第31話「虎が、ライブを守る」
ライブ当日の朝、
街の広場に大きなステージが組まれていた。
ミカン「……でかいな、今回のステージ」
アップル「街の中央広場を使うのは初めてだから。いつもより三倍は広い」
レモン「集まる観客も、いつもより多くなる予定です。それだけ、歌の効果範囲も広がります」
ステラはステージを見上げた。
ステラ(……あそこで、歌う)
ステラ(虎様と出会ってから、初めてのことが多い。だが、これは特に初めてだ)
カシス「緊張してる?」
ステラ「……はい」
カシス「昨日より顔に出てる」
ステラ「そうですか」
カシス「……それでいい。緊張してない方が怖い」
虎がステージの周辺を歩いていた。
虎(広場の出入り口が四か所。ステージの背後に路地が三本。感染ヒューマノイドが来るとしたら、どこからだ)
ステラ「虎様、何か」
虎「周囲を確認している。ライブ中に感染ヒューマノイドが来る可能性がある」
アップル「来ると思う?」
虎「歌の効果が広がれば、ウイルスが反応するかもしれない」
ドラゴン「……その可能性は私も考えていた。ウイルスは、アンチウイルスに対して反応する性質があるかもしれない」
虎「お前たちは歌うことだけ考えろ。周りは俺が見る」
アップル「……ありがとう」
虎「礼はいい」
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開演時刻になった。
広場に、
人が集まっていた。
ステラ(……こんなに多いのか)
ステラ(人間とヒューマノイドが、混ざって並んでいる)
ステラ(この街では、それが当たり前なのだ)
アップルがマイクを持って、
ステージ中央に立った。
アップル「こんにちは! プリンシパルプリンシパルです! 今日は特別なライブをやります! 最後まで一緒にいてください!」
歓声が上がった。
六人が並んだ。
ステラは端から二番目に立った。
カシスが隣に来た。
カシス「……いくよ」
ステラ「はい」
音楽が流れた。
六人が歌い始めた。
虎は広場の端に立って、
周囲を見ていた。
虎(音が、広がっていく)
虎(ステラの声が、五人の声に混ざっている。昨日より、ずっとなじんでいる)
広場の空気が、
変わっていくのがわかった。
観客が、
引き込まれていく。
虎(これが、歌の力か)
その時、
広場の北の出入り口が、
ざわめいた。
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来た。
感染ヒューマノイドが、
三体、
北の出入り口から押し入ってきた。
観客が悲鳴を上げた。
虎は走った。
ステージで歌う六人の声が、
途切れなかった。
虎(続けろ。止まるな)
虎は三体の前に出た。
一体目が突進してくる。
虎は正面から受けて、
そのまま押し返した。
どごん。
一体目が吹き飛んだ。
二体目が横から来た。
虎は腕で払った。
ごん。
三体目が、
観客の方に向かおうとした。
虎は三体目の腕を掴んで、
引き戻した。
どごん。
三体、
動かなくなった。
観客が、
また歌に向き直った。
ステラの声が、
広場に広がっていた。
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東の出入り口から、
さらに五体来た。
虎(数が増えた)
虎(歌が広がるほど、反応している)
虎は五体に向かった。
一体、二体、三体と、
次々に押さえていく。
残り二体が、
ステージに向かおうとした。
ステラがステージの端から、
虎を見た。
ステラ(……虎様)
ステラ(歌いながら、見ている)
ステラは歌いながら、
指先に魔力を集めた。
細い魔力の糸が、
二体の足元に走った。
二体の動きが、
一瞬止まった。
虎はその隙に、
二体を押さえた。
どごん。
ミカン「ステラちゃん、歌いながら魔法使った!!」
カシス「……集中しろ」
ミカン「は、はい!!」
六人の歌が、
続いていた。
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南の出入り口から、
今度は十体以上が押し寄せてきた。
虎(多い。これは)
虎(ウイルスが、本格的に反応している)
観客が後退し始めた。
警備隊員「総員、対応!」
警備隊が動いたが、
数が多すぎた。
アップルがステージから虎を見た。
アップル「虎!!」
虎「続けろ。歌を止めるな」
虎は十体に向かった。
一体を払い、
二体を押さえ、
三体目を弾いた。
だが、
後ろからさらに来た。
虎(囲まれる前に、まとめて動かす必要がある)
虎は一歩踏み込んで、
魔法を足元に走らせた。
地面が揺れた。
感染ヒューマノイドの足が、
乱れた。
その隙に、
虎は一気に三体を押さえた。
