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虎無双、虎無双。  作者: BB
3章

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33/109

第33話「虎が、ナイトポップシティーを去る」

翌日の夕方、

事務所に全員が集まった。


虎「そろそろ、行く」


アップルが少し、

黙った。


アップル「……やっぱり、今日?」

虎「ああ」

ミカン「もう少しいてよ!! 観光とかしてないじゃん!!」

虎「また来る機会があれば」

ミカン「機会って言って来ない人いっぱいいるんだけど!!」


レモンが静かに言った。


レモン「……ミカン、引き止めても仕方ない」

ミカン「わかってるけど!! わかってるけどさ!!」


ドラゴンが虎を見た。


ドラゴン「……一つ、報告しておく」

虎「何だ」

ドラゴン「今回のウイルス騒動、調べていたら出てきた。感染ヒューマノイドが最初に確認された場所の近くに、黒牙の痕跡があった」

虎「黒牙か」

ステラ「……また、ですか」

ドラゴン「直接的な証拠はない。だが、状況から見て隣国に雇われた黒牙が、何らかの形でウイルスの拡散に関与した可能性がある」


虎は少し黙った。


虎(キール、か)


虎(また、その名前が出てくる)


虎「わかった」

カシス「……追うのか」

虎「いずれな」


カシスが珍しく、

虎をまっすぐ見た。


カシス「……また会うとき、黒牙のことで何かわかったら話す」

虎「ありがとう」

カシス「……礼はいい」


ステラがカシスを見た。


ステラ(……カシスは、虎様に似ている気がする)


ステラ(口数が少なくて、でも大事なことだけ言う)


アップルが虎の前に立った。


アップル「虎、来てくれてありがとう。本当に助かった」

虎「面白かった」

アップル「……それが虎の最大の褒め言葉だよね、たぶん」

虎「そうだ」

アップル「……じゃあ、最大の褒め言葉、もらっちゃった」


アップルが笑った。


ミカンがステラに抱きついた。


ミカン「ステラちゃん、また一緒に歌おうね!!」

ステラ「……はい。また」

ミカン「ぜったいだよ!!」


レモンがステラに小さな端末を渡した。


レモン「連絡先です。この街に何かあったら、使ってください」

ステラ「ありがとうございます」


ドラゴンが、

何も言わずにステラの頭をぽんと叩いた。


ステラ「……ドラゴンさん?」

ドラゴン「……また来い」

ステラ「はい」


カシスが最後に、

ステラに近づいた。


カシス「……歌、悪くなかった」

ステラ「……ありがとうございます」

カシス「また歌え」

ステラ「……はい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、

二人でナイトポップシティーの外れに来た。


街を見下ろせる、

小高い丘だった。


夜の街が、

光に溢れていた。


ビルが光り、

看板が光り、

道が光っていた。


虎「……明るい街だ」

ステラ「ナイトポップシティー、という名前の通りですね」


ステラが荷物を開いた。


ステラ「最後の夜ですから、用意しました」


包みを開くと、

この街のグロウミートが串に刺してあった。

それと、

街で評判の果実酒が一本。


ステラ「屋台で買ってきました。最後に、この街の味を」

虎「用意がいいな」

ステラ「いつものことです」


虎はグロウミートを一口食べた。


虎「……」


魔力炭火の香ばしさが、

肉全体に染みている。

噛むほどに、

深い旨みが出てきた。

甘みが後から来て、

食べ終わっても口の中に余韻が残る。


二日前に食べたのと同じ味だったが、

今夜は少し違う感触があった。


虎「……うまい」

ステラ「はい」

ステラ「……同じものでも、最後に食べると少し違いますね」

虎「そうだな」


果実酒を一口飲んだ。


甘みの中に、

深い複雑さがある。

この街の夜に合う酒だった。


ステラも一口飲んだ。


ステラ「……甘いですね」

虎「ああ」


二人で、

しばらく街を眺めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「別れに、何かしますか」

虎「そうだな」


虎は空を見上げた。


それから、

右手に魔力を集めた。


ステラ「……花火ですか」

虎「ああ」


光が、

夜空に向かって飛んだ。


弾けた瞬間、

色とりどりの光が広がった。


街の明かりに負けないほどの、

大きな花火だった。


ステラ「……」


遠くから、

街の人たちの歓声が聞こえてきた。


もう一発、

放った。


また、

光が広がった。


虎「これで別れの代わりにする」

ステラ「……届くといいですね、アップルさんたちに」


虎は空を見た。


虎(あいつらなら、わかるだろう)


三発目を放った。


街の上空に、

光が広がった。


ステラがそれを見ながら、

静かに言った。


ステラ「……ノースピアの花火と、全然違いますね」

虎「あのときは修行の成果を試した」

ステラ「今回は」

虎「別れだ」

ステラ「……そうですね」


遠くで、

小さな光が三つ、

空に上がった。


アップルたちの返事だった。


ステラ「……届いたようです」

虎「そうだな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


花火が終わると、

静かになった。


街の光だけが、

続いていた。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「もう一度、歌いませんか」

虎「俺が、か」

ステラ「二人で」


虎はステラを見た。


ステラが、

また笑っていた。


昨日のライブのときより、

静かな笑顔だった。


虎「……また説得されるのか」

ステラ「説得ではありません。お願いです」


虎は少し黙った。


虎「……一回だけだ」

ステラ「一回で十分です」


ステラが音を出した。


静かな声だった。


虎も、

小さく声を出した。


二人の声が、

丘の上で混ざった。


街の光が、

下で揺れていた。


虎(昨日は七人だった)


虎(今は二人だ)


虎(どちらも、悪くない)


歌が終わった。


夜風が吹いた。


ステラ「……ありがとうございます、虎様」

虎「何がだ」

ステラ「今夜のこと、全部です」


虎は何も言わなかった。


口の端が、

少し上がっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「ナイトポップシティーを去りました」

虎「面白い街だった」

ステラ「また来ますか」

虎「機会があれば」

ステラ「……ミカンさんに怒られますよ、それを言うと」

虎「そうか」

ステラ「次回、何をしますか」

虎「決めていない」

ステラ「……久しぶりですね、それを聞いたのが」

虎「そうか」

ステラ「修行の旅の間は、次が決まっていましたから」

虎「もとの旅に戻った」

ステラ「はい。対応力修行の旅です」

虎「ただの旅だ」

ステラ「……おおむね、同じことです」

虎「おおむね、か」

ステラ「次回、『虎が、次の町を探す』」

虎「またどこかへ行くか」

ステラ「はい。黒牙の痕跡を追いながら、面白いものを探しながら」

虎「欲張りだな」

ステラ「虎様の影響かと」

虎「……責任を感じる」

ステラ「おおむね、虎様のせいです」

虎「おおむね、か」

ステラ「おおむね、です」

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