第29話「虎が、街を守る」
翌朝、
事務所に全員が集まった。
レモンが端末を広げた。
レモン「昨夜の報告です。感染ヒューマノイドの目撃情報が、昨日だけで十二件ありました」
ミカン「十二件!? 増えてるじゃん!」
ドラゴン「昨日が八件だった。加速している」
アップル「虎、やっぱりまずいと思う。今日から本格的に動いてほしい」
虎「わかった。どこから動く」
レモン「感染ヒューマノイドの出現が多いエリアが、三か所あります。北の商業区、東の住宅区、南の港区です」
虎「一人で回れるか」
ステラ「私が情報収集と連絡役を担います。虎様が現場に向かい、私が次の場所を案内します」
虎「ああ」
カシスが静かに言った。
カシス「私たちは今日、小規模なライブをやる予定だった。中止にしようかと思っていたけど」
虎「やれ」
カシス「……やるのか」
虎「歌が効くなら、やった方がいい。俺が現場を抑えている間に、お前たちは歌え」
アップル「……そうだね。わかった」
ミカンが虎を見た。
ミカン「虎、一人で大丈夫? 昨日の感染ヒューマノイド、けっこう力強かったじゃん」
虎「問題ない」
ミカン「……なんか、言い方が頼もしすぎて逆に心配になるんだけど」
ステラ「虎様はそういう方ですので」
ミカン「ステラちゃんは慣れてるんだね」
ステラ「慣れています」
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北の商業区から始めた。
昼間の街は、
夜とはまた違う賑わいがあった。
屋台が並んで、
人が行き交っている。
ステラ「北の商業区で、昨夜から今朝にかけて三件の目撃情報があります。現在進行中の騒ぎは確認できていませんが」
虎「気配はある」
ステラ「……どこですか」
虎「路地の奥。二体だ」
路地に入った。
二体の感染ヒューマノイドが、
壁際に追い詰められた市民を囲んでいた。
市民「たすけ……!」
虎は一歩踏み出した。
感染ヒューマノイドが、
同時にこちらを向いた。
赤い目が、
二つ光った。
一体が突進してくる。
虎は片腕で受けて、
そのまま壁に押しつけた。
ごん。
もう一体が、
横から来た。
虎は振り返らずに、
反対の腕で受けた。
どごん。
二体とも、
動かなくなった。
市民「……あ、ありがとうございます……!」
虎「逃げろ」
市民「は、はい!」
ステラ「虎様、東の住宅区で新たな目撃情報が入りました」
虎「行く」
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東の住宅区では、
四体いた。
住宅の前で、
子供が泣いていた。
子供「……こわい、こわい……」
感染ヒューマノイドが、
子供の周りを取り囲んでいた。
虎(四体か。連携してくる可能性がある)
虎「ステラ」
ステラ「はい」
虎「子供を頼む」
ステラが動いた。
感染ヒューマノイドの間をすり抜けて、
子供の前に立った。
ステラ「大丈夫です」
虎は四体に向かった。
一体目、
右腕で弾いた。
二体目、
踏み込んで押さえた。
三体目が、
背後から来た。
虎は振り返りながら、
肩で受けた。
四体目が、
ステラに向かった。
ステラが子供を抱えたまま、
一歩だけ動いた。
四体目の腕が、
空を切った。
ステラ「虎様、四体目です」
虎「見えてる」
虎は四体目の腕を掴んで、
地面に押しつけた。
どごん。
全員、
動かなくなった。
子供が、
ステラを見上げた。
子供「……お姉ちゃん、ヒューマノイド?」
ステラ「はい」
子供「……やさしいね」
ステラ「……ありがとうございます」
ステラは少し、
口の端を上げた。
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南の港区に向かう途中、
遠くから音が聞こえてきた。
歌だった。
アップルたちの声が、
街に響いていた。
虎
虎(遠くからでも、届いてくる)
ステラ「感染ヒューマノイドの動きが、少し落ち着いているようです。ライブの効果が出ているかもしれません」
虎「そうか」
港区に着くと、
騒ぎはすでに収まりかけていた。
警備隊員が、
一体の感染ヒューマノイドを囲んでいた。
警備隊員「……動きが鈍くなってきた」
虎が前に出た。
感染ヒューマノイドの赤い目が、
歌のせいか、
さっきより薄れていた。
虎は静かに腕を押さえた。
ごん。
抵抗が、
昨日より少なかった。
警備隊員「……さっきまであんなに暴れてたのに」
虎「歌が効いている」
警備隊員「歌……プリンシパルプリンシパルのか?」
虎「そうだ」
警備隊員は少し黙ってから、
頷いた。
警備隊員「……あの子たちの歌、いつも街を明るくしてくれてるんだ。まさかこんな効果があったとは」
