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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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2/9

第2話「虎が、ギルド試験を受ける」

港の朝は、潮の匂いがする。


虎は桟橋に立って、沖に浮かぶ大きな船を眺めた。

白い帆に、ギルドの紋章が描いてある。

その横に、小柄な影がすっと並んだ。


ステラ「虎様。乗船開始はおおむね五分後です」


紫の髪をきっちりと結い上げた、

白いエプロンドレスの少女、、、

正確には少女型の人形だ。

表情はおだやかで、

目には紫がかった光がある。


名前はステラ。


虎がどういう経緯で

これを連れているかというと、

少し話が長くなる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


遡ること、数日前。


街の入り口の掲示板を見て、

虎はさっそく困っていた。


虎「……登録証?」


掲示板に貼られた案内には、

ギルド試験を受けるには

事前に試験登録証が必要と書いてあった。


登録証の発行には身元保証人か、

正規ギルド員の署名が必要。

どちらも持っていない。


虎(面倒だな)


そこへ声がかかった。


謎の男「お困りですか? 虎様」


振り返ると、

目深に帽子をかぶった細身の男。

ニコニコと笑っているが、

目が笑っていない。


謎の男「私、ちょっとした商会をやっているものでして。ご縁があれば、お力になれますよ」

虎「……何が目的だ」

謎の男「いえいえ。ただ、こちらのステラを引き取っていただければ、それで十分です」


男は後ろに目配せした。

そこに、

ぼんやりと立っていたのがステラだった。


謎の男「最新型の自律人形でしてね。維持費が少々かさんで……。腕の立ちそうな方に預けたかったのです」

虎「無料か」

謎の男「ええ、タダです」

虎「……怪しいな」

謎の男「否定はしません」


虎はしばらく男を見て、

それからステラを見た。


虎「ステラ。ギルドの試験登録証、取れるか?」

ステラ「確認します」


ステラは三分後に戻ってきた。


ステラ「登録してきました」

虎「はやいな……。クラスは?」

ステラ「モンスターテイマー、です。虎様はテイムしたモンスターとして登録しました」

虎「……俺がモンスター扱いか」

ステラ「何か問題がありましたか?」

虎「……まあ、いい」


謎の男はその一部始終を見て、

ニコニコしたまま

帽子を深く被り直した。


謎の男「ご縁があって何よりです」


そのまま人混みに消えた。

今でも何者かはわからない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーー回想終わり。


ステラ「虎様、乗船します」

虎「ああ」


二人は船に乗った。


、、、


船の甲板は、

すでに人でごった返していた。

ざっと数えて

百人以上はいるだろうか。

みな若く、

武器を持ち、

目に力がある。


虎(なるほど。これが、今の人間か)


