第28話「虎が、プリンシパルプリンシパルと会う」
アップルに連れられて、
大通りを外れた。
路地を抜けると、
大きなビルの裏口があった。
アップル「ここ、私たちの事務所。裏から入るね」
扉を開けると、
廊下が続いていた。
突き当たりに、
銀色の扉があった。
アップルが扉の横のボタンを押した。
チン、という音がして、
扉が開いた。
アップル「エレベーター。乗って」
虎は扉の中を覗いた。
虎「……箱か」
アップル「そう。上の階に行ける」
虎「この箱が動くのか」
アップル「動く。大丈夫だから乗って」
虎は少し間を置いてから、
箱の中に入った。
狭かった。
ステラ「……虎様、体が壁に当たっています」
虎「わかってる」
アップル「ごめん、虎には少し小さいかも……」
扉が閉まった。
箱が、
上に動き始めた。
虎「……」
ステラ(……虎様の耳が、少し動いた)
ステラ「虎様、大丈夫ですか」
虎「問題ない」
ステラ「……耳が動いていましたが」
虎「気のせいだ」
アップル「エレベーター、初めて?」
虎「ああ」
アップル「どう?」
虎「……不思議な感覚だ」
アップル「怖い?」
虎「怖くはない。ただ、体が地面から離れる感触が、跳ぶときと違う」
チン、という音がして、
扉が開いた。
アップル「着いたよ」
虎は扉から出た。
ステラも出た。
ステラ「……便利ですね」
虎「そうだな」
ステラ「次からは平気ですか」
虎「最初から平気だ」
ステラ「……耳が動いていましたが」
虎「気のせいだと言った」
アップルが小さく笑った。
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突き当たりの部屋に、
四人いた。
一人が虎を見て、
椅子から転げ落ちた。
茶髪の少女だった。
ミカン「でかっ!! なにこれ!! アップル、これ虎じゃん!! 本物の虎じゃん!!」
アップル「ミカン、うるさい。そうだよ、本物の虎だよ」
ミカン「なんで虎がいるの!?」
アップル「助けを呼びに行ったって言ったじゃん」
ミカン「いや虎って聞いてないよ!? 人の名前だと思ってたよ!?」
隅で、
銀髪の小さな少女が腕を組んでいた。
低身長で、
ツインテールが揺れている。
緑の服を着ていた。
ドラゴン「……まあ、強そうではある」
アップル「ドラゴン、何か言ってあげてよ」
ドラゴン「何を言えばいい。事実だろ」
背の高い少女が、
ゆっくり立ち上がった。
垂れ目で、
黄色い服を着ている。
レモン「……はじめまして。レモンといいます。よろしくお願いします」
落ち着いた声だった。
虎「ああ」
最後の一人が、
窓際に座っていた。
紫の髪に、
黒い服。
静かな目で、
こちらを見ていた。
ステラ(……紫髪だ)
ステラ(私と同じ色だ)
カシス「カシスです。よろしく」
短く言って、
また窓の外を向いた。
虎は四人を見回した。
虎「プリンシパルプリンシパル、か」
アップル「そう! 私たちがプリンシパルプリンシパル! 知ってた?」
虎「壁の画面で見た」
ミカン「え、もう見てくれてたんだ!」
虎「偶然だ」
ミカンが、
ステラをじっと見た。
ミカン「……あなたがステラ? ヒューマノイドなの?」
ステラ「はい」
ミカン「この街のヒューマノイドと、なんか雰囲気が違うね」
ステラ「型が古いと言われました」
ミカン「え、そういうこと言ったわけじゃないけど……なんか、こう、独特な感じ?」
ドラゴンがステラに近づいた。
ドラゴン「……この街のヒューマノイドより、魔力の流れが複雑だ」
ステラ「そうですか」
ドラゴン「私は魔力を見る目がある。お前の中の魔力、市販品じゃない」
ステラ「……詳しいですね」
ドラゴン「興味があるだけだ」
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テーブルに、
全員が集まった。
アップル「改めて説明するね。この街で起きていること」
アップルが、
手元の端末を操作した。
画面に、
街の地図が映し出された。
アップル「ウイルスの感染ヒューマノイドが、最近急激に増えてる。最初は数体だったけど、今は街のあちこちで報告されてる」
ミカン「普通のヒューマノイドは突然目がおかしくなって、人間に突っかかるようになるの。怖いよね」
ステラ「……自然発生したウイルスですか」
アップル「そう。原因は不明。でも、感染が広がってる」
ドラゴン「街の警備隊も対応しているが、感染ヒューマノイドは通常より力が強い。手こずっている」
虎「俺に何をさせたい」
アップル「感染ヒューマノイドを、止めてほしい。警備隊が対応できないレベルの個体が、何体か出てきてる」
虎「倒せばいいのか」
アップル「……倒すというより、無力化してほしい。ヒューマノイドは元は普通の市民だから」
レモンが静かに口を開いた。
レモン「私たちの歌に、ウイルスに対する抑制効果があることがわかっています。ライブをするたびに、感染ヒューマノイドの動きが一時的に収まるんです」
虎「一時的に、か」
レモン「はい。根本的な解決にはなっていません。でも、ライブの規模を大きくすれば、もっと効果が出るかもしれないと」
カシス「……仮説だけど」
カシスが静かに続けた。