どごん、どごん、どごん。
警備隊が残りを抑えた。
広場が、
また静かになった。
六人の歌が、
まだ続いていた。
そしてその歌が、
広場の空気に満ちていくにつれて、
押さえられた感染ヒューマノイドの目から、
赤みが引いていった。
ヒューマノイドA「……私、何を」
ヒューマノイドB「……どこ、ここ」
一人ずつ、
戻っていった。
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ライブが終わった。
広場の観客から、
大きな歓声が上がった。
ステラはステージの上で、
その歓声を聞いていた。
ステラ(……歌が、終わった)
ステラ(虎様が、守ってくれていた間)
ステラ(私は、歌えた)
アップルがステラの手を握った。
アップル「ステラちゃん、すごかったよ!!」
ミカン「歌いながら魔法使うとか、なに!? かっこよすぎ!!」
レモン「……感染ヒューマノイドの活動が、ライブ後半から急激に落ちています」
ドラゴン「六人の歌の共鳴が、想定より大きかった。ステラの魔力が、増幅させている」
カシス「……やっぱり、ステラが必要だった」
虎が広場を横切って、
ステージの前に来た。
アップル「虎! 大丈夫??」
虎「問題ない」
ステラがステージから降りて、
虎の隣に来た。
ステラ「……お疲れ様です、虎様」
虎「お前もな」
ステラ「……歌えました」
虎「聞こえていた」
ステラ「……どうでしたか」
虎「悪くなかった」
ステラは少し、
口の端を上げた。
ミカンが二人を見て、
また騒ぎ始めた。
ミカン「虎が悪くなかったって言った!! それ褒めてるんだよね!?」
虎「そうだ」
ミカン「やった!! ステラちゃんやったよ!!」
広場に、
笑い声が広がった。
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その夜、
レモンから報告が上がった。
レモン「感染ヒューマノイドの活動が、ライブ後から大幅に減少しています。ただ」
虎「ただ?」
レモン「街の外れで、異常な反応が検出されています。感染ヒューマノイドが一か所に集まっているようです」
ドラゴン「ウイルスが、個体を集めている」
カシス「……次の手を打ってくる気だ」
全員が、
静かになった。
アップルが虎を見た。
アップル「……明日、決着をつけないといけないかもしれない」
虎「そうだな」
虎は窓の外を見た。
夜の街が、
光っていた。
虎(面白くなってきた)
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深夜、
事務所にまだ全員がいた。
ステラが荷物から包みを取り出した。
ステラ「ライブ前に、買っておきました」
包みを開くと、
小さなサンドイッチが並んでいた。
この街の食材を使った、
具材たっぷりのものだ。
ミカン「ステラちゃん、こんなときに用意してたの!?」
ステラ「おおむね、大事な場面の前後には食事が必要だと学びました」
アップル「おおむね! かわいい!!」
虎は一つ食べた。
虎「……」
パンがふんわりして、
中の具材の旨みを受け止めていた。
肉と野菜と、
この街特有の魔力調味料が混ざって、
一口ごとに色々な味が来る。
食べ終わると、
体に力が戻る感じがした。
虎「……うまい」
ステラ「よかったです」
カシスが黙って一つ食べた。
カシス「……うまい」
アップルが笑った。
アップル「カシスが今日二回うまいって言った!!」
カシス「……明日のために食べてるだけだ」
ミカン「それでもすごい!!」
虎は部屋を見渡した。
六人が、
それぞれサンドイッチを食べていた。
虎(明日、最後の戦いになるだろう)
虎(だが今は、これでいい)
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「感染ヒューマノイドが、集まっています」
虎「ああ」
ステラ「最終決戦になりそうですね」
虎「そうだな」
ステラ「……合体モードを使いますか」
虎「使うことになるだろ」
ステラ「……備えておきます」
虎「ああ」
ステラ「一つ聞いてもいいですか」
虎「何だ」
ステラ「虎様は、怖くないですか」
虎「怖くない」
ステラ「なぜですか」
虎「面白い方が大きいからだ」
ステラ「……私も、そうなってきました」
虎「そうか」
ステラ「次回、『虎が、巨大ヒューマノイドと戦う』」
虎「ようやくだな」
ステラ「ようやく、ですか」
虎「来るとは思っていた」
ステラ「……虎様は、いつもそうですね」
虎「そうか」
ステラ「おおむね、先を見ています」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です」