一万年前より気配が濃い。

まだ荒削りだが、

素材は悪くない。


そのとき、後ろから声がかかった。


少年「おい、そこのでかいの。お前もギルド試験か?」


振り返ると、三人組がいた。


先頭に立っているのは、

銀髪の少年。

年は十七、八か。

目が鋭く、

どこか頑固そうな顔をしている。


銀髪の少年「俺はレン。こっちはコウとミオ」


ひょろっとした茶髪の青年、コウが軽く手を上げた。

コウ「よろしくー。ギルド試験、初めて?」


ミオ「………」

最後の一人、

ミオは短く黒髪を切った少女で、

腕を組んだまま無言でこちらを見ている。


虎「虎だ。こっちはステラ」

ステラ「よろしくお願いします」

レン「……人形か。珍しい組み合わせだな」

虎「そっちこそ、なぜギルドを?」


レンは少しだけ表情を固くした。


レン「……親父に会いに行くためだ。俺の父親は冒険者で、Sランクまで上がった。ギンって男だ」


虎「ギン」


レン「知ってるか?」

虎「噂だけな」


コウがへらっと笑った。


コウ「俺はまあ、ぶっちゃけ女にもてたくて。Aランク冒険者ってだけで街でひっぱりだこらしいし、ハーレムの一つや二つ夢じゃないかなって」

レン「……お前、それ毎回恥ずかしくないのか」

コウ「夢に恥も何もないだろ」


虎はミオを見た。

ミオはしばらく黙っていた。


ミオ「……別に、たいした理由じゃない」


その目が、わずかに細くなる。

虎は何も言わなかった。


虎(復讐、か。顔に書いてある)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


試験が始まったのは、

船が沖に出てからしばらく後のことだった。


船員「試験開始——各自、甲板へ!」


志望者たちが一斉に動く中、

船が大きく揺れた。

いや、

揺れたのではない。


ーーー引っ張られていた。


海面が盛り上がり、

巨大な影が船底を掴んだ。

触手が次々と甲板に伸びてくる。

太さは丸太ほど。

長さは、船と同じくらいある。


志望者たち「クラーケンだ!!」

船員「総員、戦闘態勢!」


触手が船縁を叩く。

志望者たちが剣や魔法で応戦するが、

一本切っても二本伸びてくる。


レンが走った。

剣を抜いて、触手の一本に斬りかかる。


レン「こいつ、硬い……!!」

コウ「魔法、効いてるか……? 手応えがない!」


ステラが静かに虎の隣に立った。


ステラ「虎様。本体は船底、おおむね水深十二メートルです」

虎「わかった」


ミオが氷の魔法を海面に叩き込んだ。

触手の動きが一瞬鈍る。

レンがその隙に深く斬り込む。

コウが上から炎を重ねた。


触手が一本、落ちた。


レン「いけるか……?!」

コウ「あと何本ある!」

ステラ「残り十七本です」


コウ「多すぎる……!」


船が大きく傾いた。

甲板に積まれた荷物が海に落ちる。

志望者の一人が叫びながら

手すりにしがみついた。


レン「くそ、届かない……!!」


虎はその様子を、少しの間、眺めていた。


なかなかやる


三人とも、限界まで動いている。

他の志望者も、

逃げずに戦っている。

一万年前だったら、

全員とっくに

船から飛び降りていたはずだ。


虎「……まあ、これだけ頑張ったなら、助けてやるか」


虎は甲板の端まで歩いて、

海を見下ろした。


レン「お前、何やって——」


虎は海に飛び込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


海の中は静かだった。


十数メートル下、

岩のように巨大なクラーケンが船底を掴んでいる。

目玉が虎を捉えた。


虎「……ほう」


でかい。

触手の数も多い。

一万年前にはいなかった種だろう。


目玉が、

虎を見た瞬間に何かを悟ったように、

触手が一斉に向かってきた。


虎は一本、掴んだ。

そのまま、引っ張った。


どごん。


海底まで叩きつける。

岩盤が割れた。


虎「次」


もう一本、掴んで引き千切った。

クラーケンが全力で逃げようとする。

逃がさなかった。


海面が一瞬、赤くなった。


、、、


虎が甲板に戻ると、あたりがしんと静まり返っていた。


レン「……終わったのか」

虎「ああ」

コウ「何したんだよ……」

虎「倒した」


ステラがタオルを差し出した。


ステラ「お疲れ様です、虎様」

虎「ありがとう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その夜 船の厨房で、

クラーケンが料理された。


刺身で一切れ、口に入れた瞬間、虎は少し目を細めた。


虎「……これも、うまいな」


生臭さがない。

全くない。

ほのかな甘みと、

海の旨みが広がって、

噛むほどに味が出てくる。


身に弾力はあるが、

硬すぎない。


加熱した切り身は、

旨みがさらに濃くなって、

甘みが増した。

大イノシシとはまた違う、

深くて静かな味だ。


コウ「うまい!! なんだこれ!!」

レン「……確かに」

ミオ「……悪くない」


料理人「クラーケンはこんなに新鮮なものは滅多に食べられませんよ。普通は漁師も近づかないから」

コウ「レアすぎる……!」


虎は黙って二切れ目を食べた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、

船が港に戻ったとき、

試験官が甲板に立った。


試験官「今回の一次試験合格者はステラ、レン、コウ、ミオの4名とする」

試験官「なお、クラーケンへの対応において、特に顕著な働きをした者については、別途評価する」


レンが虎を見た。


レン「……お前、何者だ」

虎「虎だ」

レン「それは聞いた」


虎は特に答えなかった。

ステラが静かに並んだ。


ステラ「虎様。次の試験の案内が来ています」

虎「そうか」


コウが にやっと笑った。


コウ「なあ、次の試験も一緒に受けるか? 強い奴がいると心強いし」

ミオ「……私は別に」

レン「俺も、まあ……悪くはない」


虎は少し考えた。


虎「面白そうなら、な」


海風が甲板を吹き抜けた。

ステラの紫の髪がふわりと揺れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラです。

虎様は本日も問題なく行動されました。

おおむね良好、です。

次回「虎が、試される」

よろしければ、ご覧ください。


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