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虎無双、虎無双。  作者: BB
1章

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第1話「虎が、目覚めた」

一万年ぶりの朝だった。

岩山の奥深く、

分厚い岩盤を突き破って、

虎はのっそりと這い出した。


虎「……ふむ」


あたりを見回す。

空の青さは変わらない。

風の匂いも、大地の感触も、昔と大差ない。

ーーーだが。


虎「……おかしいな」


眠りにつく前、

虎はこの世界の何もかもに飽き飽きしていた。

人間は弱く、

モンスターは単調で、

神だの竜だのと呼ばれる上位存在でさえ、

戦ってみればたいしたことはなかった。


強いものを求めて世界を渡り歩いたが、

結局どこにも「面白いもの」はなかった。

だから眠ることにした。

一万年もすれば、

何か変わっているかもしれないと、

そう思って。


ーーー変わっていた。


虎の鼻腔に、

濃密な「気配」が流れ込んでくる。


遠く、山の向こう。

街のようなものがあるらしい。

そこから漂ってくる人間たちの気配が、

一万年前とは段違いに練れている。


さらに遠く、

深い森の奥。

うごめくモンスターたちの気配も、

あの頃の比ではない。


そして、天の高みから感じる、

何か巨大なものの視線。

上位存在か。

あれも、昔のそれより遥かに重い。


虎「……ほう」


口の端が持ち上がった。

尻尾がゆっくりと揺れる。



虎「ーーー面白いことになっているじゃないか」



胸の奥で何かが燃えるような感覚がある。

久しく忘れていたものだ。

高揚、

というやつだろうか。


虎は大きく伸びをして、

筋肉の隅々まで力を行き渡らせた。

さて。

まず腹ごしらえでもするか、、、と思ったとき、風に乗って悲鳴が届いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


村は騒然としていた。

畑が踏み荒らされ、

柵が半壊し、

村人たちが家の陰に身を潜めている。


その中心で、

巨大なイノシシが地面を蹄で掘り返していた。

体高は馬二頭分ほどもあろうか。

牙は大木を薙ぎ倒せそうなほど太く、

目は血走っている。


村人A「お、大イノシシだ……冒険者を呼ぶ時間もないぞ!」

村人B「みんな逃げろ、早く!」



ーーーそこへ、虎が歩いてきた。のんびりとした足取りで、畑のあぜ道を。



村人A「な、なんだあいつ……! 逃げろ! 大イノシシに近づくな!」


虎は大イノシシを見上げた。

大イノシシも虎を見た。

どちらが大きいかといえば明らかにイノシシだったが、

虎は特に気にした様子もなく、

首を少し傾けた。


虎「ふむ。デカいな」


大イノシシが突進した。

地面が揺れた。

村人たちが悲鳴を上げる。


虎はただ一歩、横に動いた。

そして通り過ぎる牙に片手を添え、

軽く、本当に軽く、押した。


どごん、という鈍い音とともに、

体重数トンの大イノシシが横向きに吹き飛んだ。

岩壁に叩きつけられ、

大きくバウンドして、倒れる。


虎「……少し物足りないが、まあいい」


虎は手の汚れを払った。村人たちが、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから不思議なことに、村人たちは虎を大いに歓迎した。


村長「あなたが助けてくれたのか! ぜひ、お礼をさせてくれ! そのイノシシ、今夜みんなで食べましょう!」

虎「……イノシシを食べるのか?」

村長「大イノシシは滅多に食べられない上等な食材なんですよ!」


その夜、村の広場で火が焚かれた。

大イノシシは村中の料理人総出で解体され、

鍋に、串に、鉄板の上に姿を変えていった。

目の前に皿が置かれた。分厚く切られた肉が、じゅうじゅうと音を立てている。


虎は一口、食べた。

虎「……」

もう一口。

虎「……うまい」


豚肉に近い、

がそれだけではない。

豚の脂の甘みはある。

だがそこに、牛肉の赤身のような力強い旨みが乗ってくる。

嚙むほどに肉の密度が伝わってきて、

食感は豚よりずっとしっかりしている。

臭みはほとんどない。

脂は甘く、赤身は濃い。

「豚肉の甘い脂」と「牛肉の濃い旨み」を一度に味わっているような、そういう肉だった。


料理人「お口に合いましたか?」

虎「ああ。こんなものがあったのか」

料理人「大イノシシは十年に一度出るかどうかですから。これも縁ですよ」


虎はもう一切れ、口に放り込んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


宴もたけなわになったころ、

虎は村の若者に声をかけた。


虎「この世界、強い奴に会うにはどうすればいい?」

若者「強い奴、ですか? そりゃあ……冒険者ギルドに登録するのが一番の近道じゃないですかね」

虎「ギルド?」

若者「ランクが上がれば上がるほど、強い奴らと仕事するようになりますよ。高ランクの冒険者ともなれば、人間離れした強さの奴らがいますし」

虎「ほう」

若者「あ、でも入るには試験があるみたいで……」

虎「試験か」


若者は少し声を落とし、ひそひそと話すように続けた。


若者「そういえば最近、すごい噂を聞きませんでしたか? 伝説の冒険者、、、ギンって人のこと」

虎「ギン?」

若者「Sランク最上位、ほとんど人間じゃないって言われてる人ですよ。何年か前に突然現れて、誰も倒せなかった魔王級のモンスターを一人で……」


虎は黙って肉を噛んだ。


虎「……面白い」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝、虎は村を出た。

村人たちが手を振っている。

虎は振り返らず、

山道を歩いた。


しばらくして、昨夜の若者の話を思い出した。


ーーー伝説の冒険者、、、ギン。


虎(ギルド試験、か)


強い奴がいる。

昨日感じた、あの天からの視線。

世界中に満ちた、鍛えられた気配たち。

一万年前には存在しなかった何かが、この世界にはある。


虎(まずは……その試験とやらを受けてみるか)


尻尾がゆっくり揺れた。

口の端が上がった。


虎「悪くない目覚めだ」


海の見える丘に、風が吹いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



虎だ。

一万年の眠りから覚めて、どうやら世界は変わっているようだ。

面白いものを期待する。

次回、「虎が、ギルド試験を受ける」

機会があれば、見に来てくれ。


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