「……理由を聞かせろ」

虎「二択に見えるが、二択じゃない場合がほとんどだ。まず状況を見る。その上で動く。それだけだ」

試験官「目の前の人間が死んでも構わないと?」

虎「構わないとは言っていない。死なせないために、何ができるかを考える。できることをやる。できないことは諦める」


試験官はしばらく虎を見た。


試験官「……続けろ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


第二問は、こうだった。


試験官「お前は単独で、Aランクの指名手配犯を追っている。ついに追い詰めた。だが相手は幼い子供を盾にとった。どうするか」


コウ「うわ、えげつな……」

レン「……剣を下ろして交渉するしかないだろ」


虎は少し考えてから書いた。


回答が集められる。


試験官「ほぼ全員が『交渉する』か『機を待つ』と答えた。……一人だけ違う」


試験官「『子供に話しかける』」


また虎だった。


試験官「説明しろ」

虎「犯人と交渉しても、犯人は嘘をつく。機を待っても、疲れるのはこちらだ。だが子供は別だ。子供に話しかければ、犯人の注意が一瞬そっちに向く。それで十分だ」

試験官「子供が巻き込まれるリスクは」

虎「話しかけるだけなら低い。走ったり、剣を抜いたりするより、ずっと低い」

試験官「……冷静だな」

虎「怒る必要がない場面で怒っても意味がない」


隣でレンが小声で言った。


レン「……お前、本当に何者だ」

虎「だから虎だと言っている」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試験はまだ続いた。


第三問。


試験官「お前のパーティが、依頼達成まであと一歩というところで、メンバーの一人が重傷を負った。引き返せば依頼は失敗。続ければ、そのメンバーは死ぬかもしれない。リーダーのお前はどうする」


コウがうめいた。


コウ「これ正解ないやつじゃないですか……」

ミオ「……引き返す」

レン「依頼を……いや、でも」


虎は迷わず書いた。


試験官「……また一人、全員と違う回答がある」


試験官「『仲間に判断させる』」


虎「自分の命の使い方は、自分が決める。俺が勝手に決めることじゃない。続けたいなら続ける手助けをする。帰りたいなら帰れるようにする。それだけだ」


試験官「リーダーが判断を放棄していると思わないか」

虎「思わない。リーダーの仕事は、仲間が自分で決められる状況を作ることだ。その人間の人生を俺が決めるのは、おかしい」


しんと静まり返った。


ミオがほんの少し、視線を落とした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試験が終わったのは昼過ぎだった。


港町の食堂に、五人で入った。


コウ「疲れた……頭使うのって体動かすより消耗するな」

レン「……お前が普段頭使ってないだけだろ」

コウ「ひどい」


ステラ「本日のおすすめは海老の香草焼きだそうです」

虎「それにする」


しばらくして、皿が来た。


大ぶりの海老が、香草とバターで焼かれている。

殻ごと焼かれていて、表面が少し焦げている。


虎は一口食べた。


虎「……」


香草の青い香りが最初に来て、

次にバターの丸い旨みが広がる。

海老の甘みはしっかりしていて、

身はぷりっと弾けるような食感だ。

焦げた殻の香ばしさが、後味にかすかに残る。

海の幸なのに、重くない。

食べ終わったあとも、口の中に爽やかさが残った。


虎「……悪くない」


コウ「それ、めちゃくちゃうまいやつですよね? 悪くないって顔じゃないですよ今」

虎「うまい」

コウ「素直!!」


レンが静かに箸を置いた。


レン「……さっきの試験、お前の答え、全部違ったな」

虎「そうか」

レン「どうやったらそう考えられる」

虎「長く生きると、見えてくるものがある」


レン「……いくつだ」

虎「覚えていない」


レンはしばらく虎を見て、

それ以上聞くのをやめた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕方、結果が出た。


試験官「第二試験合格者を発表する」


名前が読み上げられる。

レン、コウ、ミオ。

ステラ。

そして——


試験官「……虎」


試験官は名前を呼んだあと、

少し間を置いて言った。


試験官「一つ聞いていいか」

虎「何だ」

試験官「お前は、なぜギルドに入ろうとしている」


虎は少し考えた。


虎「面白いものを探している」

試験官「面白いもの?」

虎「強い奴。変わった奴。まだ見たことのないもの。ギルドにいけば、そういうものに会えると聞いた」


試験官はしばらく黙った。

それから、静かに言った。


試験官「……久々に、変な奴が来たな」


虎「よく言われる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、宿に戻る道を、五人で歩いた。


コウ「次の試験、何があるんだろうな」

ミオ「……どうせまた面倒なことだろ」

レン「それでも行くだろ、お前」

ミオ「……うるさい」


ステラが虎の隣に並んだ。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「本日の試験、よくお答えでした」

虎「そうか」

ステラ「一点だけ確認してもよいですか」

虎「何だ」

ステラ「第三問、仲間の判断を尊重する、とお答えでしたが」

虎「ああ」

ステラ「私が危険な状況になった場合も、私の判断に委ねますか」

虎「……」


虎は少し考えた。


虎「それは別だ」

ステラ「なぜですか」

虎「お前は俺のだから」


ステラはしばらく無言だった。


ステラ「……承知しました」


星の出た夜道を、

二人は並んで歩いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「虎様、今回は紙に回答を書く試験でしたが、」

虎「魔法だ、細かな人間用の道具を使うときは頼るようにしている」

ステラ「普段の戦闘では使用しないのですか」

虎「魔法まで使うとあまりに手ごたえが無くなるからな、基本的には使わないようにしている」

ステラ「左様でございましたか」

虎「うむ」

ステラ「次回、『虎が、本試験を受ける』」

虎「それだけか」

ステラ「それだけです。おおむねご覧いただけますと幸いです」

虎「……よろしく頼む」


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