第37話「虎が、サンドポートの海に出る」
翌朝、
港に行くと、
昨日の漁師が船の手入れをしていた。
漁師「……おう、虎か。廃墟の調査はどうだった」
虎「終わった」
漁師「グリンドは」
虎「退いた」
漁師「そうか。ありがとうな、あいつら最近うろついてて、漁師仲間も怖がってたんだ」
漁師は船を叩いた。
漁師「お礼といっちゃなんだが、今日の漁に出るか。サンドポートの海を見るなら、船で出るのが一番だ」
虎「いいのか」
漁師「構わん。人手があった方が助かるしな」
ステラが虎を見た。
ステラ「行きますか」
虎「ああ」
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船が港を出た。
砂漠側を振り返ると、
白い街が砂の上に浮かんでいるように見えた。
その奥に、
砂漠が広がっていた。
虎「……陸から見るより、よくわかるな」
漁師「何がだ」
虎「砂漠と海の境目。街がちょうど真ん中にある」
漁師「そうなんだよ。だからこの街は昔から、どちらの民も来た。砂漠の民は海を知りたくて、海の民は砂漠を知りたくて」
ステラが海面を見た。
ステラ「……透き通っていますね」
漁師「砂漠から流れ込む鉱物のせいで、底まで見えるんだ。よその海とは違う色をしてる」
確かに、
水の色が独特だった。
青というより、
緑がかった青だった。
虎「エンド島の泉に似た色だな」
ステラ「……言われてみれば」
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沖に出ると、
漁師が網を投げ始めた。
虎も手伝った。
漁師「力があるな。助かる」
虎「慣れていないが」
漁師「十分だ。そっちの人形さんも手伝えるか」
ステラ「はい」
三人で網を引いた。
しばらくして、
網を引き上げると、
銀色の魚がたくさん入っていた。
漁師「今日はいい漁だ。虎がいると運がいいな」
虎「関係ない」
漁師「まあ、そう言うな」
漁師が笑った。
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昼前に、
港に戻った。
漁師が魚を分けてくれた。
漁師「これ、持っていけ。今日の礼だ」
それから漁師は、
港の脇の小さな屋台に声をかけた。
漁師「おい、トウモロコシ焼いてくれ。白いやつで」
屋台の主「白か。いいのが入ってるよ」
屋台に、
二種類のトウモロコシが並んでいた。
黄色いものと、
白いものだ。
漁師「サンドポートには、黄色と白の両方がある。白の方が甘みが強い。食べてみろ」
屋台の主が、
白いトウモロコシを炭火で焼き始めた。
そこに、
小さなスプレーのような道具で、
液体を吹きかけた。
虎「それは何だ」
屋台の主「醤油だよ。スプレーで薄く吹き付けると、まんべんなく絡むんだ。焦げた部分に醤油が当たると、いい香りがする」
醤油の香りが立ち上がった。
香ばしい、
いい匂いだった。
しばらくして、
白いトウモロコシが渡された。
虎は一口かじった。
虎「……」
まず、
甘みが来た。
昨日の黄色いトウモロコシより、
確かに甘みが強かった。
粒がふっくらして、
嚙むとじゅわっと甘い汁が出る。
そこに、
醤油の香ばしさと塩気が乗ってくる。
甘みと塩気が、
絶妙に合っていた。
焦げた部分に醤油が染みていて、
そこを嚙むと特に香ばしかった。
虎「……これは、うまい」
漁師「だろ。白に醤油が一番うまい食い方だ。この街のほとんどの人間がそう言う」
ステラも食べた。
ステラ「……甘みが、先に来て、香ばしさが後から来ます」
屋台の主「そうそう。その順番がいいんだよ」
虎「醤油はどこから来た」
屋台の主「海の民が昔、交易で持ち込んだらしい。砂漠の民は最初、こんな黒い液体を料理に使うのかって驚いたって話だよ」
漁師「今じゃ、砂漠の民も醤油を使う。この街で混ざったんだ」
虎「文化が混ざった味、か」
漁師「……うまいこと言うな」
虎は二本目に手を伸ばした。
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港で食べながら、
漁師が話してくれた。
漁師「グリンドの件だが、廃墟から引いたって話が広まってる。街の連中も安心してるよ」
虎「そうか」
漁師「お前さん、どこへ行くんだ。次は」
虎「決めていない」
漁師「砂漠の奥はもう行ったか」
虎「廃墟まではな」
漁師「もっと奥に、砂漠の民の集落がある。あいつら、旅人には冷たいことが多いんだが、最近少し事情が変わって、来てほしいって言ってるやつもいるらしい」
虎「何かあったのか」
漁師「……よくわからん。砂漠の奥で、変なことが起きてるとだけ聞いた」
虎はトウモロコシを食べながら、
砂漠の方角を見た。
虎(変なこと、か)
虎(面白そうだな)
ステラが虎を見た。
ステラ(……虎様の耳が動いた)
ステラ(砂漠の奥に、何かある気がしている)
漁師「興味があるなら、街の砂漠案内人を紹介するよ。砂漠の民と繋がりがある人間が、街に数人いる」
虎「頼む」
漁師「わかった。明日の朝、ここに来てくれ。連れてくる」
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夕方、
港の端で海を見た。
砂漠の砂が、
風に乗って海面に落ちていた。
ステラ「……砂が海に入っていきますね」
虎「ああ。だからこの海は、あの色をしているんだろう」
ステラ「砂漠が、海に混ざっている」
虎「この街のものは全部、混ざっている」
ステラは海を見た。
ステラ「虎様、砂漠の奥に行くのですか」
虎「ああ」
ステラ「……漁師さんの話、気になりましたね」
虎「そうだ」
ステラ「変なことが起きている、というのが」
虎「ああ」
ステラ「危ないかもしれませんが」
虎「そうかもしれない」
ステラ「……それでも行きますか」
虎「面白そうだからな」
ステラは少し黙った。
それから、
口の端を上げた。
ステラ「……そうですね。行きましょう」
虎「お前もそう思ったか」
ステラ「……おおむね、虎様の影響です」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
海風が吹いた。
砂漠の熱と、
海の涼しさが混ざった風だった。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「砂漠の奥に行くことになりました」
虎「面白くなってきた」
ステラ「砂漠案内人と合流します」
虎「どんな奴だ」
ステラ「……まだわかりません」
虎「そうか」
ステラ「砂漠の奥で変なことが起きているとのことでしたが」
虎「ああ」
ステラ「……グリンドが関係していますか」
虎「わからない。見てみなければ」
ステラ「次回、『虎が、砂漠の奥へ向かう』」
虎「案内人次第だな、速度が」
ステラ「虎様のペースについてこられる案内人かどうか、心配です」
虎「俺は合わせる」
ステラ「……それが一番意外でした、今」
虎「そうか」
ステラ「虎様が、合わせると言うのが」
虎「旅は一人じゃない」
ステラ「……そうですね」