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夕方、
事務所に戻った。
全員が集まっていた。
アップル「どうだった?」
虎「七体、無力化した」
ミカン「七体!? 一人で!?」
虎「ステラが手伝った」
ステラ「子供の保護を一件だけです」
ミカン「それでも十分すごいよ!!」
レモンが端末を見ながら言った。
レモン「今日のライブ中、感染ヒューマノイドの活動が三割減ったというデータが出ています」
カシス「やっぱり、歌は効く」
ドラゴン「だが、ライブが終わったら戻った。一時的な抑制だ」
アップル「……根本的な解決が必要だよね」
カシスが静かに言った。
カシス「大規模なライブをやれば、効果が長続きするかもしれない。ただ、今の私たちの規模では限界がある」
沈黙が落ちた。
ドラゴンがステラを見た。
ドラゴン「……お前の歌声は、どうだ」
ステラ「私は歌いません」
ドラゴン「歌えないのか」
ステラ「……歌える、かどうかは、わかりません。試したことがないので」
ドラゴンはしばらく、
ステラを見た。
ドラゴン「お前の中の魔力は、かなり特殊だ。もしお前が歌えば、私たちの歌と共鳴する可能性がある」
全員が、
ステラを見た。
ステラ「……」
ステラは少し黙った。
それから、
虎を見た。
虎は何も言わなかった。
ステラ「……試してみます」
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ステラが、
小さな声で、
音を出した。
最初は単音だった。
それが少しずつ、
伸びていった。
ドラゴンの目が、
わずかに開いた。
ドラゴン「……魔力が、動いている」
音が、
部屋に広がった。
ミカン「……きれい」
アップル「……ステラちゃんの声、すごい」
ステラは少し後、
止めた。
ステラ「……おおむね、こんな感じですが」
カシス「……十分だ」
カシスが珍しく、
少し前に乗り出した。
カシス「ステラ、私たちと一緒に歌ってくれるか」
ステラはまた、
虎を見た。
虎「お前が決めることだ」
ステラはしばらく、
黙っていた。
それから、
頷いた。
ステラ「……わかりました」
アップルが、
ぱっと顔を明るくした。
アップル「やった! 六人でやろう!!」
ミカン「六人になった!!」
虎は六人を見た。
虎(面白くなってきた)
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夜、
事務所の近くの屋台で、
軽く食べることになった。
屋台に並んでいたのは、
串に刺した光る肉だった。
ミカン「グロウミート! さっきのグロウボールの肉バージョン!」
アップル「魔力を帯びた魔物の肉を、魔力炭火で焼くの。この街の定番だよ」
虎は一口食べた。
虎「……」
外がぱりっとして、
中からじゅわっと肉汁が来た。
魔力炭火の香ばしさが、
肉全体に染みている。
噛むほどに、
魔力を帯びた肉特有の深い旨みが出てきた。
甘みもある。
後味に、
じんわりとした力強さが残った。
虎「……うまい」
ミカン「でしょ!? 私これ毎日食べてるよ!」
レモン「食べすぎです、ミカン」
ミカン「うるさい!!」
ステラも食べた。
ステラ「……炭火の香りが、肉の旨みを引き立てていますね」
虎「そうだな」
カシスが静かに一本食べた。
カシス「……うまい」
それだけ言って、
また黙った。
アップルが笑った。
アップル「カシスがうまいって言った! 珍しい!」
カシス「……うるさい」
虎は二本目を食べながら、
六人を見た。
虎(賑やかだ)
虎(悪くない)
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「ステラが歌うことになりました」
虎「そうだな」
ステラ「……緊張しています」
虎「緊張するのか」
ステラ「……初めての感覚です」
虎「そうか」
ステラ「虎様は、緊張しますか」
虎「しない」
ステラ「……羨ましいですね」
虎「緊張は悪いことじゃないだろ」
ステラ「……そう、ですか」
虎「初めてのことには、緊張するものだ。一万年前の俺も、最初の戦いは少し違う感触があった」
ステラ「……それが緊張だったのですか」
虎「そうかもしれない」
ステラ「次回、『虎が、ライブの準備をする』」
虎「六人でやるのか」
ステラ「はい。おおむね、うまくいくと思います」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。……うまくいかせます」
虎「そうか」
ステラ「はい」