カシス「私たちの歌は、元々ヒューマノイドの感情を安定させる魔法的な効果を持っている。それがウイルスのパターンを乱している可能性がある」
ステラ「……歌がアンチウイルスになる、ということですか」
カシス「そういうことだと思ってる」
虎「まず、現場を見たい」
アップル「え?」
虎「話を聞くより、見た方が早い」
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夜の街を、
全員で歩いた。
ミカン「……虎と歩くの、なんか楽しいね。みんな二度見してく」
虎「いつものことだ」
ミカン「慣れてるんだ!」
ドラゴンがステラの隣に並んだ。
ドラゴン「……さっきの話の続きだが」
ステラ「何でしょう」
ドラゴン「お前の中の魔力、誰かの影響を受けている。一万年以上の重さがある」
ステラ「……よくわかりますね」
ドラゴン「虎か」
ステラ「……おおむね、そうかもしれません」
ドラゴン「そうか。面白い」
大通りに出ると、
騒ぎが起きていた。
人々が、
後退している。
その中心に、
目が赤く光ったヒューマノイドが立っていた。
警備隊が、
取り囲んでいる。
警備隊員「動くな! 落ち着け!」
感染ヒューマノイドが、
警備隊員を弾き飛ばした。
どごん。
ミカン「あれが……感染ヒューマノイド」
レモン「最近、力が強くなってきています」
虎はその場に出た。
感染ヒューマノイドが、
虎を見た。
赤い目が、
こちらを向いた。
感染ヒューマノイドが、
突進してきた。
虎は一歩踏み出して、
両腕を受けた。
ごん。
感染ヒューマノイドが、
止まった。
虎(力はある。だが、制御がない。パターンが単純だ)
虎はそのまま、
感染ヒューマノイドの腕を抑えて、
地面に押さえつけた。
どごん。
感染ヒューマノイドが、
動かなくなった。
アップルが歌い始めた。
小さな声だったが、
不思議な響きがあった。
感染ヒューマノイドの目の赤みが、
わずかに薄くなった。
ミカンがアップルに並んで、
一緒に歌い始めた。
赤みが、
さらに薄くなった。
レモン「……やっぱり効いている」
カシス「……でも、一体だとこの程度か」
虎は感染ヒューマノイドを見た。
目が、
通常の色に戻りつつあった。
ヒューマノイド「……私、何を」
虎は手を離した。
ステラはそれを見ていた。
ステラ(……同じヒューマノイドが、戻ってきた)
ステラ(これが、歌の力か)
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事務所に戻って、
全員でテーブルを囲んだ。
アップルが、
袋を持ってきた。
アップル「お腹すいたでしょ。この街の名物、買っておいたから」
中から出てきたのは、
小さな球形の菓子だった。
表面が、
光るように輝いている。
ミカン「グロウボール! これおいしいんだよ!」
アップル「魔力砂糖でコーティングされてて、食べると口の中で光るの」
虎は一つ食べた。
虎「……」
最初に、
サクッとした食感。
甘みが弾けた。
砂糖の甘さだが、
それより複雑で、
魔力が混ざった独特の甘みだ。
中はしっとりとした生地で、
果実の香りがする。
食べ終わると、
口の中がほんのり温かかった。
虎「……うまい」
ミカン「でしょ!? この街来たら絶対食べてほしかったんだよね!」
ステラも食べた。
ステラ「……甘みが、光っている感じがします」
ミカン「わかる! そういう感じあるよね!」
虎は部屋を見渡した。
五人が、
思い思いに話している。
ドラゴンがステラと何かを話している。
カシスが静かに菓子を食べている。
レモンが端末を見ている。
ミカンとアップルが騒いでいる。
虎(面白い奴らだ)
虎(それぞれが、違う)
アップルが虎を見た。
アップル「……頼んでよかった。来てくれて、ありがとう」
虎「まだ何もしていない」
アップル「でも、来てくれた。それだけで、違う」
ミカン「ねえねえ、虎ってどこから来たの?」
虎「遠いところだ」
ミカン「どのくらい遠い?」
虎「一万年分だ」
ミカン「……意味わかんないけど、すごそう」
カシスが静かに言った。
カシス「……一万年前から生きているということ?」
虎「眠っていたが、そうだ」
カシス「……そう」
カシスはまた、
黙って菓子を食べた。
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ステラ「次回予告です」
虎「ああ」
ステラ「プリンシパルプリンシパル、個性的なメンバーでしたね」
虎「そうだな」
ステラ「ドラゴンさんに、魔力を見られました」
虎「何と言われた」
ステラ「虎様の影響を受けていると」
虎「そうか」
ステラ「……否定しませんでした」
虎「否定する理由がないからか」
ステラ「……そういうことです」
虎「次の予告をしろ」
ステラ「次回、『虎が、街を守る』」
虎「本格的に動くか」
ステラ「感染ヒューマノイドが、増えているようです」
虎「そうか」
ステラ「……おおむね、大変な回になりそうです」
虎「おおむね、か」
ステラ「おおむね、です。ただ」
虎「何だ」
ステラ「……面白そうでもあります」
虎「そうだな」




