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虎無双、虎無双。  作者: BB
3章

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30/104

第30話「虎が、ライブの準備をする」

翌朝、

事務所のリハーサル室に全員が集まった。


広い部屋だった。

鏡が壁一面に張られていて、

音響設備が並んでいる。


アップル「じゃあ、今日からステラちゃんも入れて練習しよう!」

ミカン「六人体制!! なんか新鮮!」


ステラは部屋の中央に立って、

鏡に映った自分を見た。


ステラ(……六人で歌う)


ステラ(歌ったことが、ない)


カシスがステラの隣に来た。


カシス「緊張してる?」

ステラ「……していると思います。初めての感覚なので、これが緊張かどうかわかりませんが」

カシス「それが緊張だよ」

ステラ「そうですか」

カシス「最初はそんなもんだ。私たちも最初はそうだった」


虎は部屋の隅の椅子に座っていた。


ミカン「虎は見てるの?」

虎「ああ」

ミカン「練習、見るんだ。なんか照れるな」

虎「気にするな」

アップル「じゃあ、まず音合わせからいこう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初は、

ひどかった。


ステラが音を出すと、

五人の声と微妙にずれた。


アップル「……ちょっとずれてる」

ステラ「はい、わかります。ただ、どう直せばいいかが」

レモン「音程ではなくて、タイミングです。ステラさんは正確すぎる」

ステラ「正確すぎる、ですか」

レモン「歌は、少し揺れる方が自然なんです。機械的に正確だと、かえってずれて聞こえます」


ドラゴンが腕を組んだ。


ドラゴン「ステラの魔力は精密すぎる。歌も同じだ。もう少し、力を抜け」

ステラ「力を抜く」

ドラゴン「そうだ。完璧にやろうとするな」


ステラはしばらく考えた。


ステラ(……完璧にやらない)


ステラ(それは、どういうことだろう)


虎が部屋の隅から言った。


虎「将棋の最初の頃と同じだ」

ステラ「……将棋、ですか」

虎「力任せに動かすと、盤が崩れただろ。流れに任せるようにしたら、安定した」

ステラ「……なるほど」


ステラはもう一度、

音を出した。


今度は、

少し揺らした。


五人の声と、

重なった。


ミカン「あ! 合った!!」

アップル「そう! そんな感じ!」


ステラ(……なるほど)


ステラ(揺れることが、合わせることになる)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


午後になって、

六人で通して歌った。


最初から最後まで、

一度も止まらなかった。


部屋の空気が、

変わった気がした。


ドラゴンが目を細めた。


ドラゴン「……魔力が、共鳴している」

カシス「……ステラの魔力が、私たちの歌に乗ってる」

レモン「これが、アンチウイルスとして機能するかもしれません」


アップルがステラを見た。


アップル「ステラちゃん、どうだった?」

ステラ「……不思議な感覚でした」

アップル「不思議?」

ステラ「一人で音を出すのと、全然違います。六人の声が混ざったとき、自分の声がどこにあるかわからなくなった。でも、それが心地よかったです」


ミカンが目を輝かせた。


ミカン「それが合唱の醍醐味だよ!!」

レモン「……ミカン、落ち着いて」

ミカン「落ち着けない! ステラちゃんが合唱の醍醐味を感じた瞬間じゃん!!」


虎は椅子から立ち上がって、

部屋の中央に来た。


ドラゴン「……どうだった、虎」

虎「思っていたより、いい」

アップル「思っていたより、ってどういうこと!?」

虎「歌というものを、あまり知らなかった。だが、あれは確かに何かが変わる感触があった」

カシス「……虎がそう言うなら、本物だ」


カシスが珍しく、

少し笑みを浮かべた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕方、

レモンが深刻な顔で端末を見ていた。


レモン「……感染ヒューマノイドの数が、また増えています」

アップル「どのくらい?」

レモン「今朝の倍以上の目撃情報が入っています。しかも、今日は動きが速くて、警備隊が追いつけていない個体が複数いるようです」

ドラゴン「ウイルスが変化したのかもしれない」


虎「どんな変化だ」

ドラゴン「感染ヒューマノイドが、個体として強くなっているだけじゃなく、複数で連携するようになっているという報告がある」

虎(連携か)


虎(昨日の個体は、単純なパターンだった。それが変わったのか)


ステラ「大規模ライブを急いだ方がいいかもしれません」

カシス「明後日に予定していたけど、前倒しにするか」

アップル「明日にしよう」

ミカン「え、明日!? 準備できる?」

アップル「できる。今日の練習でわかった。六人でやれば、できる」


全員が顔を見合わせた。


それから、

頷いた。


レモン「わかりました。明日、決行します」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜、

事務所の近くのカフェに入った。


ミカン「ライブ前日は、絶対ここに来るんだよね」


テーブルに、

温かい飲み物と、

小さなケーキが並んだ。


ケーキの表面に、

星のような模様が光っている。


ミカン「スターケーキ! 縁起物なの! ライブ前に食べると成功するって言われてる」

アップル「ジンクスだけどね」

ミカン「ジンクスも大事!!」


虎は一口食べた。


虎「……」


ふわっとした生地だった。

甘みは控えめで、

上品だ。

中にクリームが入っていて、

それが蜂蜜のような濃厚な甘みを持っている。

星の模様の部分は砂糖が焼けていて、

かりっとした食感がアクセントになっていた。

全体として、

華やかだが重くない。


虎「……うまい」

ミカン「でしょ!? ライブ前に食べると元気出るんだよ!」


ステラも食べた。


ステラ「……甘みが、優しいですね」

カシス「……このケーキ、毎回食べると、なんとかなる気がする」

アップル「カシスがそういうこと言うの、珍しい」

カシス「……うるさい」


虎はカフェの窓から、

夜の街を見た。


光が溢れている。


その光の中を、

普通の市民が歩いている。


虎(この街の人間は、ヒューマノイドと一緒に暮らしている)


虎(それが当たり前になっている)


ステラが虎の隣に来た。


ステラ「虎様」

虎「何だ」

ステラ「明日、よろしくお願いします」

虎「ああ」

ステラ「……私は歌います。虎様は」

虎「守る」

ステラ「……はい」


ステラは窓の外を見た。


ステラ(この街のヒューマノイドを、守る)


ステラ(私と同じ存在を、守る)


ステラ(それは、いいことだ)


アップルが二人を見て、

にこっと笑った。


アップル「なんか、すごくいいコンビだね、二人とも」

虎「そうか」

ステラ「……おおむね、そうだと思います」

アップル「おおむね!?」


ミカンが笑い出した。


ミカン「ステラちゃんのおおむね、癖になってきた!」

ステラ「……そうですか」


カフェが、

笑い声に包まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ステラ「次回予告です」

虎「ああ」

ステラ「明日、ライブです」

虎「そうだな」

ステラ「……初めてのライブです」

虎「緊張するか」

ステラ「……します。ただ」

虎「ただ?」

ステラ「六人でやると思うと、それより楽しみの方が大きいです」

虎「そうか」

ステラ「虎様も、ライブ中は戦いになりますね」

虎「ああ」

ステラ「楽しみですか」

虎「ああ」

ステラ「……同じ答えでも、意味が全然違いますね」

虎「そうか」

ステラ「次回、『虎が、ライブを守る』」

虎「いよいよだな」

ステラ「はい。六人の歌と、虎様の戦い、同時進行です」

虎「面白そうだ」

ステラ「……虎様が面白そうと言うときは、いつも本当に面白いことになりますね」

虎「そうか」

ステラ「おおむね、そうです」

虎「おおむね、か」

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