第34話「虎が、次の町を探す」
ナイトポップシティーから離れて、
二日が経った。
道は、
また緑に戻っていた。
ステラ「……静かになりましたね」
虎「ああ」
ステラ「ナイトポップシティーは、ずっと光っていましたから」
虎「そうだな」
虎(あの街の光は、独特だった)
虎(人間とヒューマノイドが、同じ場所で光っていた)
ステラ「虎様、次はどこへ向かいますか」
虎「決めていない」
ステラ「では、私が候補を出しましょうか」
虎「頼む」
ステラが端末を取り出した。
ナイトポップシティーでレモンからもらったものだ。
ステラ「現在地から行ける街が、三つあります。西のリバーサイド、北東のクレスト、南のサンドポート」
虎「どんな街だ」
ステラ「リバーサイドは川沿いの商業都市。クレストは山岳地帯にある研究都市。サンドポートは砂漠と海が隣接する港町です」
虎「サンドポートにする」
ステラ「理由は」
虎「砂漠と海が隣接している、というのが面白そうだ」
ステラ「……そういう理由ですか」
虎「それ以外の理由が必要か」
ステラ「いいえ。サンドポートに向かいます」
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道を歩きながら、
ステラが端末を操作した。
ステラ「サンドポートについて調べています」
虎「何かわかったか」
ステラ「古い港町で、砂漠の民と海の民が混在しているようです。文化が独特で、料理も珍しいものが多いと」
虎「うまそうか」
ステラ「……記録を見る限り、おおむねそうだと思います」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」
虎(砂漠と海か)
虎(一万年前にも、そういう場所はあった。だが、あの頃は通り過ぎただけだった)
ステラ「虎様、もう一つ気になることがあります」
虎「何だ」
ステラ「ドラゴンさんから聞いた黒牙の話です。サンドポート周辺でも、黒牙の活動痕跡が記録されています」
虎「そうか」
ステラ「追いますか」
虎「情報を集める。まずはそれだけだ」
ステラは端末を閉じた。
ステラ「……わかりました」
ステラ(黒牙を追うこと、キールのこと)
ステラ(虎様は、あの件を引きずっているのだろうか)
ステラ(引きずっているとは違う。ただ、気にしている)
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昼過ぎに、
小さな村に差し掛かった。
道の脇に、
屋台が一つ出ていた。
老人が一人で、
何かを焼いていた。
いい匂いがしていた。
虎「寄るか」
ステラ「はい」
屋台に近づくと、
老人が顔を上げた。
老人「……珍しい旅人だな。虎か」
虎「そうだ」
老人「この辺じゃ見ない顔だ。どこへ行く」
虎「サンドポートだ」
老人「……そうか。まだ半日はかかるな。腹が減っただろ、食っていけ」
老人が焼いていたのは、
平たいパンの上に、
野菜と肉を乗せて焼いたものだった。
虎は一口食べた。
虎「……」
パンが薄くて、
もちっとしている。
上の肉は、
香辛料で味付けされていて、
噛むほどに香りが出てきた。
野菜の甘みと、
肉の旨みが混ざって、
シンプルだが奥行きがある。
後味に、
香辛料のほのかな辛みが残った。
虎「……うまい」
老人「そうだろ。うちの畑の野菜と、村の肉だ。シンプルなもんだよ」
ステラも食べた。
ステラ「……香辛料が、効いていますね」
老人「サンドポートの近くはこういう料理が多い。砂漠の民の影響だな」
虎「サンドポートに近いのか、ここは」
老人「もう少し行けば、砂漠に入る。そこを抜ければサンドポートだ」
ステラ「……砂漠を抜けるのですか」
老人「夜に歩く方がいい。昼は暑すぎる」
虎は二つ目を食べながら、
老人を見た。
虎「この辺りで、最近変わったことはあったか」
老人「変わったこと?」
老人が少し、
考えた。
老人「……そういえば、先月あたりから、砂漠の方から見慣れない人間が通るようになった。商人でも旅人でもない、変な動きをするやつらが」
虎「黒い外套を着ていたか」
老人「……知ってるのか?」
虎「少し追っている」
老人は虎を見た。
老人「……気をつけな。あいつらは、砂漠の奥の廃墟に出入りしているらしい。村の若いもんが近づいたら、追い払われたって言ってた」
ステラ「廃墟、ですか」
老人「古い遺跡みたいなもんだ。誰も入らない場所だったんだが、最近あそこに人が集まっているようで」
虎(黒牙が、砂漠の廃墟に)
虎(サンドポートを拠点に動いているのか、それとも廃墟自体が目的か)
虎「わかった。ありがとう」
老人「まあ、無理するなよ。強そうだけどな」
虎「強い」
老人「……自分で言うか」
老人が笑った。
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村を出て、
道が砂に変わり始めた。
ステラ「……砂漠に入ります」
虎「ああ」
空気が、
乾いてきた。
遠くに、
砂丘が見え始めた。
ステラ「虎様」
虎「何だ」
ステラ「廃墟の件、どうしますか」
虎「サンドポートで情報を集めてから決める」
ステラ「急ぎませんか」
虎「急いで動くより、知ってから動く方がいい」
ステラは少し黙った。
ステラ「……それは、昔の虎様とは違いますね」
虎「そうか」
ステラ「以前の話を聞く限り、一万年前の虎様は、とにかく突進していたようですから」
虎「そうだったな」
ステラ「……変わりましたね」
虎「長く生きると、変わる」
ステラ「何が変えたのですか」
虎「色々だ」
虎は前を向いたまま、
続けた。
虎「うまいものを食べた。面白い奴に会った。一緒に旅をする奴ができた」
ステラは黙っていた。
しばらくして、
静かに言った。
ステラ「……そうですか」
虎「何だ」
ステラ「いいえ。……よかったです」
砂丘が、
夕日に赤く染まっていた。
遠くに、
海の光が見えた。
ステラ「……砂漠と海、本当に隣にあるんですね」
虎「ああ」
ステラ「面白い場所ですね」
虎「そうだろ」
二人は砂の道を、
歩き続けた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「サンドポートへ向かっています」
虎「砂漠を抜ければ着く」
ステラ「砂漠と海が隣にある街、楽しみですね」
虎「ああ」
ステラ「黒牙の廃墟の件も、気になります」
虎「そうだな」
ステラ「どちらを先にしますか」
虎「飯だ」
ステラ「……やはりそうですか」
虎「腹が減ってから動いても、力が出ない」
ステラ「……理にかなっています」
虎「そうだろ」
ステラ「次回、『虎が、サンドポートに着く』」
虎「どんな飯があるか」
ステラ「砂漠の民と海の民、両方の料理があるようです」
虎「面白そうだ」
ステラ「おおむね、うまそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。確実にうまいかは、食べてみないとわかりません」
虎「それでいい」
ステラ「……虎様らしい答えですね」
虎「そうか」




